II 36 デート1
メイジーが事前に調べてくれた運賃をお兄様が支払い、馬車に乗りこむ。
荷台の部分には屋根がついており、長椅子がコの字型に設置されていた。先客の親子連れも居て、私とお兄様はその近くに座った。
「わあ‥‥」
小さな女の子は、口を開けて私達を見ている。目が合ったので微笑んだら、少女は隣の女性の腕をぎゅっと掴んだ。
「おや、綺麗な子達だね。学生さんかい?」
「ええ、僕達は王立高等学園の学生です」
王都には魔法学園の他にも、魔力の無い子が官吏や神官、商人を目指す高等学園や騎士学校もある。精霊力がない子供達はこれらの学校に通うか各神殿で読み書きなどを学習する。
「今日はどちらまで? 私は孫を連れてマリッサ様の王立菫青公園に出かける予定さ。あの公園はいつも手入れが行き届いていて居心地がいいからね」
「僕達もです。デートスポットでも人気だと聞いたので」
それを聞いた女性は、笑って頷いた。
「もちろん。後でカップルにお勧めの場所を教えてあげるよ‥‥ところでお嬢さん、誰かに似てるって言われない?」
「お姉ちゃん、精霊のお姫様みたい」
隣の少女も私を見ている。
「えっと、特には言われませんが‥‥私に似ている方がいたのでしょうか?」
「お嬢さんを見ていると、先日のカミラ様のパレードを思い出すよ。ほら、隣にカリス公爵のご令嬢も付き添いで居ただろう? 年齢が同じ位じゃないかい?」
「あのパレードは、私も拝見しました。カミラ様は美しかったですね、エストリアの皇太子殿下も優しそうな方で良かったです」
私は話を逸らそうと必死だった。中年女性も思い出すように頬に手を当てる。
「そうだねぇ、エストリアは悪魔の国って言うから、どんな怖い皇太子なんだろうって凄く心配してたけど、カミラ様の表情がとても幸せそうで、おばさん安心しちゃった」
調子が出て来たのか、女性は語り出す。
「ほらね、去年の12月に魔界の扉が開いた時にも、治癒魔法が使えるからってカミラ様とカリスのご令嬢が応援に行って下さったんだろう? まだ16歳かそこらなのに、どんなに怖かったかと思うと、頭が下がるよ」
「私も聞いた! 大きな扉から悪魔が沢山出て来たって」
少女も横から話す。女性がその小さな肩を抱き寄せた。
「そうだね、この国や私達を守る為に尽力して下さるのは、本当にありがたいねぇ‥‥だから、政略結婚の相手がどんな方か、みんな気になっていたのさ」
話を聞いていて、泣きそうになった。カミラ様が守りたかった人々に気持ちが伝わっていたのが嬉しかった。
「私もカミラ様には幸せになって貰いたいです」
女性と少女は揃って頷く。
「当たり前だよ。あの子達も幸せにならないと‥‥精霊王の力を絶やさない為に血縁同士で結婚とか庶民には全く理解できなかったけど、それも意味があるんだと今回の件で少し分かった気がするよ」
私はお兄様を振り向く。口元が笑みの形になっていた。




