III-4 ドレス
ある日は王都の街に出て、イブリン様からドレスを何着か購入して頂いた。ドレス選びと聞いてルイス様が黙っているはずもなく、有名店内の広い個室には三人の淑女の方々とルイス様、護衛枠でメイジーとルディも同席を許されている。
カタログを眺めていたイブリン様が、手を止めた。
「ここは、下着やナイトドレスも取り扱っているのか? 種類が多いな」
「左様でございます。ご希望でしたらお持ち致しますので、何なりとお申し付けください」
店長の返事を聞いて、イブリン様がお祖母様達に手元のカタログを見せる。
「これはどうだ?」
「まあ、可愛らしいわね。リーディアに似合いそうよ、エリアナ?」
「本当ね、ディランも喜ぶのではないかしら。若いっていいわね」
三人で楽しそうに話していらっしゃる。
「では、リーディア姫のサイズに合わせてここからここまでのナイトドレスを持って来てくれ」
「かしこまりました」
しばらくして、目の前に十数枚のドレスが並んだ。イブリン様はそのうちの一つを手に取る。
「これはどうだ? リーディア姫が身に付けるとまさに精霊のようではないか?」
それは、アンダーバストの下までの深いVネックの、繊細なレースで作られたナイトドレスだった。淡い色合いで丈は膝上辺りまでと短くなっている。この国では淑女は足をあまり出さない文化なので、可愛いけれどなかなか挑戦し辛いデザインだ。
「あの、恐れながら私がいつも着ている寝衣とは全く違う系統なのですが、大胆すぎてディラン様が引いたりしないでしょうか?」
「リーディア姫が心配しているようだが、どうだお前達?」
イブリン様の視線は、ルイス様を捕えている。
「そうですね‥‥寝室にディア姉様がその姿で待っていたら、私は嬉しすぎて一旦寝室から出て深呼吸しますね。ルディは?」
「うーん、俺は嬉しすぎて一旦鼻血を出しながら気絶すると思います。メイジーさんは?」
「姫が私の為にその装いをして下さったのなら、嬉しすぎて一旦抱きしめますね」
それを聞き、前皇帝陛下は満足そうに頷いた。
「嬉しいらしいぞ? リーディア姫。エリアナとマリッサも選んでくれるか?」
そうしてまた三人で楽しそうにご相談され、私用に三着と、カミラ様にも数着購入して下さった。
「カミラ姫は着用しない可能性があるから、ルシファーにも知らせておくか」
イブリン様はそう呟いてアイラさんを手招きしていた。
◇◇◇
「どうしたの、リーディア。寒いのかな?」
夜の寝室で私がガウンをきっちり着ているのを見て、ソファーに座ったお兄様が心配そうに額に手を当てた。
「熱はないようだけど‥‥何かあった?」
「あのね、ディラン様」
「うん?」
「今日、イブリン様にドレスを買っていただいたの」
「そうみたいだね。僕からもお礼を言っておくよ」
「あと‥‥ナイトドレスも」
言って、私は勇気を出してガウンを脱いだ。
「ふふ、そう言うことか」
お兄様は笑って続ける。
「今日の夕方、ルイス殿下がわざわざ僕の所にいらして『ディランはいいなぁ、鼻血ぐらい出してあげなよね』と言い残して去ってしまわれたんだ。パーティー用のドレスのデザインの件かなと思っていたけど、こちらのドレスだったんだね」
ルイス様‥‥自由な方だわと思っていると、お兄様の腕が私の腰にまわった。
「ナイトドレスも殿下達と一緒に選んだの?」
「ううん、同席はされていたけれど、選んで下さったのはイブリン様とお祖母様達の三人よ」
「そう」
「デザイン違いで、あと2着もあるの。カミラ様にも何着か贈るそうよ」
私がため息をついたら、お兄様は笑って手を離した。
「前皇帝陛下は“孫の顔が見たい”と仰っていたからね‥‥カミラ皇后の子供と僕達の子供を結婚させたいとでも思ってるんじゃない?」
ありえるわ‥‥私はお兄様を見た。
「エストリアは男女どちらでも皇帝になれるから、お嫁か婿に出すとしたら、子供は3人は欲しいわね」
「ふふ、そうだね」
お兄様はおかしそうに笑った。
「君がそこまで考えてくれていて、嬉しいな」
おいでと言われて、今日は少し恥ずかしかったけれど、膝の上に座る。
「リーディアがこんなに可愛い格好で迎えてくれるなら、毎日の激務も頑張れそうだよ」
「ほんと? じゃあ、あと2着も着るわ」
「うん、楽しみにしてる」
抱きしめられ、頬や瞼にキスされる。
そしてご機嫌なお兄様に、今夜も可愛がっていただいた。
イブリン様と二人のお祖母様の出会いは、カミラ殿下の番外編で書いています。
少し重たい話ですが、興味のある方はどうぞ→ https://ncode.syosetu.com/n9538jd/22




