III-1 麗しのイブリン様
「リーディア姫、そんなに緊張しなくてもいいぞ? 既に私は皇帝ではないのだから」
目の前でエストリア帝国の前皇帝陛下、イブリン・ラブラス・エストリア様がからりと笑う。夏用のワンショルダーの黒いワンピース姿は色っぽくて見惚れてしまいそうだ。退位されたとは言え、圧倒的な存在感は健在だし、私一人の接待で満足して頂けるのかしら‥‥
笑顔に努めながら、このソード大公邸のお庭で二人きりになっている現状に戸惑っていた。
この春にカミラ様がエストリアに嫁がれ、間を置かずにルシファー様が皇帝に即位された。
私は招待されていたので結婚式と戴冠式の両方に出席しており、お式はとても豪華で見応えがあった。お兄様とパーティー会場で前皇帝のイブリン様にご挨拶した際に『リーディア姫、近いうちにまた会おう』と笑顔で告げられたけれど、まさか私の夏休みに合わせてアルカナ王国のソード大公邸をご訪問されるとは思っていなかった。
イブリン様はソード大公夫人のマリッサ様、カリス辺境伯夫人のエリアナ様と親交が深く、もう何十年も文通しているらしい。
(ちなみに、私から見てマリッサ様は母方の祖母、エリアナ様は父方の祖母にあたる)
私も先日御三方が会っているところを初めて拝見したのだけれど、会話が弾みすぎており、しかもイブリン様が心から楽しそうにされていたのが意外だった。
夏休みの間はエリアナ様もこちらの大公邸にご滞在されるそうで、私の二人のお祖母様+イブリン様のご希望により、私も週3はこのお邸に通う事が決まった。
なお、私が御三方を名前で呼んでいるのは、ご本人がそのように希望されたからである。
「まあ、茶でも飲みながら私の話を聞くといい」
イブリン様にそう勧められて、失礼しますとカップを持つ。その様子を金の瞳で楽しそうに見つめられた。私やカミラ様の外見が精霊の姫君みたいだとお気に入りなのだそうだ。
お祖母様達はお二人で買い物があるそうで朝から外出されており、その帰りを待つ間、イブリン様とお茶をする事になっていた。
「まずはリーディア姫に私から使い魔を贈ろうと思ってな。カミラ姫もルシファーから貰っていただろう? あんな感じだな。さて、どの悪魔にするか‥‥」
私はガチョウのような外見の悪魔、ベリーを思い出す。可愛いかったけれど、私が人外の者と親しくしていると邸に滞在されている使者様がやきもちを焼いてしまうので、それは避けたい。
「あの、せっかくのご厚意なのですが、王族でもない私に使い魔など身に余る待遇ですのでご遠慮させていただきたいと存じます。申し訳ございません」
お気持ちは大変嬉しいけれど、使者様を軽くは扱えないわ。
それを受けたイブリン様は気を悪くされたご様子もなく、軽く首を傾げて疑問を口にした。
「うん? なぜだ。カミラ姫が受け取っていたなら、宗教上は問題ないだろう? そんなに世話が必要なものにするつもりはないが。それに、また危険な目に遭った時の対策を考えた方がいいぞ?」
後ろに控えているメイジーとルディに目をやり、そして私を観察する。心の底まで見透かされそうな金の瞳に、心音が速くなった。
「‥‥姫が理由を言えないとなると、同居している兄が良い顔をしないか、もしくは使者様と呼ばれているあの者か‥‥兄の方は姫を守る為であれば、最終的には反対しないはず‥‥分かった、私に任せておけ」
結論を出したイブリン様は、帰宅されたお祖母様お二人を連れて、その日のうちに使者様と話をつけて下さった。
お久しぶりです、成海さえです。
第三部は、全部で34話の予定となっております。
今回から20時台の更新になりますので、どうぞよろしくお願いします。
頑張るぞ〜!ヽ(*´∀`*)ノ.+゜




