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カリス公爵令嬢は幸せになりたい  作者: 成海さえ
第三部 魔法学園三年生(16〜17歳)の春〜冬まで
129/172

III-10 ソード大公杯『淑女力コンテスト』2

 魔法練習棟へ駆けていると、前を走る背中が見えた。

 あの長い金茶色の髪は、シリル様の妹のイルゼ・ペンタクルス嬢ね。その瞳の輝きは強く、マンダリンガーネット(赤みの強いオレンジ色)のようだ。ワンズ公爵家の双子姫と共に、王太子妃候補と言われている。


 魔法防御壁で覆われた会場には、障害物が設置してあった。王宮魔導士に誘導されて、お花の模様が刻まれた砂の壁を風魔法で飛び越える。


 次は両脇を炎で囲まれた橋を渡るように指示されたので耐火魔法で膜を張り、先程頂いたバラの花を傷めないよう運ぶため更に水魔法で周りを囲んで渡りきる。

 その後は動く的に矢を当てて、練習棟を後にした。



 再び校舎を抜けると広い中庭が目に入る。

 普段、お祖父様がお手入れしている花壇にはダリアやスイートアリッサムなどが咲いていて、それがガゼボと共に等間隔に並んでいる。


 中心に設けられた大きな噴水は撤去されていた。いちばん奥に設置されたゴールの近くに貴賓席も見える。

 そして、噴水があった場所に黒づくめの男性が三人立っていた。顔も黒い布で隠しており、目だけが覗いている状態だ。


「瞳だけでも誰だか分かりますわね?」


 いつの間に追いついたのか、後ろからエミリア嬢の声がした。


「そうね、向かって右からクリブランド卿(シリル様の護衛騎士)、フェアバンクス卿 (レオ)、いちばんわかりやすいのがケイ・ロス(アレン様の元護衛騎士)だわ」

 エメリー嬢の声もする。


「あんなベテラン騎士相手に勝てる筈ないから、戦って勝てと言う訳でもございませんわよね?」


 試しに自分の右耳に付けていた赤いイヤーカフに手を添える。土と炎の騎士がぴくりと反応し、レオが首を横に振った。そう言うことみたいだわ。


 事務局の説明では、“中庭を走り抜けてゴールする”だった。でも、王太子妃を狙うなら、この開けた場所で殿下や大公夫妻に良い印象を与える絶好の機会でもある。

 そして、私も名誉回復を狙うならここだと思う。


「リーディアお姉様、これは好機ですわ。私達の精霊魔法の実力をアピール致しましょう!」


「そうですわ、こんなに証人が並んでいるのですもの、それに何かあってもあの黒いベテラン騎士達が処理して下さるはずですわ。その為に配置されているとしか思えなくってよ」


「先日、リーディアお姉様は風魔法がレベル13になりましたでしょう? それを使うのはいかがかしら?」


「派手に行きたいですわね!」


 高揚している双子の姫と相談して、まずは私が騎士達に向けて両手を伸ばし、風の古代魔法の詠唱をはじめる。

 貴賓席に居らっしゃるルイス様とイブリン様が楽しそうにこちらをご覧になっていた。私は出来るだけ声を張る。


『“風は変転 時世にもたらす新たな風”』


「リーディアお姉様、風の古代魔法なんて素敵ですわ!」

「こんな近くで拝見できるなんて光栄です! 瞳の色も本来のものに変化なさるのね!」


 双子姫が両脇から腕を回して大袈裟な感じで私に抱きついた。

 三人の騎士が耐風魔法で膜を張る。


『“風は恵み その手であらゆる命を運ぶ”』


『“風はみはる 目覚めを促す精霊の息吹”』


 この詠唱は最後にならないと命令文が出てこないので、黒づくめの騎士達は武器を構えつつ私の手と口に意識を集中している。


『“風は怒り あらゆる悪を巻き上げ無に帰す”』


 それと重ねるように、双子姫が小声で精霊使役魔法を唱えた。


「親愛なる赤き隣人、ウィル・オ・ウィスプよ‥‥エメリア・ワンズ、エメリー・ワンズの名に於いて、その愛する者を助けよ!‥‥“飛べ!“」


 次の瞬間、拳大の赤い光が幾つも私達を取り巻き、足が浮いたかと思うと、ものすごい速さでゴールまで運ばれた。『えーっ、フェイントだったんですか?』と言うレオの声がする。

 速度が落ち着き、貴賓席の前でふわりと着地して、赤い光は双子姫の周囲を一周して消えた。


「リーディア・カリス様並びにエミリア・ワンズ様、エメリー・ワンズ様がゴールなさいました!」


 官吏の報告にお祖父様が頷き、私達もお辞儀をする。

 私の一歩後ろで腰を落としていた双子姫の小声の会話が聞こえた。


「皆様ご覧になったかしら? お姉様の綺麗な瞳」

「あんなに派手に詠唱したのだもの。もう文句は言わせなくってよ」


「見た見た。パライバトルマリンみたいだったよね。古代魔法を唱えるディア姉様の瞳の変化もすごく綺麗だったよ」


 私達を出迎えたルイス様が笑顔で労う。


「エミリアとエミリーも、お疲れさま。精霊が使えるとは聞いていたけれど、初めて見たよ。順位が楽しみだね」


「お褒めに預かり、光栄ですわ」


 そうして私が持っているバラの花に目をやる。

「そうだ、ディア姉様は誰とダンスを躍ったの?」


 バラにはリボンが結んであり、そこに贈り主の名前が書いてあるらしい。私はリボンを解いて殿下に渡した。


*注釈*

精霊の属性や悪魔の能力は、この物語限定のものです。

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