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カリス公爵令嬢は幸せになりたい  作者: 成海さえ
第一部 第二章 辺境伯領(12〜14歳)
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2-4 剣術のお師匠様1

 メイジーと共に訓練場へ行くと、剣術担当の騎士が既にストレッチを始めていた。

 私に気付いてぱっと笑顔になる。


「お嬢様、こんにちは。今日も頑張りましょうね!」

「ルディ、ごきげんよう。今日もよろしくね」


 ストレッチ→ランニング→短剣の稽古→ストレッチの順番で行われるので、私もルディの隣でストレッチを始める。

 長い髪は邪魔にならないように編み込みにして貰っており、服装も鎖帷子(くさりかたびら)と、下は動きやすい乗馬服とブーツに着替えていた。

 メイジーは少し離れた場所でいつものように見守ってくれている。


「今日で最後ですね。これまで覚えた型を全部おさらいしてみましょうか」


「ええ、分かったわ。王都に行っても、ちゃんと訓練は続けるから」


「ぜひそうして下さいね」


 爽やかに笑うルディは明るくていつも元気を貰える。

 彼はペンタクルス領にあるファウラー男爵家の次男で年齢は18歳、魔力は持っていない。そのため地元の騎士学校を卒業し、従騎士として騎士団で勤めた後に叙任され騎士となった。

 王宮で勤務したかったのだけれど、国の採用試験に合格しても身分が低いため地方に飛ばされたのだそう。


 ここで何年か経験を積み、上官(ここではお祖父様)の推薦状を得てようやく王宮騎士団の受験資格が発生するらしい。

 騎士としての実力は折り紙付きなので、私も王都で再び彼に出会える日を楽しみにしている。



 稽古が終わる頃、遠くからレオの声がした。


「姫ちゃん! 俺が来たよ〜」


 あら、今日は早かったのね。

 疲れていても嬉しそうに駆け足でやって来るレオを見て笑顔になっていると、


「お嬢様、申し訳ありませんが、フェアバンクス卿のお時間を少々いただきますね」

 声を落として断りを入れたルディが練習用の木剣をレオに向かって投げ、走り出した。


「姫、念の為私の後ろへ」

 護衛するメイジーの背中が私の視界を遮る。防御魔法もかけられた。


「いやぁ〜お前、いつ来るかと思ってたけど、俺と姫ちゃんの感動の再会を邪魔するとはな!」

「申し訳ありませんが、感動の再会は俺に負けた後にして下さい!」


 剣のぶつかる乾いた音に加えて、二人の会話も続く。


「‥‥言うねぇ。まさかお前も、俺の可愛いレディを好きにしたいとか、出世の道具にしたいとか思ってんの?」


 私を庇うように腕を少し広げているメイジーの後ろから、そっと覗いてみる。

 ルディが基本の構えから連続攻撃を繰り出しており、レオがそれを後退しながら(かわ)していた。

 斜め下に切り下げられた刃を受け流したレオが逆に切り上げ、更に踏み込んで手首を返して横に()いだ。

 後ろに飛び退いて体勢を立て直し、ルディは言う。


「俺は、自分の実力で王都に行ってみせます。加えて、お嬢様が日々努力なさっているのを、この二年間近くで見ていました。そんなお嬢様の力になれたらと‥‥ただ、騎士になったからには、憧れの貴人と契りを交わしたいと思っていたのは事実です」


「ふぅん」

 剣を構えたままレオが笑う。

「嘘は言ってないようだが、弱い奴に俺の姫は任せられないんだよねぇ。実力を見せてみな」


「重々承知」


 ルディが地面を蹴り、再び剣を振るう。彼も能力の高い騎士だけれど、経験の差なのかレオが優勢に見えた。押されたルディの背がこちらに近付く。


「‥‥なるほど」

 今まで静観していたメイジーが、ポツリと呟いた。途端に周囲の温度が下がる。

 彼女の手には、いつの間にか氷の鞭が握られていた。棘が沢山付いていて、触れただけで痛そうだ。


「えっ、メイジー?」


 問いかけると、私の騎士はこちらを少し振り返り、人差し指を唇に当てて悪戯っぽく笑った。そして、何のためらいもなくそれをレオの足元に振るった。

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