III-3 レヴィアタン
広い庭園いっぱいに赤く光るサークルが広がり、空間が歪んだ後、大木のように大きな青い海蛇が宙に浮いていた。しなやかな体躯に硬そうな鱗が陽を受けて輝いており、何箇所かひれも付いている。赤い瞳は意志を持ってこちらを見ていた。
「うわー! すごいですね!」
後ろからルディの嬉しそうな声がする。大きいね、とルイス様もお兄様に話しかけていた。
「初めて見たが、役に立ちそうだな」
イブリン様は立ち上がり、満足そうに眺めていらっしゃる。私達もその後に続いてレヴィアタンに近付いた。
「姿は変えられるのかしら?」
エリアナ様がベルに訊ねる。
「ええ、奥様。人型にもなれますよ」
ベルが指を鳴らすと、海蛇は人間の侍従姿になった。
「こちらに現れる際は、この姿の方が良いわね」
マリッサ様の意見に、ベルが恭しくお辞儀をする。
「かしこまりました、ではそのように」
「普段は、簡易召喚サークルをアクセサリーにして身に付け、必要な際に呼び出すといい。リーディア姫、アクセサリーの希望はあるか?」
「いつも身に付けていると言う意味では、指輪かペンダント、イヤーカフはどうかしら?」
エリアナ様が意見を出して下さる。何だかもう話が進み過ぎて断る雰囲気では全くないわ。自分にプラスになる事だからと気持ちを切り替えよう。
ペンダントはお兄様から頂いたものを普段使いにしているし、剣を持つ事もあるので、できればイヤーカフにしたいわ。
後ろを振り返って私の騎士達を見たら、理解してくれたようで、ルディが代表して頷いた。
「お嬢様の右耳がまだ空いていますね。どうぞ、お好きになさって下さい」
「決まりだな、イヤーカフだ。私が付けてやろう」
「元主、追加の報酬を」
ベルに催促されて、イブリン様はアイラに頼んで艶やかな黒髪を一房切り取っていた。
「リーディア姫、レヴィアタンに覚えさせたいので、姫の髪の毛も一本貰おうか」
私の髪はメイジーに切って貰い、ベルに渡した。それをレヴィアタンに与えている。
「上級魔族がお供に追加って、俺たちの出番なくない?」
レオの言葉に、メイジーが答える。
「いや、レヴィアタンは切り札として取っておいた方がいい。普段の護衛は今まで通りで、私達がどうしてもお側に居られない時は任せよう」
「わあ、俺のレディは最強ですね!」
ルディはすごく嬉しそうだ。
「まあ、私のレディだからな」
「俺のレディでもあるからな。皆に愛されてるんだよ」
イブリン様の手によって私の右耳に赤い宝石が輝くイヤーカフが追加され、使い魔を召喚できるようになった。
そして念の為、関わりのある悪魔を召喚するサークルの描き方も教えて頂いた。
「ディア姉様、また強くなっちゃったねぇ」
帰りの馬車の中で、向かいに座ったルイス様が笑っている。
「イブリン様のご厚意ですから‥‥」
皆で心配して下さっているのが分かるので、断る訳にもいかず、使う場面がありませんようにと祈るばかりだ。
隣のお兄様を見たら、片手で口を覆っていた。目が合うと、珍しくさっと逸らされる。
「ディラン様も笑っているのね?」
「いや、ベリーと似たような可愛い系の悪魔かなと思っていたら、想像してたより遥かに大きくて強そうだったから‥‥僕も今度からリーディアに守って貰おうかな。ふふ」
「はは、そうだね、あの大きさなら魔界の扉が再び開いても、レヴィアタンだけで討伐できるかもね?」
「もう、ルイス様まで! そもそも、そのような事態にならないようにして下さらないと‥‥それに、能力の高い方々に囲まれていますけれど、私はただの凡人ですから」
「いやディア姉様、精霊王の血筋で清楚系なのに上級魔族を召喚できるとか最高じゃない?」
「それってただのルイス様の好みの話ではございませんか?」
「うん、まあそうとも言うね。今日は来て良かったよ、カミラ姉様にも報告しないと」
それからはカミラ様の話題になり、ルイス様から近況を教えて頂いた。
更新、遅くなってしまいました。ごめんなさい!




