番外編1 リーディアに恋愛対象として見られなかった人々の集い(32話の後)
こんにちは、ルディ・ファウラーです。今はお嬢様がいらっしゃらないので、俺が実況させていただきますね。
アスモデウスさんが帰られた後、俺達は使用人棟の食堂へ移動しました。ここにはカウンターも設置してあり、俺は中に入ってドリンクを作っています。カウンターには、使者様、王太子殿下と俺の先輩騎士お二人が座っていらっしゃいます。
「ディア姉様って、見た目がいいんだよ。まずは第一印象で、あっ可愛い!ってキュンとするね」
ライムやレモンなどが入ったカクテル風柑橘系のジュースを飲みながら、王太子殿下が語っておられます。
「それに、清楚系の所作が完璧だから、守ってあげたくなるんだよね」
「分かります。俺が姫ちゃんに初めて会った時も、精霊のお姫様かと思いました。8歳の姫ちゃんも可愛かったなぁ」
レオさんにはご希望があったので、丸氷を使ったオンザロックを出しています。
「それとさ、仲良くなると、目が合った時に微笑んでくれるんだよねぇ。あれは反則だな」
「ですよね、あれで落ちない人が居るのかって話ですよ」
俺も何となく分かります。でも、お嬢様の魅力は外見だけではありませんけどね。
「ディランが囲う筈だよね。私も、婚約前に会えていたらなぁ‥‥」
「王太子殿下は姉上様のカミラ殿下もお好きなようですが、どちらとご結婚されたかったのですか?」
前から疑問に思っていたことを聞いてみました。ルイス様はどちらの姫がよりお好きなのでしょう?
「私は、二人共と結婚したかったんだよ。二人同時に愛する自信があるからね」
「それは、女性側が嫌がるでしょう」
甘くないカクテルを飲んでいるメイジーさんの意見はごもっともだと思います。
「二人を同時に追いかけていたから、二人とも得られなかったのかなぁ」
王太子殿下は肩を落としてしまわれました。
「殿下は優しかったんですよ。名家の姫君達ですから、やろうと思えば勅令で何とでもなったでしょ?」
「姉様達の嫌がることはしたくないんだよ」
レオさんの言葉に、王太子殿下はため息をついていらっしゃいます。
「使者様、どうぞ」
使者様のカップが空になっていたので、新しいハーブティーをお出ししました。
「私にもお願いします」
いつの間にか、使者様の隣にアスモデウスさんが座っていました。
「いや、何で居るの!?」
王太子殿下が立ち上がります。さすが良いリアクションです。赤い瞳の悪魔は微笑みました。
「母屋には結界が張ってありましたが、こちらには無かったので、招待して頂いたのかと。ああ、これ以上人間の皆様が嫉妬しないように力は抑えておりますので、ご心配なく」
突っ込みどころは何箇所かありましたが、ここは皆さん流す事にしたようです。
俺もとりあえずこの方にハーブティーを出して様子を見ようと思います。
「一つ心配なんだけど」
何事もなかったかのように、王太子殿下が話し始めました。
「このたびの事件で、精霊力のある人材の重要性が再認識された訳でしょう? フェアバンクス伯爵の血筋がとだえる事を、国王陛下が良しとしないと思うんだよねぇ」
みんなの視線が、先輩お二人に集中します。
「王命となれば、断れないだろうな。契りを結んだ騎士は、結婚すればその関係を解消しなければならないし、私は同性だから免除されても、レオは終わりだな」
「えぇ、嫌だぁ‥‥俺は姫ちゃんに一生大好きって誓ってるのに」
泣き真似をしているレオさんの背中を、王太子殿下がポンと叩いています。
「そうならないように、尽力してみるよ」
「悪魔に依頼してみてはいかがですか?」
いきなりのアスモデウスさんの割り込みに、レオさんが苦笑します。
「いやぁ‥‥アルカナの騎士が、願いを叶える為に悪魔を呼び出すとか、なかなかのあれだと思うのですが‥‥ちなみに、意中の人と結ばれたいと言う依頼でしたら、報酬はどれくらい必要ですか?」
「そうですね、婚姻ではなくワンナイトでよろしければ、格安でお受け致しますよ」
「悪魔は愉快犯ですよ、おやめなさい」
使者様が言葉を遮りました。
「ほんと、凄い誘惑ですね‥‥聞かなかった事にしよう」
レオさんは自分の耳を手で塞いでいます。俺も心を無にしました。
「カミラ姉様、エストリアに嫁いで大丈夫かな‥‥」
王太子殿下は心配そうです。
「あんなに皇太子殿下に気に入られていらっしゃるのに、愚問でしょう」
アスモデウスさんが返答しました。と言う事は、安心していいみたいです。そうだ、今回のお礼も兼ねてまたベルさんに手紙を書いてみようかな。
それでは、この辺りで失礼しますね。また機会があればお話しさせていただきます。




