II-37 デート2(最終話)
公園は綺麗に手入れがされており、春の花が沢山咲いていた。マリッサ様がカリス家ご出身なこともあり、広い園内には噴水や湖が設けられ、小さな川も流れていた。
お兄様と手を繋いで園内を見て回り、途中でゆっくり休憩などもしていると夕方になった。馬車の中で教えてもらった夕焼けスポットに行ってみる。小高い丘からは、咲き乱れる花、遠くに街並み、そして沈みかけた陽がそれらを暖かな色に染めていた。
私は小さなバッグの中から包みを取り出す。
「ディラン様、どうぞ」
ラッピングした小さな箱を差し出した。
「ありがとう、開けてもいい?」
私は頷き、お兄様が丁寧に開封した中には、碧緑色の魔法石が付いたペンダントが入っていた。
「わあ、リーディアの瞳の色だね。綺麗だな」
指にかけ、目の高さまで持ち上げて眺めている。とても嬉しそうだ。
「着けてくれる?」
お願いされたので、ペンダントを受け取って彼の後ろに回ろうとしたら正面からホールドされてしまったので、魔法石のモチーフをずらしてフックを開け、頭にキスされてるわと思いながら長さを調節した。
「似合うかな?」
笑顔で問われ、改めて眺めると私の魔法石を身に着けているお兄様は、私の独占欲をとても満たしてくれる。
「よく似合ってるわ。ディラン様を私が独り占めしてるみたい」
「僕は、もうずっとリーディアのものだよ」
顔が近付いてキスされる。微笑んでいるようだ。周りに人がいない事を確認して彼の前髪を避けたら、宝石のような青い瞳が私を映していた。
「どうしたの?」
「幸せだなぁって」
「うん」
久しぶりに見たわ、お兄様の嬉しそうな優しい表情。並んで景色を眺めていたら、空に星が瞬き始めた。
「名残惜しいけど、そろそろ最終の馬車が出発するんじゃない?」
お兄様に言われ、私達は出口に向かって歩き出した。園内にはもう観光客の姿は少なく、馬車の乗客も私とお兄様だけだった。
「今日は楽しかったわ。往きにご一緒したおばさまの話も聞けて良かった」
「うん、街に出ることもなかなか無いからね」
「カミラ様がずっと頑張って来られたのが、おばさま達にも伝わっていて嬉しかったわ」
「そうだね」
お兄様が頭を撫でてくれる。私は彼に寄りかかって目を閉じた。いつの間に眠っていたのか、起こされると王都の停留所だった。
「坊ちゃん達、もう遅いから気をつけて帰るんだよ」
御者の中年男性が見送ってくれる。少し離れた場所に、見覚えのある馬車が停まっていた。
「姫ちゃん! 遅かったから心配したよ〜。心配し過ぎたメイジーが飛び出しそうになってて止めるの大変だったんだから」
「レオ、大袈裟だ」
「いや、そんな大袈裟でもないような‥‥痛いですメイジーさん」
「心配かけてごめんなさい」
迎えに来てくれた騎士達は笑顔になる。レオとメイジーの馬がないので、今日は御者台に三人で仲良く座って来たのかしら? 想像すると少し面白いわ。
「まあ、姫ちゃん達もたまには羽を伸ばさないと、ですよね。今日はのんびりできましたか?」
「姫、お疲れでしょう? レオの返事はいいので馬車にお乗り下さい」
「若様も、本日はお疲れさまでした。どうぞ」
ルディが馬車のドアを開けてくれたので、中に乗りこみ、お兄様と並んで座る。馬車は、ゆっくりと私達の邸に向かって走り始めた。
明日からの予定を話し合う。それが終わると、お兄様はランプの光に碧緑色の魔法石をかざして嬉しそうに眺めていた。そんなに喜んで貰えると私も嬉しい。
馬車を走らせる音に混じって、私の騎士三人が話している声がする。仲良くできているのねと思うと笑ってしまう。
頭上で春の星空が優しく輝いていた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
応援して下さった読者様もありがとうございます。続きを楽しみにして下さる方がいると思うと頑張れました。
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今後の予定は、本シリーズに関して書きたいことが少し残っているのですが、4月の連載開始から駆け足で更新して来たので、しばらく休もうかなと思っています。
また準備ができたらお知らせしますね。




