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カリス公爵令嬢は幸せになりたい  作者: 成海さえ
第四部 魔法学園三年生(17歳)の冬〜春
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番外編1 ベネット閣下と()再び

 初夏の頃、ベネット閣下がアルカナの王都をご訪問された際に、このカリス辺境伯領の視察もご希望された。王宮から転移ゲートを使われるそうで、祖父母と共に私もお出迎えするようにとお父様から指示があった。


◇◇◇


「まあお嬢様、大変お似合いでございます」

 私の支度を整えたアルマが満足そうに頷いた。


 鏡に映った私は胸の下で切り替えのあるマタニティドレスを着用して、肩まで伸びた髪には閣下から贈られた髪飾りを付けている。


「その髪飾り、素敵ね」


 目の肥えているお祖母様からも褒められ、私は笑顔を保ちつつ少し息を吐いた。国賓だもの、ちゃんとおもてなしするわ。


「エリアナ様、こちらはベネット閣下から頂いたものなんです」

 それを聞いたお祖母様は、私の態度から何かを理解したように頷いた。


「そう‥‥リーディア、何かあれば私を頼ってね。気にかけておくわ」

 さすが、頼りになるわ。お礼を申し上げたら、ぽんぽんと背を優しく撫でられた。




 祖父母と共にお城の転送部屋でお待ち申し上げていると、装置が作動する音がして、光の中から白い騎士服のベネット閣下と従者が数名、姿を現した。


「モンテネール聖神国のベネット大公閣下にご挨拶申し上げます」

 私も祖父母に倣ってお辞儀をする。


「御三方とも顔を上げて下さい。突然の訪問で申し訳ない」

「いえ、カリス辺境伯領は閣下を歓迎致します。ご予定は伺っておりますので、こちらへどうぞ」

「ええ、お世話になります‥‥その前に、少し良いだろうか?」


 ベネット閣下は祖父母の後ろに控えていた私の前に立った。髪の短くなった様子を確認して、眉をひそめる。


「リーディア嬢‥‥体調は?」

「おかげさまで、元気になりましたわ。お見舞いのお品も、ありがとうございました」

「いや、礼には及ばぬ。私とあなたは友人だからね‥‥遅くなったが、御懐妊おめでとう」

「ありがとうございます」

「また改めてお祝いの品を贈るとしよう‥‥髪飾りも付けてくれたのだな、よく似合っている」


 嬉しそうに微笑んで告げられ、とりあえず笑顔をキープしていると、


「まあ閣下、私の孫娘を気遣っていただき、感謝申し上げます。客室へご案内いたしますので、こちらへどうぞ」


 エリアナ様が会話に入って下さったので、閣下もようやく私の前から移動する気になられたようだった。色々報告を受けていらしたのね。




 閣下のスケジュールが押しているらしく、視察を終え、辺境伯城に戻られてすぐに、モンテネールで行なわれている天使の祝福を私にも授けたいと申し出て下さった。


「せっかくだから、お受けしたら?」

 エリアナ様の勧めもあり、お願いすることにした。閣下は申し訳なさそうな表情で仰る。


「急がせて済まない。少しでもあなたと子供を守れたらと思って」


 好意を向けられたと思って困惑していたけれど、本当に友人として心配して下さっているのかしら。だったらこの髪飾りも、他意はなかったのかもしれない。

 私は言われた通り椅子に座り、その前に立った閣下が守護天使の名を呼んだ。


『ケルビエル』


 広げた閣下の手に光が集まり、その体の中へ消えた。長身の彼が膝をついて両手でそっと私の手を取る。指先に口付けられた。


『あなたと御子に、祝福を‥‥神のご加護が在らんことを』


 声も変わるのね? この声には聞き覚えがある。例の入れ替わりの際にお世話になった天使様だわ。

 天使様がお顔を上げられたので、目が合った。青い瞳で優しく微笑まれてしまい、その美しさに頬が熱くなる。


 でも、今更だけど、こう言う祝福系って受ける方が膝をつくイメージなのだけれど、これで合っているのかしら?

