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カリス公爵令嬢は幸せになりたい  作者: 成海さえ
第二部 魔法学園二年生(15〜16歳)
113/172

II-34 春

 冬休みは久しぶりにカリス領で過ごした。幼少期を知っている人ばかりだったので、邸以外の場所や街を歩いていても、温かく見守ってもらえた。



 何かをしてもしなくても時間は過ぎるもので、冬の気配が遠ざかりだんだん日照時間が長くなってきた。気温も上がり、花壇には春の花が咲き始める。

 学園では、3学期から復帰したルイーズ様が私の反対側でカミラ様と腕を組んでいた。


「二人とも、そんなにくっついていたら歩き辛いわ」


 カミラ様がくすくす笑う。以前はルイーズ様を挟んで私とカミラ様が両脇に位置していたけれど、今はカミラ様が真ん中になっている。


「だって、もうすぐ3学期が終わってしまうわ、お姉様」


 ルイーズ様がため息をついた。学年の終わりは、カミラ様とのお別れを意味する。エストリアの皇太子妃となられる私の憧れの王女様は、もうじき隣国へ行ってしまう。


「ルシファー様もこちらの王宮にご到着されたのですよね?」

 私の問いに、カミラ様は微笑んで頷いた。


「ええ、送別会にも参加なさるそうよ」


 婚約者直々のお迎えに、カミラ様は嬉しそうだ。この調子だと、エストリアに行っても幸せになれそうだわ。だけど、とても寂しい。

 私もため息をついた。



 送別会は、カルミア宮で行われた。天気の良い日の午後、綺麗に手入れされたお庭に通される。ドレスコードはカジュアルエレガンスだったので、私はワンピースを着用している。隣のお兄様はスーツ姿だ。

 会場では炎と土の王子様がカミラ様とお話をしていた。側にはルシファー様もいらっしゃる。


「これで全員かな?」


 ルイス様が私達を確認して、侍女へ指示を出していた。テーブルは円卓が用意されており、みんなで着席すると、試練が宣告された際の会議を思い出した。


 美味しい料理をいただきながら和やかに会話が弾む。思い出話も多く、短い学園生活の中に色々ありすぎたわと思うと、目の前が涙で滲んだ。おしゃべり好きなルイス様のお話にみんなで笑い、私も微笑みながら目元をナプキンで押さえた。


 食事が終わり、カミラ様が私の側に来て“戻れ”と命じると、足元にベリーが現れた。


「ベリー、リーディアとももうすぐお別れよ。ご挨拶なさい」


 私とカミラ様はしゃがんでベリーを見る。私の前に歩いて来たベリーは、何度か瞬きをした後、小刻みに体を揺らしたかと思うと、口から大きな卵をポロリと落とした。


「ベリー!?」


 私は卵を受け止めたものの、どうすればいいか分からない。カミラ様がルシファー様を呼んできて下さった。


「ああ、アイポロスが卵を産むなんて珍しいね。ベリーの分身だから、リーディア嬢に持っていて欲しいのではないかな」


 同じように腰を落としているルシファー様に、ベリーは瞬きをしている。


「ベリーは女の子だったのですか?」

「いや、性別はないが、カミラやリーディア嬢を気に入っているから、どちらかと言えば男の子だと思うよ」

「そうですか‥‥」


 私は手の中の卵からお兄様に視線を移した。複雑そうな表情をしている。それもそうだ。夏休みに私とベリーが仲良くしているのをご覧になった使者様は、おそらく嫉妬されていた。アスモさんの時もそうだ。できればこれ以上刺激したくない。


 私はこちらを見上げるベリーの頭を撫でた。

「ベリー、気持ちはとても嬉しいけれど、ごめんなさい。これは受け取れないわ」

「じゃあ、私が育てるよ」


 横から手が伸びて卵をそっと移動させたのは、ルイス様だった。


「私が責任持って部屋で飼うから、ディア姉様はこの子にたまに会いに来るといいよ‥‥ベリー、それでいいよね?」


 問われたベリーは瞬きして羽を広げていた。同意しているらしい。


 そうして送別会はお開きになった。

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