III-31 魔法石のブレスレット
夕食の席で、イブリン様のお話にあったように大公閣下からプレゼントを頂いた。
「取り扱いの説明をするから、開けてみなさい」
そう促され、ラッピングされた箱からブレスレットを取り出してメイジーに付けて貰う。
一見、普通の可愛らしいブレスレットだわ。
「さて、そのアクセサリーには、とある特性の魔法石を使用している。その説明をしよう」
閣下が語り始めたので、私も耳を傾けた。
「まず、人間が出す脳波にはさまざまな種類があるが、長年の研究で、特定の脳波に反応できる魔法石の抽出に成功した」
確か、この方は地質鉱山学者だったわ。頷きながら拝聴する。閣下の隣に座っていらっしゃるイブリン様は、興味なさそうに食後のフルーツを頂いていた。
「最初は脳波を感知できる範囲が狭く、実用化するには不十分だったが、何度も改良を重ね、魔法石の調整をする事で範囲を広げるに至った。その詳しい過程は省略するが、興味があれば後で資料を見せよう」
何か、学会の発表みたいになって来たわ。お話は長くなるのかしら?
「まあ、要は悪意のある者が近付いた際に、その花の蕾が開くらしい。5段階で評価できるぞ」
イブリン様が横から結論を述べた。大公は咳払いをして、最後に付け加える。
「蕾が五つ付いているだろう? 花が沢山開くほど悪意が高い事になる」
このブレスレットを付けていれば、例えばロージーのように悪意を持って近付いて来た人には反応して教えてくれるって事ね。
「このような貴重なものを、ありがとうございます」
私はお礼を申し上げた。
「いや、陛下が世話になったし、君は私の娘の親友だからな‥‥今回も犯罪に巻き込まれて大変だったと聞いた。少しでも役に立てば幸いだ。ただし、この件は他の者には話さない方がいい」
「ええ、そうさせて頂きますね」
隣のカミラ様を見ると、微笑んで頷いていた。エストリアでも愛されているのね、さすがだわ。
「ところで悪意の5段階とは、具体的にどのようなものでしょうか?」
尋ねたら、イブリン様が答えて下さった。
「大体の目安だが、1が悪意のある嘘、5が殺意らしいぞ」
お花が沢山咲かない方がいいのね‥‥とりあえず、外出時や社交の場では付けるようにしよう。
夜はカミラ様と同室にしていただいた。
「それじゃ、お嬢さん達、淑女会はほどほどにね。おやすみなさい」
「姫、皇后陛下、失礼いたします」
パイモンとメイジーが退出して、カミラ様と二人になる。
「カミラ様、つわり等はございませんか?」
気になって尋ねたら、笑顔でお返事がある。
「そこまで重いものではないから、大丈夫よ。ありがとう‥‥それよりも、リーディアの方が心配だわ。ルイスにやっと婚約者が出来たから、そちらの方は落ち着いたかしら」
「ええ、そうですね」
猫の使者様は、私の膝の上に乗ってカミラ様をご覧になっている。
「学園も、ワンズの双子姫とペンタクルスのイルゼ様がいらっしゃるので、毎日賑やかです」
想像できるのか、カミラ様はくすくす笑われた。
「私も年明けに会うのが楽しみだわ。あの子達も、相変わらず元気そうね」
それから年始のパーティーに着るドレスの話や、久しぶりに観劇に行く話などをして、その夜を過ごした。




