Ⅳ-14 結婚式1
15歳の誕生日に入籍をして、お披露目も誕生日を兼ねた内輪だけの簡単なパーティーだったので、私が学園を卒業したタイミングで結婚式を挙げようと話し合っていた。
式はカリス領にある水の精霊神殿で行い、そのまま馬車でパレードをしながら公爵邸へ戻る予定だ。
ドレスや招待客等の準備があるため、お式は春になってから行われた。
カミラ様もご招待したかったけれど、長時間の馬車移動は陛下から許可が下りなかったようで、謝罪のお手紙と贈り物が届いた。
代わりにイブリン様がご出席下さるそうだ。
辺境伯城にも、続々と贈り物が届いていた。
「まあ、今日もたくさん届いたわね」
祖母のエリアナ様が、リストを見ながら笑っている。
「一部屋で足りるかしら?」
「若は次期カリス公爵ですし、姫はこの国を救った英雄ですからねぇ。これくらい当然でしょ」
仕分けを手伝いながらレオが言う。
物がこんなにあっても使わないので、お兄様と相談して寄付できるものはそのまま先方へお渡ししようと言うことになっている。
もちろん、普段親交がある方からのプレゼントは大切に取っておくつもりだ。
「あ、エストリアの前皇帝陛下からですよ」
ルディがそう言って、お手紙と一緒にラッピングされた箱を渡してくれた。軽いけれど、何かしら?
「ありがとう」
椅子に座り、まずはお手紙を読む。イブリン様らしいそのメッセージに笑いながらプレゼントを開封した。
◇◇◇
春の晴れた日に、式は順調に行われた。
私のドレスは、アルカナの民族衣装に使用される手編みのレースと刺繍を贅沢に使ったマーメイドラインのものを選んだ。
肌はあまり出さず、デコルテから首、肩から手の先まで素肌の上を上品な白いレースで覆っている。
「リーディア、綺麗だよ」
そう言って腕を差し出してくれるお兄様も、白い騎士服を着用していた。似合いすぎていて、見つめられるとドキドキしてしまう。パレードの際は、この上にカリス公爵家を現すブルーのサッシュを肩から斜めがけにする予定だ。
新婦の付き添い人、ブライズメイドには、ワンズの双子姫とイルゼ嬢が立候補して下さった。みんなでお揃いのワンピースを着用されており、注目を集めている。
フラワーガールは、第二王女殿下がどうしてもやりたいと仰ったので、お任せした。長い金髪をツインテールにしたお姿は、女装したルイス様そっくりだ。お得意の風魔法で、花びらの滞空時間がとても長くなっている。
「病める時も健やかなる時も、妻として愛し 敬い、慈しむ事を誓いますか?」
「誓います。そして妻と共に、この辺境伯領を含めたカリスの地を生涯守ると約束します」
お兄様の宣言に、お祝いに駆けつけた領民が沸いた。
「では、誓いのキスを」
私のベールが持ち上げられ、お兄様が顔を傾けて触れるだけのキスをした。その様子に皆が見惚れ、会場が静まりかえる。
「リーディア、愛してるよ」
綺麗な青い瞳に私を映してお兄様が微笑む。参列者の拍手と祝福の言葉が一斉に始まった。“若様ステキ! 抱いて〜!”と言うレオの声も聞こえる。お兄様も気付いたのか笑っていらした。
お式が終わると、煙の色や光を楽しむ昼花火が上がった。これはペンタクルス領に戻ったシリル様からの贈り物だ。ハート型に開く可愛い花火もあって、相変わらず乙女心を掴むのがお上手だわと思ってしまう。
同じ空に虹もかかっていた。メイジーのお祖母様からのお祝いだ。
パレードの間は、街の人々が事前に配られたであろう花びらや紙吹雪を撒いてくれていた。ふわふわ舞いながらゆっくり落ちていく景色がとても綺麗で、笑顔になって手を振った。
懐かしいカリス公爵邸に戻り、久しぶりに両親と少し早い夕食を取った。私を想い、たくさん涙を流して下さったお母様も、今は落ち着いて笑顔になっている。
「ようやくリーディアもゆっくりできそうね」
「そうだな、これまで何十年も平穏だったのに、ディランの代になってから試練や事件が続いたな」
お父様とお母様が話していらっしゃる。
「ディランがこの瞳を持って生まれたのも、意味があったのかもしれないな」
「そうね‥‥最初見た時は驚いたけれど」
お母様が思い出したように微笑んだ。
「あの時は、神殿にディランを取り上げられそうになったから、辺境伯のお父様が怒って水の中央精霊神殿に単身で乗り込んで行かれたのよ」
「はは、そんな時もあったな」
もう笑い話なのね? 私はお兄様と顔を見合わせた。
「旅行には行く予定なの?」
お母様に尋ねられ、お兄様が答える。
「僕も纏めて休暇を取っているので、しばらくこのカリス領でのんびりしようかと」
「それもいいわね。二人で羽を伸ばすといいわ‥‥お父様のお仕事があるから私達は王都に戻るけれど、たまにはリーディアも顔を見せに来てね?」
「ええ、お母様」
そんな楽しい時間を過ごして、夜になった。




