III-2 使い魔の選定
私の使い魔の選定は、王宮が休みの日に開かれた。お兄様も見学を希望したので、イブリン様がそれに配慮して下さったのだ。
ソード大公邸の広い庭園内のガゼボに円卓を囲んで三人の淑女と私が席に付いた。その後ろにも席が設けられ、お兄様とルイス様が座っており、メイジーとレオ、ルディも控えている。
「風の王子と水の王子が揃うと、さらに場が華やかになるな」
イブリン様は並んで座る二人をご覧になって満足そうに仰る。アルカナ特有の繊細な容貌と色彩が本当にお好きなのね。確かにキラキラしていてずっと見ていても飽きないわ。
「孫の誕生が楽しみだ」
そう呟きながらふと笑ったあと、私とお祖母様に向き直った。
「まずは、悪魔を使役する際の説明をするか‥‥一般人が悪魔を呼び出そうとすると、準備に時間がかかる」
イブリン様は手元の紙に、さらさらと召喚サークルを描いた。
「あらかじめ、このように召喚したい悪魔の名前と記号を描いたものを用意しなければならない。加えて、呼んだら必ずしもその悪魔が現れるとは限らない。だが、使い魔の契約を結んでおけば、いつでも呼び出しに応じてくれる」
「でも、契約には相応の報酬が必要なのでしょう?」
マリッサ様(ソード大公妃)が問いかける。
「ああ、なので私が悪魔と契約を結び、リーディア姫のもとで働くよう依頼するのだ。報酬は私が支払う。ちなみに私の使い魔のアイラも、私の母から贈られたものだぞ」
「その報酬って何をどのくらいなの? イブリンにかなり負担がかかりそうで心配だわ」
今度はエリアナ様(カリス辺境伯夫人)がイブリン様をご覧になった。
「報酬については心配しなくていい。私が生きている間は格安で使えるよう話はつけてある」
誰と話をつけたのかしら? と思ったけれど、二人のお祖母様は納得したようだった。イブリン様は続ける。
「それで、どの悪魔にするかだが‥‥リーディア姫の希望はあるか?」
「私は悪魔に詳しくないので、お任せいたします」
「“ベリー”の分身はどうですか?」
後方からルイス様の声がした。振り向くと、紫色のブレスレットを掲げている。これは、カミラ様の使い魔であるアイポロスの“ベリー”の分身が姿を変えたものだ。
「ベリーは既にカミラ姫の使い魔だからな。二人には仕えないし、例えば、皇后とリーディア姫の二人が同時に危険な目に遭った際は、ベリーはカミラ姫しか助けない」
そうなのね、厳しいわ。私は静かに控えているイブリン様の使い魔、アイラを見た。侍女姿で立っている姿は人間と変わらない。
その視線を追ってイブリン様が付け加えた。
「アイラはサキュバスだ。元々は下級の悪魔だが、色々オプションを付けて中級程度にしてある‥‥だが姫には他のものが良いだろうな。まあ、詳しそうな奴に聞いてみるか」
そう仰って、イブリン様は先程の紙を床にひらりと落とした。サークルが赤く光り、一人の悪魔が現れる。
「お久しぶりでございますね、元主」
ベルは優雅にお辞儀をした。
「あ、ベルさん!」
ルディの嬉しそうな声が聞こえる。イブリン様の使い魔だったベルは、陛下が退位された際に役目を終え魔界へと戻っていた。
「おやルディさんもお変わりなく」
「ベル、早速で悪いが、相談したい案件がある」
説明を聞いたベルは、でしたらと口を開く。
「アスモデウスは如何ですか? お嬢さんを随分と気に入っていたようですし」
円卓についていた皆様が私に視線を向ける。アスモさんについては良い思い出があまりないので、
「申し訳ございませんが、アスモデウスさんは私には荷が重いので、別の、上級魔族ではなくもっと気軽に使えるようなものにしていただけませんでしょうか?」
そう尋ねてみた。
「だが、低級では知能も低いし、下級でもいざと言う時に姫を守れないだろう? ベリーはああ見えて、ルシファーと契約しているので能力で言うと上級に入るぞ?」
イブリン様の言葉に、ベルが続ける。
「それもありますが、お嬢様に自分以外の使い魔がいると知ったアスモデウスが嫉妬のあまり手にかけてしまうかもしれません。そこそこ強い悪魔でないと意味がないかと‥‥水の系統でしたら、レヴィアタンは如何でしょう?」
「そうだな、とりあえず呼んでみるか」
「雄と雌がおりますが、どちらをご希望でございますか?」
「どう違う?」
「雌の方が気性が荒いですね」
「私だったら雌だが、リーディア姫には雄だな」
「御意」
勝手に話が進み、ベルが広い庭園に向けて手をかざした。




