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カリス公爵令嬢は幸せになりたい  作者: 成海さえ
第三部 魔法学園三年生(16〜17歳)の春〜冬まで
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III-22 状況の確認

 レオは泣いていた私にハンカチを握らせ、魔法で部屋を暖めてくれた。次に背負った荷物の中から茶葉とティーポットを取り出して私の好きなハーブティーを淹れてくれる。机の上に焼き菓子も並んだ。

 ちなみにハンカチはメイジーから、食べ物を持たせてくれたのはルディだそう。


「まずは事件の経緯を説明しますね」


 魔法で低い椅子を作り、私の前に座る。目線は私の方が高い。アスモさんは興味なさそうに窓の外を見ていた。


「去年の年末に魔界の扉が開く事件があったでしょ?‥‥モンテネールの大貴族が黒幕だったんだけど、そいつが今回の事件にも関与しています。この国を利用して、モンテネールに復讐したかったらしいんですよ」


「どうやって?」


「姫ちゃんの身体を利用して、王太子殿下の寵愛を受け、まずはアルカナを掌握してモンテネールと交渉するつもりだったらしいです」


 えーーっ‥‥と言う事は、今のリーディアはどんな行動を取っているのだろう? 不安だわ。


「私の身体には、ロージーが入っているのかしら?」


「おそらく。ベイリー嬢はまだ泳がせているので、モンテネールの大貴族との連絡役をしていたこの国の官吏に吐かせた情報なのですが」


 経緯をまとめると、身体が入れ替わったのは外国の邪術を利用したもの、とロージーには説明しているらしい。その儀式用の小物として、ワインやお香が用意されていた。


 でも実際には、そのモンテネールの大貴族に憑いていた守護天使(下位)の力が働いていたそうだ。上位と比べて能力不足である、その天使が行う術の成功率を上げる為に、血のつながり、性別、年齢など器になるものが近い人物が選ばれたらしい。それがロージーだった。


 レオの説明は続く。

「それでさ、魂が入れ替わった日の朝、姫ちゃんにおはようの挨拶をした若にじんましんが出たんだよ」


 それを筆頭に、メイジーや侍女のアルマ、ルディに王太子殿下など、いつもと様子の違うリーディアに皆が違和感を覚えたそうだ。


「そんな感じで、どうしたんだろうって心配してたらさ、中身ベイリー嬢は放課後さっそく王宮に出向いて、ベネット閣下に会いに行った訳ですよ」



『私に聖痕を見せて下さい』

 閣下に謁見したリーディアは、そう伝えた。

 プロポーズにも取れるその言葉に周りは驚いたけれど、閣下は笑って聞き流したと言う。


 そして、明らかにおかしいカリス小公爵夫人の行動の原因を知るために、天使を呼んで下さったそうだ。


 閣下に憑いてる守護天使は上位なので、閣下に依頼されて視ただけで、すぐに身体と魂の歪みに気付いたらしい。


 知らせを受けた王太子殿下はカミラ様を通してエストリアのイブリン様に連絡し、とりあえずレヴィアタンへ召喚に応じないよう命じていただき、その代わりアスモさんを貸して下さったのだそう。

 それから私のお手紙がレオに届いてなるほど、となったそうだ。


「お兄様はどうしているの?」


「若は、仕事が忙しいと言う理由で王宮で寝泊まりしています。代わりにメイジーと王家の“影”がベイリー嬢を見張っています。あの娘、若が居ないのをいいことに、王太子殿下にベッタリでね‥‥元々男好きなのか、可愛い系のルディとも腕を組んだりしているし、事情を知った若は、殺気が漏れてて誰も近寄らないようにしてるよ。もちろん、嫉妬による行動じゃなくて、姫ちゃんの身体を勝手に使ってるベイリー嬢達に怒ってるんだよ」


 お兄様、大丈夫かしら‥‥心配していると、レオは後ろのアスモさんを振り返った。


「どうですか? 始末できました?」

「ええ、一通りは」


 アスモさんはこちらに視線を送る。私の疑問に気付いたのか、説明してくれた。


「この修道院に刺客が送られています。水の御方がお嬢さんを隠して下さっていたようですが、面倒なので私が始末しました」


 それを聞き、私は使者様をぎゅっと抱きしめた。にゃあと応えがある。


「刺客って‥‥」

 呟いたら、レオが眉を下げる。


「入れ替わりが成功したって分かったんだろうね、この部屋に来る前に修道院の周りを確認したら、怪しい奴が何人か居たんだよ。一人捕まえてアスモデウスさんが尋問したら、シスター見習いのロージー・ベイリーを排除するよう命じられたと」


 手が震えた。そんな危険な状況になっていたなんて‥‥レオが私の前で跪き、そっと手を握る。ダークブルーの瞳が私を見上げた。


「姫ちゃん、どんな状況であろうと俺はあなたを守る為、剣となり、盾となる。シュヴァリエの契りは精神的なものだけど、俺はあなたの全てを守る。あの時、魔宝石にそう誓ったんだ‥‥まあ、今回はアスモデウスさんが剣の役割なんですけどね」


「私もお嬢さんと騎士の契りを交わしましょうか?」

「にゃーあ」

 膝の上の使者様も何かを訴えている。


 触れているレオの手のひらは剣を握るために皮膚が硬くなっていて、毎日の鍛錬を思い出す。いつも守ってくれていた実感と共に心も暖かくなり、こわばっていた私の表情が少し柔らかくなった。レオもにっと微笑む。


「俺のレディは、やっぱり外見が変わっても中身は変わらず可愛いんですよね」

「そんなの、私だって分かりますよ」

「にゃん」


 目の前が涙で滲んだのでメイジーのハンカチを当てた。本当に感謝しかないわ。

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