III-28 手紙
私はベネット閣下の送別パーティーには出席しなかった。招待状もお兄様にだけ届いており、お父様、お母様と三人で宮殿へお出掛けになっている。
その代わり、当日、閣下から一通の手紙が届いた。
「奥様、王宮からお届けものでございます」
お兄様を見送った後、自室でメイジーとお留守番をしていたら、執事長がラッピングされた小箱と手紙をトレイに乗せて運んで来た。
メイジーが受け取り、私に差し出す。
王宮からと言うことだけれど、封蝋の紋は、この国の主要貴族のものではなかった。
「こちらは‥‥あの方からでございますね」
執事長が退出したのを確認して、メイジーが話しかける。
「ええ、そうね」
手紙を開封し、アルカナ語で丁寧に記載された文章を読んだ。
「例の件に巻き込んでしまったお詫びと、また機会があれば会いたいと書かれているわ」
お詫びの品だと言う小箱を開封する。柔らかな台座には、パライバトルマリンを使ったお花の形の髪飾りが輝いていた。しかも、ネオンブルーだけでなくネオングリーンも綺麗に混ざっている配色だった。私の瞳に近いものを探して下さったのだろう。
「さすが、良いお品物ですね。姫にも似合うでしょう」
メイジーが感心して呟いた。今度会う時は、これを身に付けろと言うことね?
「多分、使う機会はないと思うわ」
箱を閉じて天井を仰ぐ。上品な装飾が目に入った。後でお兄様にも報告しないと。
ああ、カミラ様にお会いしたいわ。お元気かしら‥‥
再びノックの音がして、執事長の声がする。
「奥様、お手紙が届きましてございます。エストリア帝国のカミラ皇后陛下からです」
◇◇◇
「学園が冬休みに入ったら、エストリアの冬の離宮に行きたいの?」
パーティーから戻ったお兄様は、私の部屋に顔を出していた。ジャケットを脱ぎながら説明を聞いている。装飾品はアルマが受け取ってドレスルームに保管するため退出した。
「ええ、カミラ様から冬の離宮で会わないかと誘われたの」
彼は喜びを隠しきれない私の表情を見て笑う。
「君のそんな顔、久しぶりだな‥‥いいよ、行っておいで」
「ありがとう、ディラン様!」
私のハグを受け止めつつ、耳元で声がする。
「ただし、護衛にはレオも連れて行くこと‥‥後は、王宮が休みに入るまでに戻って来てくれると嬉しいな。僕が国境まで迎えに行くよ」
となると、移動時間も考えると、カミラ様と過ごせるのは丸二日ぐらいかしら?
お会いできるのは久しぶりだし、お土産は何を持って行こうかな。ルイス様達にもご相談してみよう。
「リーディア」
気付くと私の頬をお兄様の手が挟んでいた。騎士達が部屋を出て行く音がする。
「喜ぶ君も可愛いけど、二人の時は僕を見てほしいな」
忘れていたけれど、カミラ様の話をする前にベネット閣下の報告を聞いて、少し不機嫌になっていたのだわ。
「それはもちろんよ。私はいつもディラン様しか見ていないわ」
焦ってそう告げたら、少し笑われた。顔が傾いて長いキスをされる。
「先に寝室へ行ってて。僕も準備ができたら向かうから」
お兄様はジャケットを取り、部屋を出て行った。私は熱くなった頬に手を当てて、ソファーにへたり込んだ。




