III-11 リーディアの瞳と王弟殿下
「はあ‥‥疲れたわ」
あれから結果が出るまでお兄様と学園に留まり、帰宅できたのは夕方だった。入浴と食事を済ませて寝室のベッドに寝転ぶ。
私は4位だった。首位はイルゼ・ペンタクルス嬢、2位は同着でワンズの双子姫だった。
「リーディア、今日はお疲れさま」
お兄様も部屋に入って来られた。笑顔で私の横に座り、腕を広げる。私は起き上がって彼に抱きついた。受け止めてくれるのがとても嬉しい。
「ディラン様は、私の瞳の変化に気付いてた?」
今日知ったのだけれど、私の瞳は古代魔法などの精霊力を沢山必要とする場面で輝きが増すらしい。ネオンブルーとネオングリーンが混ざったような綺麗な色なのだそう。
「うん、僕はリーディアが水の古代魔法の試験を受ける際に同席していたからね」
微笑む気配がして、彼の手が私の背を撫でる。
「瞳の輝きがどうあろうと、僕の奥さんは世界一可愛いよ」
「ありがとう、ディラン様。大好き」
腕にぎゅっと力を入れると、宥めるように背をとんとん叩かれた。
「うん‥‥と言うか、君のくじ運の強さがね‥‥さすが水の精霊王のお気に入りと言うか」
ゴールした後、ルイス様に尋ねられバラに結んであったリボンを渡した。そこにはダンスを踊った騎士様の名前が書かれていて、それをご覧になった殿下は少し笑ってイブリン様にお渡しになる。
「なるほど、リーディア姫は期待を裏切らないな‥‥“オズウェル・ベネット・モンテネール”‥‥大当たりだ」
イブリン様も楽しそうに笑っている。
私もお名前は聞いた事がある。大国モンテネールの王弟殿下のお名前と同じだわ。でも、なぜこの国に?
「所用があって数日前からここの王宮にご滞在されているんだよ。独身だと伺ったのでアルカナの令嬢とダンスでもいかがですか? とお誘いしたんだけど、まさかディア姉様に当たるとは‥‥ある意味運命だね」
「運命か‥‥リーディア姫は完全に“巻き込まれ型”だな。この先もずっと周りが煩いだろう。嫌になったら、エストリアの冬の離宮に来るといい。歓迎するぞ?」
そう仰っていただけるのはありがたいのだけれど、私はお兄様の隣に居ると決めたので、この国で頑張ろうと思った。
「まさかモンテネールの王弟殿下がこの国にいらしているとは思わなかったわ」
「うん、今のところ非公式みたいだからね」
「また何かあるのかしら?」
「さあ、どうだろうね?」
お兄様の腕の中でため息をつく。頭を撫でられたので目を閉じると、優しい声が間近に聞こえる。
「そう言えば、エストリアの前皇帝陛下もそろそろ帰国されるね」
「ええ、冬の離宮の改装が終わったらしいわ」
高齢者と子供がお好きな陛下は、冬の離宮のすぐ近くに身寄りのない子供と高齢者が一緒に住める福祉施設も建設したらしい。
「近々エストリアから迎えが来るそうだよ」
「お迎えって‥‥王配のメリデ大公かしら?」
「うん、多分ね」
「仲直りできたのね‥‥良かったわ」
イブリン様は“嫌われてる”って仰っていたけれど、国の改革を終えたこの先の余生は、好きな人と一緒に過ごして欲しいと思う。
「ソード大公邸で送別会が開かれるそうだから、そのうち招待状が届くんじゃないかな」
「そうね、その時はイブリン様に買っていただいたドレスを着ていきたいわ。素材が秋冬ものだから丁度いいし」
「うん。ベルベットだったかな?」
「そうよ、一度見ただけなのに、よく覚えていたわね?」
体を離してお兄様の表情を見る。
「君の事だからね」
そんな風に言われて優しく見つめられると、嬉しくて頬が赤くなる。
「ふふ、可愛いな」
お兄様もにこにこ笑顔になって、唇が触れた。




