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カリス公爵令嬢は幸せになりたい  作者: 成海さえ
第四部 魔法学園三年生(17歳)の冬〜春
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Ⅳ-11 デート

 今しか見られない絶景ポイントがあるそうなので、お兄様と訪れる事にした。


 そこはカリス領の外れの私有地だけれど、一般にも開放されているらしい。

 当日は辺境伯領との境目にある街まで馬車で行き、その先はお兄様と二人で馬に乗って観光する予定だ。




 防寒のためもこもこになった私へ、馬上からお兄様が手を伸ばす。


「はい、おいで、リーディア」


 普段はあまり見られないお兄様の乗馬姿に、白馬に乗った王子様って本当に居るのねと感動してしまう。


「姫、抱えますよ?」


 メイジーはちょっと笑って、見惚れていた私をひょいと持ち上げて馬に乗せてくれた。


「ありがとう。では、行って来るわね」

「行ってらっしゃいませ」

「姫ちゃん、楽しんで来てね〜」

「お帰りをお待ちしています」


 本日宿泊予定の宿屋の前で、護衛の三人と別れた。



 最初はカリスの街へ向けて街道沿いに馬を走らせ、左側に深い森が見えたら、その小道へ進む。小さな標識には“逢瀬の泉”と書いてあった。


 私もここへ来るのは初めてだ。街道を外れて森へ入らないといけないので、入学前の辺境伯城滞在中は近寄った事がない。


「ここだね」

 お兄様は馬を降り、私を抱えて降ろして下さった。


 泉と言っても学園の中庭ぐらいの大きさがあり、深い森の木々がその上だけは葉を休ませ、明るい日差しが差し込んでいる。淡い霧は霧氷となり、樹木や苔の上に白い花を咲かせていた。

 透明度の高い泉を覗き込むと、水の底にもお花が咲いている。


「綺麗ね、本当に精霊が住んでいそうだわ」

「そうだね」


 お兄様と手を繋ぎ、しばらく景色を眺める。お城に戻ったら、アルマにも教えてあげよう。


「人が居ないわね」

 辺りを見渡しても、私達だけだった。


「この辺りだけじゃないけど、たまに盗賊が出るからね‥‥最近は、エストリアの件もあったし」


 カミラ様の馬車が襲撃された事件は、表向きは盗賊の仕業だと処理されていた。その後、国境付近の取り締まりが厳しくなって、以前に比べるとかなり被害が減ったらしい。


「あら?」


 よく見ると、対岸にフードを被った女性が一人確認できた。彼女はしゃがんで、冷たい水に指を浸している。どうしたのかしら?

 お兄様を見たら、同じく女性に気付いたようだった。


「近くに馬もないし、コートを着ているけれど、中は軽装みたいだし‥‥」

 そう言いつつ私をご覧になる。


「こんな場所に女性一人で困っているのかもしれないわ。話しかけていい?」

「‥‥僕も行くよ」


 お兄様の風魔法で近くまで飛び、足音を立てながら近寄る。


「あの、何かお困りですか?」


 鼻歌を歌っていた女性は、こちらに顔を向ける。透明感のある美しい容姿で銀髪、瞳は青く輝いていた。色で言えばカリス家だけれど、傍系にもこのような方はいらっしゃらないわ。


「心配してくれるのね、ありがとう。困ってはいないけれど、あの人がまた通らないかしらと待っているの」


「あの人とは、どなたですか? 恋人とか?」


 女性はゆっくり立ち上がる。指はもう濡れていなかった。その神秘的な瞳が伏せられる。


「恋人ではないわ。けれど‥‥私、あの人の子供を産んだの」


 私はお兄様と顔を見合わせる。恋愛事情は人それぞれだし、第三者が安易に踏み入るものではないわ。


「そうですか、ここは思い出の場所なのですね‥‥寒いので、夕方になる前にお家に帰って下さいね。もし宜しければ、近くまでお送りしますよ」


 女性の輝く青い瞳が私を捉えた。


「人間は、私の邸には辿り着けないわ‥‥それよりも、ねえあなた、私のあの人が今どうしているか知らないかしら?」


 この方がもし精霊ならば、自由に会いに行けそうな気もするのだけれど、制限でもあるのだろうか?


「その大切な方のお名前は分かりますか?」


 そう尋ねながら、どこかで同じようなお話を聞いた事がある気がした。

 水の精霊と人間の子供、泉のほとりでの出会い‥‥‥‥あっ!

 私はお兄様を見た。頷かれる。


「もしかして、その方のお名前は、イーサン・フェアバンクスではありませんか?」


 レオとメイジーのお祖父様の名前を出すと、女性は頷いた。


メイジーの祖父と精霊の出会いは、こちらで書いています

第一部 2-8 メイジーの秘密

https://ncode.syosetu.com/n4138ix/20

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