Ⅳ-15 結婚式2
「リーディア、今日はお疲れさま」
懐かしい部屋は、私の希望で夫婦の寝室として内装が変わっていた。でも、暖炉や窓の位置はそのままだ。
「ディラン様も、お疲れさま。とても楽しかったわ」
「そうだね」
お兄様の隣に座ると、微笑みかけられる。彼は、ガウンをきっちり着込んでいる私を見て少し笑った。
「それで、今回はどうしたの?」
「うん‥‥」
そうなりますよね? だって前もこんな事があったもの‥‥
「あのね、ディラン様」
「うん」
まだお話ししてないのに、お兄様はもう笑っている。
「イブリン様から、二人にってプレゼントが届いたの」
私は思い切ってガウンを脱いだ。純白のナイトドレスは丈が短くて露出も多く、デザインも少し違うけれど、手編みのレースの感じなどがウエディングドレスにそっくりだった。
「ふふ、よく似てるね。用意するのも大変だったろうに。メッセージは付いていた?」
「ええ、“早く子供を作るといい”ですって」
「まあそうだよね‥‥この度の件で、精霊の乙女の基準についても報告を受けていらっしゃるんだろうな」
最近はルイス様の相談にも乗っておられるみたいだし、色々心配して下さっているのね?
そう考えていたら、お兄様に抱き寄せられた。
「本当に、君は色んな人に愛されているよね」
溜息をついているこの感じは、いけないわ。
「イブリン様はお祖母様達を通してだし、後は血縁関係とか、どなたかの紹介で知り合ったりで‥‥偶然が重なっただけよ?」
「‥‥そうだね」
目が笑ってないわ。今夜は初夜なのに‥‥そう言えば、誕生日に迎えた初夜もひどかったわ。思い出すと恥ずかしくなって目を閉じる。
「‥‥リーディア?」
目を開けたら、お兄様が不思議そうに私をご覧になっていたので理由を話した。
「入籍した日の夜を思い出していたの。子供だったなぁって‥‥今日とあの日、どちらを初夜と呼んだらいいのかしら?」
「ああ、リーディアの誕生日だったね」
彼も思い出したのか表情が柔らかくなり、くすりと笑う。
「夫婦になって初めての日と言う意味では前回だけど、僕達が良ければ今夜でもいいんじゃないかな? それにしても、成長したねリーディア」
お兄様の機嫌が直ったようで良かったわ。
「おかげさまで」
「うん」
頬にキスされる。そして、私の肌を柔らかく覆っている純白のナイトドレスに改めて視線を落とした。
「このレース、綺麗だね。リーディアの肌の上に白い花が咲いたみたいだ。もっと見せて」
お兄様に触れられるたびに、私の中の精霊の血が喜んでいるのが分かる。やっぱり私の心も身体もお兄様が大好きなのだわ。
翌朝、目を覚ますとまだお兄様は寝ていらした。
頭を撫でても起きる気配がない。細身に見えてもちゃんと筋肉がついている腕がお布団から出ていたので、そっと掛け直す。
室内はまだ暗かった。お水でも飲もうと起き上がったら、ウエストに腕が回った。
「‥‥リーディア、起きたの?」
少し掠れた声がする。
「ええ、まだ夜明け前だから、お水を飲んだらもう一度寝るわ」
「寝ないで」
「ん?」
「起きていて」
引き寄せられたので、彼の上に倒れ込んでしまった。と思ったら、天地が逆転する。
「リーディア、愛してるよ」
お兄様って、以前と比べると、自分を抑えないようになった気がするわ。だけど、これまでが我慢しすぎたのよね?
上から見つめる彼の頬を撫でると、嬉しそうに微笑まれる。
「もう、誰にも渡さない」
身に付けていたドレスの袖が肩から落とされる。誰にもって‥‥私はずっとお兄様のものだったと思うのだけれど。
そんな考えも、キスが始まって溶けて消えた。




