III-21 想定外
三日経った夜、次の方法を試す事にした。
手元にはペンと便箋を用意してある。
「一般人が召喚しても無理だろうなぁ‥‥」
ペンを走らせつつ、独り言が漏れた。
そこには、イブリン様に教えていただいた召喚サークルを描いている。悪魔の名は“レヴィアタン”だった。
金の瞳でこちらを見つめる使者様の前で髪を一房切り取り、サークルの前に捧げる。
「海の悪魔、レヴィアタンよ‥‥リーディア・カリスの名に於いて、その召喚に応えたまえ」
祈りながら待ってみたけれど、何の反応もない。祈ると言えば、毎日水の精霊王に祈りを捧げていても、特に何の変化も無かった。
「はあ‥‥」
机に突っ伏した。
「使者様、どうしよう?」
また泣きそうだ。こうなったら修道院から抜け出して、とりあえず街まで出てから馬車で王都を目指すか‥‥辺境伯城の方が近いけれど、訴えても信じて貰えるかどうか‥‥
不安になる。だけど、出来ることはやらないと。ロージーの荷物の中に少しだけお金が入っていた。これでどこまで行けるだろう?
辺境伯のお祖母様なら、私がリーディアだと分かって下さるかしら? この夏以降のイブリン様との交流の様子を話せば、信じていただけるかも‥‥!
図書室にあった地図で、大体の地理は分かる。明日の夜まで待って、何も進展がなければ外に出よう。
最低限の荷物をまとめていた時だった。
「にゃあ!」
使者様が大きな声で鳴き、振り返ると部屋の真ん中に赤いサークルが現れた。
「え‥‥」
思わず手を止めて見つめると、空間が揺らぎ、レオと悪魔がその中心に立っていた。
「お、使者様‥‥と言う事は、本当に姫ちゃんなのかぁ」
レオは笑顔になり、私に向かっていつものように手を振る。
「姫ちゃんお待たせ! 俺が来たからもう大丈夫だよ〜。“一生大好き”って誓ったもんね?」
「レオ!」
私はその腕に飛び込んだ。厚い胸板に頬をくっ付ける。大きな手が頭を撫でてくれた。
「怖かったよね、よしよし、もうすぐ解決するからね。心の準備ができたら状況を説明するよ〜」
「来てくれてありがとう、レオ。大好きよ」
涙交じりの声になってしまった。
「姫ちゃんに告白されちゃった! 両思いだどうしよう」
全然困ってない、普段通りのレオの口調に安心する。顔を見上げたら、ダークブルーの瞳がいつものように見守っていてくれた。
私を安心させるため頭は撫でてくれたけれど、それ以降は腕を後ろで組んで触れようとしない。私が成人してからは、ずっとそうだ。レオはそう言う騎士なのだ。
「やだ、上目遣いの姫ちゃんの破壊力よ‥‥俺のハートが保つのかこれ」
「‥‥お嬢さん、私も居るんですけどね?」
聞き覚えのある声がした。見たくなかったけれど、顔を向けて確認する。
レオの後ろに立っていた悪魔は、アスモデウスさんだった。
レオの誓いの言葉は、こちらで書いています。
第一部 番外編1 リーディアのイヤーカフ物語
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