Ⅳ-8 帰還
目を開けると、炎の中央神殿内の客室だった。壁には炎の神殿を表すタペストリーが掛かっている。
「姫、お身体の具合はいかがですか?」
側に居たメイジーがすぐに気付いて話しかける。
「ええ‥‥大丈夫よ」
かろうじて出た声は掠れていた。あちこちに包帯が巻かれている。後で聞いた話では、気管内も熱で焼かれていて、かなり危なかったそうだ。王宮専属の医師と魔法治療師が総出で治して下さったらしい。
「お兄様は?」
尋ねたら、呼んでまいりますとすぐに部屋を出て行った。神殿内で会議中だったようで、複数の足音が近付く音がした後に、扉が勢いよく開いた。
「リーディア‥‥!」
憔悴した顔のお兄様が私の手を取った。
「ディラン様、そのお顔‥‥」
「僕の顔なんて、どうでもいいよ。君が生きていて、良かった‥‥!」
「そうだよ、ディア姉様! 火傷だらけで丸二日も寝たきりでみんな心配してたけど、特にディランが闇落ち寸前で大変だったんだから!」
ルイス様が目に涙を溜めている。本当だ、髪が短いわ‥‥シリル様もいらして、妹達に知らせて来ると慌ただしく部屋を出て行かれた。いつものこの騒がしさが、戻って来られたのねと実感できて、思わず笑ってしまった。
「あ、私もカミラ姉様に報告しないと!」
ルイス様も部屋を飛び出した。後に残ったお兄様は、私の髪を撫でていた。焦げた髪だけは再生できなかったらしい。
「髪は、また伸びるわ」
そう話しかけたら、うんと言って抱きしめられた。
視線を巡らせると、入り口にレオとルディが立っていて、ベッドの近くにメイジーも控えていた。安心した私は目を閉じる。落ち着いたら、何があったかお兄様にも話そう。
でも今は、とても眠たいわ。
私の身体は治癒魔法でなるべく跡が残らないように再生された。けれど、かなり重症だったため体力がすぐには戻らず、1ヶ月くらいは安静にしてとお医者様に言われている。
移動用に車椅子の用意もされたけれど、メイジーが“私が姫の足になります”と譲らなかったので、彼女がいる間は抱っこ移動して貰っていた。
学園は、単位も取っていたのでそのまま卒業できるよう計らって頂いた。お兄様の希望で準備ができたら早めにカリスの辺境伯城へ引っ越す予定だ。
もちろんメイジー達も一緒である。
使者様は、試練以来お姿が見えなくなった。でも、いつ戻ってこられてもいいようにお部屋は整えている。
そんな感じで、この邸宅で同年代の親しい方達をお招きしての送別パーティーが開かれた。




