Ⅳ-3 神託
その日学園に登校していた私達に、王宮から召集がかかった。
「嫌な予感しかしませんわ」
エミリア嬢がぽつりと呟いた。二人とも、例の事件があってからずっと元気がない。なぜか昨日から学園の炎の精霊魔法・上級の実技だけが休講になっていた。
官吏に案内されて会議室に入ると、国王陛下はじめ各公爵、辺境伯、総長や神殿長などがずらりと並んで座っていた。
途中で合流したお兄様と共に席に着く。
「皆、忙しいところ済まないね。昨夜、炎の中央精霊神殿に神託が下ったそうだ‥‥神殿長」
ソード大公の説明を受けて、神殿長が続ける。
「それでは、神託をお伝えいたします。
“誓約を違えた愚かな民は、その力を失うだろう。
覚悟を示せ!
此度は王の血を引く乙女のみで、試練を受けなければならない”」
乙女のみと告げられ、場がざわついた。
「事実、既に炎の上級魔法が使えなくなっております。このままですと、全く使えなくなる日が来るやもしれません」
「私の妻も、サラマンダーを呼べなくなったと言っていた」
カリス辺境伯がそう付け加える。
「諸外国に知れ渡る前に、何とかしなくては」
誰かの発言に、皆が私達学生を見た。
「お兄様の不祥事ですもの、私とエミリアが参ります」
エメリー・ワンズ嬢が立候補すると、炎の神殿長が意見を加える。
「だが、弱体化している炎の精霊魔法使いよりも、炎に強い水の使い手の方が良いのではないかな?」
皆の視線が私に集まる。
「お待ちください。神託が下ったのは炎の神殿、ならば炎の乙女が挑むべきなのでは?」
お兄様が割って入り、辺境伯のお祖父様も加わる。
「前回に加えて今回も水の乙女に任せるとは、道理が通らない」
「だが、それ以外の乙女となると‥‥王太子妃候補のイルゼ嬢も弱体化しているし、カミラは他国の皇后で妊婦、後は第二王女も含めて13歳以下の幼い令嬢しか残っていないが?」
国王陛下はそう述べられた。そう言う事なのね‥‥?
「陛下、娘の邸には水の使者様がご滞在しておられます。この結論をどう思われるか、今一度ご考察下さい」
お父様が意見して下さったけれど、他の上級官吏が口を開く。
「使者様は、我々を傍観されているだけだろう? 先の悪魔との戦いでも力を貸して下さらなかったと聞いたが」
「リーディア様が望まれたとご説明すれば良いだけでは?」
「試練も二度目ならば、慣れていらっしゃるし余裕でしょう」
「余裕って‥‥! 前回は一年以上前の話だ。しかも一度きり、慣れるわけがない!」
ルイス殿下が声を上げる。私は目を閉じた。隣に座っていたお兄様が、手を握ってくれる。
「‥‥どうかな、リーディア嬢。一晩考えてみてくれないか? 我々も無理にとは言わない。もちろんこれまでの経緯を考えると、我がワンズ家から乙女を出すのが順当だ。この度は、愚息が迷惑をかけて本当に申し訳ない。だが、アレン一人に罪を問うには遅すぎる‥‥神託が下された今、この国の為に誰が行くのが最善か、今一度考えてみて欲しい」
アレン様のお父様、ワンズ家当主の落ち着いた低い声が聞こえたので、私は目を開けた。穏やかな赤い瞳がこちらを見ていた。その表情は身贔屓などではなく、このアルカナを思っての発言だと私には感じられた。
「‥‥分かりました」
返事をすると、お兄様の手に力が入った。




