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カリス公爵令嬢は幸せになりたい  作者: 成海さえ
第三部 魔法学園三年生(16〜17歳)の春〜冬まで
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III-30 エストリアの淑女会

 カミラ様ご懐妊の話題が落ち着いたあと、私の女子修道院の事件にも話が及んだ。

 元々イブリン様はご存知だったし、仲介役を務めたカミラ様も聞いておられたそうで、心配してお手紙を書いて下さったらしい。


「モンテネールの内紛に巻き込まれるとは、災難だったな」

 イブリン様がお声をかけて下さったので、お礼を申し上げる。


「その節はありがとうございました」

「いや、礼には及ばぬ。私が好きでしている事だからな‥‥ただ、あの大公と繋がりができてしまうと、また何かあるかもしれんな」


 大公とは、ベネット閣下の事だ。髪飾りをいただいた件は黙っておこう。


「学園を卒業したら、王都を離れてカリス領で生活する予定ですので、もう何も起こらないと思います」


 希望を込めてそう言ってみる。イブリン様は考えるように腕を組んだ。


「それも良いかもな。リーディア姫の本来の役目は、公爵夫人の務めを果たす事なのだから。国を背負う必要は全くない。それは王族の責務だ」


「そうね‥‥使者様も表舞台に出る事を望まれていらっしゃらないから、領地で静かに暮らすのもいいわね」

 カミラ様も同意して下さった。


「このまま何もなければ良いですけどねぇ」


 レオが呟く。そう言えば、とルディが口を開いた。


「ずっと疑問だったのですが、天使って清廉なイメージでしたけど、悪事に加担する事もあるんですね?」

「悪に染まった天使は、“堕ちる”と聞いた事があるな。パイモン殿は、何かご存知ですか?」


 メイジーはそう言って、上級魔族に視線を送った。


「天使にもランクがあるから、下の方の奴が、宿り主の暴走を止められず、離れる事もできずに共に堕ちて行ったんじゃない?」


「堕ちるとどうなるんですか?」


「さあね? もう忘れちゃったわ」


 ボスに定期連絡する時間だからとパイモンは部屋を出て行った。話題がひと段落したので、尋ねてみる。


「あの、こちらの大公閣下にご挨拶がまだなのですが、よろしいのでしょうか?」


 イブリン様の夫、メリデ大公もこの離宮に滞在されていると聞いていたけれど、まだお姿を拝見していないわ。


「ああ、あいつは昨日張り切って夜中まで作業していたからな‥‥夕食には顔を出すだろう。その時に相手をしてやってくれ」


「承知致しました」


 思い出したのか、カミラ様がくすくす笑う。

「お父様はリーディアにもプレゼントしたいって楽しそうにしていらしたものね」


「プレゼントでございますか?」

 尋ねたら、笑顔で頷かれた。


「ええ、こちらと同じものが出来ている筈よ」

 カミラ様の腕には、細い鎖にお花の蕾が幾つか付いたブレスレットが揺れていた。


「護衛のお前たち、少し席を外せ」


 イブリン様の命に、私の騎士達がこちらを見たので、頷いて応えた。

 室内に使用人がいなくなると、イブリン様は私とカミラ様をご覧になって仰る。


「ところで、姫達は私が贈ったナイトドレスは着用したのか?」

 人払いをしてこの話題なのね?


「はい、3枚とも着ました」

 私がお返事すると、イブリン様の視線はカミラ様に固定される。

「ええ、もちろんですお母様」

 皇后の良いお返事に満足して、イブリン様は頷いた。


「姫達の子供が楽しみだな。私の孫のようなものだから‥‥産まれたら、定期的に顔を見せに来るのだぞ? 私も、出来れば長生きしたいが‥‥どうだろうな」


 何か心配ごとでもあるのかしら? と思っていたら、表情を読んだのか続きをお話しになる。


「私は過去、上級魔族を使役する為に、二つある内臓を一つずつ与えたからな。意外と病弱なのだ」

「えっ‥‥レヴィアタンにもでございますか?」

「いや、依頼の内容によるのでレヴィには髪しか与えていない。案ずるな」


 良かった‥‥のかしら? イブリン様のお身体が心配になって来たわ。


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