III-27 学園にて
久しぶりに学園の門をくぐると、王家や公爵家の子息子女に周りを囲まれた。
「リーディアお姉様、お加減はいかがですか? 良くなりまして?」
「きっと疲れとストレスが溜まっていらしたのね‥‥男性と接する際は、いつも一定の距離感を保っていたお姉様が、あんな奇行をなさるとは‥‥」
「ご安心くださいませね、“王太子殿下やベネット閣下に乗り替えたのでは”と心無い噂をする輩は私達が黙らせておきましたわ」
「ちょっと! 王太子の私もディア姉様をずっと心配してたんだよ、少しでいいから触らせてくれないかな」
それには、婚約者のイルゼ嬢が待ったをかける。
「殿下は噂が落ち着くまで、暫くお触りは禁止です」
「えーっ」
「参りましょう、お姉様。また変な噂が立ってしまいますわ」
「そうですわ。当分はお昼休みも私達双子とイルゼ様との淑女会に致しません?」
「素晴らしいご提案ですわ。さっそく部屋の確保と追加の注文をしなくては」
三人の公女に促されて歩き出し、振り返るとルイス様とシリル様が笑顔で見送っていた。『元気そうで良かった』と口を動かして手を振って下さったので、私もありがとうございますと微笑んだ。
「リーディアお姉様がディラン様に愛想を尽かすはずございませんものね? あんなに完璧な貴公子でいらっしゃるのに」
お昼休み、個室で淑女会が始まる。品良くサンドイッチを口に運びながらエミリア嬢が話し始めた。
「本当に。優雅さで言えばディラン様の右に出る貴公子は居ませんもの。性格も、怒る事なんてあるのかしらと思うほど穏やかなお方ですわね? 柔らかい雰囲気のリーディアお姉様にぴったりで、お二人が並ぶとその癒しの空間に皆笑顔になれますわ」
エメリー嬢も同意する。
「でも、ベネット閣下もさすがと申しますか、なかなかの美丈夫でございましたね。高貴な雰囲気もあって、天使に愛されているのも頷けますわ」
イルゼ嬢が淡々と述べた。それに双子姫も頷いて顔を見合わせる。
「結局、リーディアお姉様以外には興味をお示しになりませんでしたけれど、将来はどのような姫君とご結婚なさるのか気になるところですわ」
「あらエミリア、気になるなら今度のパーティーでアプローチしてみたら?」
エメリー嬢がからかうと、エミリア嬢の耳が赤くなった。
「私なんてまだ14歳で子供だから‥‥9つ年上の閣下には釣り合わないわ」
まあ、そうなのね? いつも自信に溢れているエミリア嬢が、可愛いわ。
「確か、前回のパーティーでは、お父上の許可を得られず、直接紹介されていないのでしょう?‥‥次回がラストチャンスですし、私からルイス殿下に紹介だけでもお願いしてみますわ」
「ぇー」
そんな会話に笑顔になっていると、隣でお肉を食べ終えたレヴィがナプキンで口を押さえながら呟いた。
「お嬢さん達、楽しそうだな‥‥まあ俺は、主が元に戻れば何でもいいが」
先程の会話でご令嬢達は私が入れ替わっていた事をご存知ないと推測できたので、私はレヴィに向かって人差し指を口に当てた。通じるかしら?
「何だ主、投げキスか?」
そう言って、私の使い魔は手首ごと私の人差し指を自分の方に引き寄せ、その指先に口付けた。楽しそうにしているところを見ると、状況は把握しているのね。
「違うわ、レヴィ。そう言うおふざけは駄目よ」
そうたしなめつつ後ろに控えたメイジーやルディに視線を送ると、さっと目を逸らされた。
ああ‥‥
ちなみに、炎の双子姫の護衛はケイ・ロスが担当している。イルゼ嬢の方は、ベテランの貫禄のある初老の騎士が付いていた。




