III-14 閑話
パーティーから戻った後、何か寒気がするわと思ったら、風邪をひいてしまった。
学校を数日休むことにして、うつしてはいけないので面会も断っていた。
精霊魔法にも治癒系はあるけれど、主に怪我などの外科的な治療や軽い体力回復に使っており、内科的な病気にはあまり効果がない。
お医者様に出して頂いた苦い薬を飲んで大人しく寝ていたら、お見舞いの品が次々と届いた。
「ご両親様と王太子殿下、ペンタクルス小公爵様から大量のお花、ソード大公閣下からは果物詰め合わせ、ワンズの姫様達からは焼き菓子、ペンタクルス小公女様からはご本数冊、あとは‥‥」
侍女のアルマがメイジーと共にお見舞い品の仕分けをしている。
「食べ物は、私は少しだけいただくわ。残りはみんなで分けてちょうだいね」
声も掠れてしまっている。熱い息を吐き出し、私は目を閉じた。
額が冷たくて気持ちいいわと思いながら目を開けると、ベッドサイドの椅子にお兄様が座っていて、彼の手が私の額に乗っていた。
「ディラン様、お帰りなさい」
「ただいま」
官吏の制服のままだから、お仕事から戻ってすぐ様子を見に来てくれたのね。額にあったお兄様の手が私の頬を撫でる。
「気分はどう?」
「まだ喉が痛いけれど、寝ていたら大丈夫よ」
お兄様の向こうで、レオとルディが心配そうにこちらを見ていた。微笑みかけたら、逆にレオの眉が下がる。
「姫ちゃんさあ、ずっと無理してるんじゃないの?‥‥この国は、姫ちゃんに頼りすぎなんですよ。いい機会だから、ゆっくり休んでね」
「そうですよ、お嬢様にプレッシャー与えすぎなんですよ」
二人してそう言う結論になったらしい。でも、私の周りの同年代の王族や貴族子女の方々を思えば、私もこんなものではないかしら。
「みんなが居てくれるから大丈夫よ、ありがとう」
「リーディア、後でまた来るね」
お兄様はそう言って立ち上がり、レオとルディを連れて部屋を出て行った。私も軽い食事を用意して貰う。
メイジーにお兄様も戻ったし今日はもう帰っていいわと告げたのだけれど、
「いえ、何があるか分かりませんので、今夜は部屋の前で待機させて頂きます」
と譲らなかったので、そのまま残って貰うことにした。
身体も拭いてすっきりした頃に、寝衣の上にガウンを羽織ったお兄様が再び訪れた。ちなみにここは夫婦の寝室ではなく、私の部屋である。お兄様と入れ違いに、メイジーが部屋を出る。
「君が眠るまで側にいるよ」
椅子に腰掛け、微笑みかけられる。夜は冷え込むので、暖炉に炎が入っているし、ベッドの周りは魔法石で暖められていた。
「これもお見舞い?」
お兄様はベッドサイドに置いていた本を手に取る。
「ええ、イルゼ様にいただいたのだけれど、エストリア語で書かれているから、もう少し元気になってから読もうかと」
「ふうん、そうなんだ」
ぱらりぱらりと幾つか頁をめくり、お兄様はくすりと笑う。
「エストリアのロマンス小説みたいだね。リーディが好きそうな内容だから、読んであげるよ」
そうして、翻訳しながらの朗読が始まった。相変わらずの処理能力だし、良い声だわと思いながら目を閉じる。
眠りに落ちる前、お兄様に抱きしめられた気がした。
翌々日には体調も回復したので、久しぶりに登校するとすぐに周りを取り囲まれた。
「ディア姉様、大丈夫? 心配したんだよ」
「そうですわ。私達、日に一度はお姉様にご挨拶しないと物足りない身体になってしまいましたわ」
「本当に。少し補充させて下さいませ」
「リーディアお姉様、私が贈ったご本はお読みになりまして?」
距離が近いわ。ぎゅうぎゅう抱きしめられる。
「ずるいよみんな、私もディア姉様に触れさせて」
「王太子殿下のその態度が、リーディアお姉様を困らせているとまだお分かりになりませんの?」
「俺も心配してたんだけど‥‥近付けないな」
「シリルお兄様は、その距離が適正ですわ」
「お嬢様方、恐れ入りますが我が主はまだ体力が回復しておりませんので、もう解放していただけますか?」
メイジーが無理矢理間に入ってくれたおかげで、教室に向かうことができた。
何か、私って幸せねと思った出来事だった。




