III-23 いるべき場所へ
ひと通り説明を聞き終えて、夜も遅いからと就寝を勧められる。
「明日の朝には元に戻ってる筈だから、安心して休んでね、姫ちゃん」
レオが寒くないようにベッドの周りを整えてくれた。二人とも、今夜はここで夜を過ごすようだ。
「俺とアスモデウスさんは、姫ちゃんが無事に戻ったのを見届けた後で邸に帰るからね」
レオに促され、大人しくベッドに入る。寝ている間にベネット閣下の上位天使が元に戻して下さるらしい。
ちなみに、アスモさんに魂の入れ替えが出来るのか尋ねたら“人間の魂を導くのは、天使の得意分野ですから”と言うお返事だった。
「使者様とレオとアスモさんも‥‥ありがとうございました」
目を閉じる前にお礼を言う。
「にゃん」
「いえいえ」
「いつか主と呼べる日を楽しみにしていますよ、お嬢さん」
それぞれのお返事を聞いて、天井を仰いだ。お兄様、大丈夫かしら。メイジーも魔王みたいになってたって言うし‥‥早く会いたいわ。
隣で丸くなっている使者様は、既に目を閉じている。少し離れた場所に座ったレオが手を振ってくれて、アスモさんは窓の外を眺めていた。
無事に戻れますように‥‥!
深呼吸して気持ちを落ち着かせ、瞼を閉じた。
◇◇◇
「こんばんは、お嬢さん」
私は夜空の中に浮いていた。誰かに話しかけられたけれど、光の塊のような男性は眩しくてどんな人なのか分からない。
「帰る場所が見えるかな? 君の精霊が目印をつけてくれているだろう?」
指し示された方角に目を凝らすと、遥か遠くに青い光が見えた。水のような波紋も確認できる。私は頷いて、男性にお辞儀をした。
「ベネット閣下の守護天使様でいらっしゃいますね? この度はご助力頂きありがとうございました」
「ふふ、ご丁寧にありがとう。精霊に愛されたお嬢さん‥‥どうかこの先もお元気で」
私はもう一度お辞儀をして、大切な人が待つ邸に向かった。
やがて見慣れた窓からするりと入り、馴染んだ身体に安心すると、眠気が襲う。室内には、他に誰も見当たらなかった‥‥今はひとりでいるけれど、次起きたら、一番にお兄様を探そう。
◇◇◇
暖かい。最初に思ったのはそれだった。
肌触りの良いブランケットに寝心地の良いマットレス。満足しながら目をあけると、ぎゅっと抱きしめられた。
「リーディア‥‥!」
お兄様の声だ。柔らかい銀髪が頬に触れる。
「心配したよ。君が消えたらどうしようかと‥‥!」
声が震えている。私も彼の身体に腕を回してその背を撫でた。
「ディラン様、心配かけてごめんなさい。ただいま戻りました」




