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カリス公爵令嬢は幸せになりたい  作者: 成海さえ
第四部 魔法学園三年生(17歳)の冬〜春
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Ⅳ-5 試練1

 私が自分の意志を伝えてからの展開は早かった。炎の精霊力弱体化で国民が混乱する前にと、早々に炎の中央神殿へ招かれ、隔離されるように個室へ案内された。そして身を清めて明日の朝にはもう試練に挑む手筈となっている。


 準備に費やす時間も無かったため、装備はメイジーの魔法防御が付加された騎士服を借りている。武器は短剣のみだった。



 夕食を終え、私の為に用意された部屋の椅子に座り、手紙を二通書いた。お兄様とカミラ様宛てだ。

 風邪をひかないよう部屋を暖めてくれているけれど、なぜか寒かった。気持ちの問題かもしれない。


 ぼんやり暖炉の炎を眺めていたら、人の気配がする。いつの間にかすぐ隣に、アスモさんが立っていた。


「お嬢さん、私に何か望みはありますか?」


 今回は、悪魔の力を借りないことにしていた。レヴィのイヤーカフも外している。


「いえ、特にはございません」


 しんとした室内に薪の爆ぜる音がする。

 アスモさんは誰に呼び出されたのだろうと思っていると、隣からまた声がした。


「この国の王太子殿下のご依頼なのですよ。お嬢さんの願いを何でも叶えてあげて欲しい、もし“逃げたい”と仰ったら、その通りにと‥‥ちなみに、報酬はあの長い髪をいただきました」


「私は自分の役割りを果たします」


 悪魔の溜息が聞こえる。

「はあ‥‥そうですか、お望みなら、あなたが囚われ続けているこの国を破壊してもいいんですけどね?」


「アスモさん、ごめんなさい。私はこの国と大切な人を守りたいのです」


「‥‥そうでしょうね」


「あ、一つお願いをしてもいいですか?」


「何なりと、お嬢さん」


「もし私に何かあれば、このお手紙を渡していただきたいのです」


 二通の手紙を受け取ったアスモさんは、また溜息をついた。


「人間とは、本当に愚かですね」

「だからこそ、干渉したくなるのではございませんか?」

「確かに‥‥まあ私は眺める方ですけどね。では、失礼いたします」


 姿が消えて、再び一人になったので、以前の試練の際に同級生のシリル様が作って下さった試練対策の冊子を開いた。何があってもいいように、この内容も頭に叩き込んでおこう。




 翌朝、密かに神殿奥の部屋へ通され、精霊王の立像の前に跪いた。炎の中央神殿長の声が響く。


「祈りを捧げなさい」


 今回は一人だ。私は深呼吸した後、声が震えないように注意しながら祈りの言葉を発した。


『精霊の森深くにおわします我らの王、その血肉を与えお救い下さった我らの父よ、あなたのお力をもって災いを払え、幸福をもたらし、清き心を導きたまえ』


 次の瞬間、地面が歪む感覚が再び襲い、床に手を付いて体勢を立て直した時には景色が変わっていた。

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