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カリス公爵令嬢は幸せになりたい  作者: 成海さえ
第三部 魔法学園三年生(16〜17歳)の春〜冬まで
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III-9 ソード大公杯『淑女力コンテスト』1

 10月に入ってまもなく、例の淑女力コンテストの日になった。

 朝、お兄様から「僕はゴールで待っているから、頑張って」と笑顔で送り出され、参加するからには頑張ろうと気合を入れて学園へ入る。



「リーディアお姉様、おはようございます」


 上位貴族専用の入り口で待っていたのは、今年学園に入学したワンズ公爵家の双子の姫達だ。入学してからは毎日欠かさず丁寧なお辞儀で迎えてくれる。


「おはよう、エメリー、エミリア」


 ゆるふわの黒髪をツインテールにしている子がエミリア・ワンズでポニーテールの子がエメリー・ワンズだ。試験科目に障害物競走も入っているので、参加者は全員動きやすい衣装を着用している。


「お姉様、それが噂の“辺境伯の美魔女”の鎖帷子でございますわね? 眼福ですわ」

「本当に。今日はお姉様の背中を追わせていただきますね。よろしくお願い致します」


 武家出身の意欲的な二人に、私も笑顔で頷いた。


「お互い頑張りましょうね」


 それを聞いた双子の姫は、感極まったように私に抱きつく。


「リーディアお姉様は今日も可愛いらしいわ」

「私達は、何があってもお姉様の味方でしてよ」


 このお二人とはカミラ様のお茶会で面識がある程度だったけれど、私が精霊王の試練を終えてからは“国を救って下さった英雄”だと言ってとても懐かれている。


 今年入学した公爵令嬢はもう一名、ペンタクルス家のシリル様の妹にあたる方がいらっしゃる。

 彼女も最初は毎朝挨拶に来てくれていたけれど、私が“挨拶は校舎内で会った時だけでいいわ”と断ると、“では、違う方法でご恩返し致します”と姿を見せなくなった。


 比較的表情が乏しいご令嬢なので、感情が分かり辛いけれど、私を名前で呼んでくれていたところを見ると、好意は持たれているようだ。

(ワンズの双子姫にも毎朝の挨拶を断ったら、“それでは私達の気が済みませんわ”と挨拶は続いている)


 本日のコンテストは、この学園内で行われる予定だ。まずは一般常識などの筆記試験→騎士棟の屋内鍛錬場で男子生徒とダンス→魔法練習棟で障害物越え→中庭に設けられた特設会場を走り抜け→ソード大公夫妻や王太子殿下の待つ地点へゴールとなっている。

 最終順位はゴールまでにかかった時間に筆記試験、ダンスの採点も加算して出されるそうだ。


 爵位の高い令嬢から教室に入り、少しずつ開始時間をずらして筆記試験が始まった。出題内容は今まで学習したものが殆どだったので、三年生の私は早目に回答を書き終え、次の会場へ向かった。


 騎士棟の教室には多くの男子学生が椅子に座って控えており、コンテスト参加者はくじを引いて、その中からダンスのパートナーとなる相手を選ぶ。


「カリス様は78番ですね。お願いしまーす!」


 受付の官吏が教室内に声を掛けると、番号札を付け、胸にバラの花を差した一人の男性がこちらへ歩いて来た。金髪碧眼の、面識のない方だった。服も異国の白い騎士服だわ。ルイス様が“人数が足りないから助っ人を頼んだ”と仰っていたから、その関係の方かしら?


「初めまして、騎士様。リーディア・カリスと申します。どうぞよろしくお願い致します」


 とりあえず淑女らしくお辞儀をする。


「喜んで‥‥所作の綺麗なお嬢さん」


 彼は微笑んで腕を差し出し、エスコートされつつ審査員の前まで歩く。


「始めて下さい」

 それを合図にピアノの演奏が始まり、私は彼と基本のステップを踏んだ。ダンスは男性主導なので、この方のようにリードが上手な相手だと助かる。


「結構です。お疲れさまでした」

 審査員にそう告げられ、私は再び騎士様にお辞儀をする。


「ありがとうございました」

「こちらこそ‥‥頑張って」


 背の高い彼は、胸ポケットからリボンがついたバラを抜き、少し屈んで私に差し出す。微笑んで見つめられ、かなりの気品を感じる美丈夫だわと思いながら受け取った。

 エストリアのイブリン様も、このアルカナにはない異国風美女だし、世界は広いわねと思いながら次へ向かう。

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