 そんなことを考えていると、お声がけがあった。


『あなたがお元気になられて、あの方もお喜びですよ』


 天使様は立ち上がり、再び両手を広げて目を閉じた。お帰りになられたようだ。


「ありがとうございました、閣下」


 お礼を申し上げたら、後で客室にお茶を持って来てほしいと頼まれてしまった。


「あなたの好きなハーブティーを、二人ぶんお願いします」


 側に控えているエリアナ様を確認すると笑顔が返って来たので、お受けする。


「かしこまりました」


 賓客のお願いは叶えたいものね。メイジーとルディにも付いて来て貰おう。


◇◇◇


 閣下のご依頼なので自分でお茶の準備をしていたら、エリアナ様が厨房に入って来られた。ニコニコ微笑んでいらっしゃる。


「リーディアの心配は、大丈夫みたいよ?」

 そうなのかしら? 人生経験豊富な方のご意見だから、そうかもしれないわ。


「失礼します」

 準備を終えてティーワゴンを押し、客室に入る。


「ふふ、あなたにお茶を淹れて貰えるなんて、贅沢だな」


 嬉しそうな閣下にティーカップをお出しして、勧められたので失礼して私も向かいのソファーに座る。後ろにはメイジーとルディも控えていた。


「実は、ケルビエルからこちらをあなたに渡すよう頼まれていてね‥‥ご存知だろうか?」


 閣下の合図で、従者の騎士がペット用の籠を差し出した。閣下が覆いを取ると、中にお座りしている動物が見える。


「あれ? 使者様じゃないですか! 戻っていらしたんですね!」


 ルディが嬉しそうに駆け寄り、失礼しますと籠の中の青い毛並みの猫を抱き上げた。


「お嬢様、良かったですね。はいどうぞ」

 ルディが猫を私に渡そうとする。


 お兄様以外の人には本当の事を話していないけれど、何となく使者様は役目を終えられて精霊界に戻ったのだろうと言う雰囲気になっていた。


 目の前の高貴すぎる猫に恐れ多くて触れてもいいのか躊躇われたけれど、皆がこちらを注目しているため、笑顔で受け取った。にゃあと甘えるように頬を擦り寄せられる。


「やはり、あなたに縁のある猫だったんだね‥‥この青い猫は、私からの結婚祝いと言う事でいいかな? ケルビエルからもそうして欲しいと頼まれているんだ」

「ええ、ありがとうございます」

 腕の中の猫と目が合う。


「えっと、唯‥‥」

 皆がいるし、唯一神様とは言えないわ。


「‥‥使者様?」

「にゃーん」


 猫は金の瞳を細めて満足そうに鳴いた。使者様と言う事で良さそうだ。


「私の天使も気にかけているから、いつかその子を連れて私の国へ遊びに来てくれないかな?」

 お断りする訳にもいかないので、笑顔のまま曖昧に頷いた。


「そう、良かった‥‥私はいつでもいいので、連絡を待っているよ」

 とても素敵な笑顔をされたので、やっぱり困ってしまう。そんな私の心を読んだのか、閣下は楽しそうに笑って仰った。


「ついでに言っておくが、私のあなたに対する好意は、俗に言う“推し”に対するものに似ているな。エストリアの前皇帝と同じだよ。見返りは全く求めていないから安心して欲しい」


 そうなのね? 私がホッとするのを眺めて、閣下はまた笑っていらっしゃった。




「なぜ使者様は猫のままなんだろうな?」


 私の部屋に戻ったあと、メイジーが疑問を呟く。

 私はソファーに座って休憩中だ。つわりは治まったけれど、今はお腹が大きくなる時期で、足も若干むくんでいる。

 使者様は隣に座り、私のお腹を眺めていた。


「俺、思うんですけど」

 ルディが考察を述べる。


「お嬢様の中身が入れ替わった時も、使者様は猫のままだったじゃないですか? 傍観者という立場で直接の関与は禁止されているので、“自分はただの猫ですよ、側に居るだけで何もしてませんよ”ってアピールしているんだと思います」


「にゃーん」

 使者様のお返事があったので、間違ってはいないのかもしれない。


「では、なぜモンテネールの天使が連れて来たんだ?」


 メイジーの次の疑問に、ルディがうーんと考えている。私には分かる、それはこの方がケルビエルさんの上司だからだわ。


「‥‥それは、単純に使者様とケルビエルさんが知り合いだったんじゃないですか? お嬢様の上級精霊扱いにしたら、また神殿がうるさそうですし」

「にゃーん」

 これも、間違ってはいないわ。


「精霊と天使の横の繋がりもさっぱり分からんな」

「ただの人間に分かるはずがありませんよ」


 それもそうね、私もどちらかと言えば分かりたくなかったわ。


◇◇◇


「そうなんだ‥‥それで、使者様は?」


「専用の客室に入られているわ。ずっと猫のままでいらっしゃるから、お布団やベッドなんかも全部猫用のものを揃えようかと話しているの」


「そう、よほど君が心配だったんだね」

 お兄様は諦めたように笑っていた。


「良い方に受け止めよう。きっと、君と子供を守って下さるはずだよ」

「ええ、そうね」

 彼が私のお腹をそっと撫でる。


「僕の子供は今日も元気でいてくれたかな?」

「お父様ですよ、分かるかしら?」


 話しかけたら、トントンとお腹を蹴る動きがあった。お兄様と目を合わせ、笑い合う。


「会える日が楽しみだな」

「そうね、そろそろお名前も考えようかしら」

「そうだね」


 お兄様に子供ごと抱きしめられる。


「リーディアの子がたくさん居れば、転生した僕も寂しくないかな」

「そうね、分かったわ。たくさん作りましょう!」


 即答すると、彼が笑っているのが体に伝わる。


「君のそう言うところも大好きだよ」

「私も、ディラン様を愛してるわ」

「うん」


 初夏の夜も、この先もずっとディラン様と一緒に過ごしたい。いつも守ってくれた彼の腕の中で、顔を見合わせて笑い合った。

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