2-6 憂鬱1
王都に行く準備が進んでいたとある夜、お風呂も済ませて後は寝るだけになったので、メイジーにおやすみの挨拶をしようと声をかけた。
「それじゃ、もう今日は大丈夫よ。いつもありがとう、おやすみなさい」
ちなみに彼女の私室は、この部屋の隣に設けられている。お祖父様が“リーディアが寂しくないように”と配慮して下さったのだ。
事実、最初の頃はお城の近くにある深い森や、その向こうの高い山から聞こえる風の音や木々のざわめき、獣の声が怖くて彼女に夜通し一緒に居てもらったこともある。
これはお兄様には話してないけれども。
部屋の隅に控えていたメイジーは、声をかけられても退出せず、ベッドに腰掛ける私の前に跪いて、そっと手を取った。
「恐れながら姫、悩み事があるのでは?‥‥なぜ塞ぎ込んでいらっしゃるのですか?」
隠していたつもりだったのだけれど、この4年間ずっと側で守ってくれていた彼女には隠せていなかったらしい。
お兄様に再会できるのは嬉しい。でも学園に入学すると言うことは、あのゲームの始まりを意味している。
“綾”として何度もプレイした、水の王子ディランとヒロインが結ばれる未来があるかもしれない‥‥と思うと、知らずため息が出てしまう。私は目を伏せた。
メイジーが気遣うように続ける。
「2年離れていたとは言え、若様なら何も問題ないと思いますが?」
「ええ、今のお兄様を疑ってる訳じゃないわ」
お兄様との関係は良好だし、問題は、私と同学年の主人公が入学した後なのだから。
「“今の”と申しますと‥?」
視線を上げると、心配顔のメイジーと目が合った。私が迷っているのを感じたのか、彼女はさらに続ける。
「些細なことでも構いません。私を信頼して頂いているのであれば、姫の胸の内を話してくださいませんか?」
‥‥そうね、話してみようかしら。契りを交わした私の騎士にここまでお願いされたら、何も説明しないと言う選択肢はないわ。
「メイジー、隣に座って。聞いて欲しい話があるの」
「かしこまりました」
隣に寄り添った彼女に、手を握ってもらう。
「あのね、信じて貰えるか分からないけれど‥‥」
「私が姫の話を信じないなど、ありえません」
真剣な顔でそう断言するメイジーに励まされ、私は夢の話をした。
お兄様と主人公が愛を育む場面で少し声が震えたりもしてしまったけれど、彼女は相槌を打ちながら、最後まで聞いてくれた。