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カリス公爵令嬢は幸せになりたい  作者: 成海さえ
第二部 魔法学園二年生(15〜16歳)
111/172

II-32 報酬

 翌日の夕方、使者様に邸の結界を解いていただき、指定された黒いドレスを着てホールの中央に立った。使用人には近付かないよう言ってあるけれど、それ以外の見学者が数人いた。


「いつの間にそんな契約結んでたの‥‥私も、ディア姉様ともう一度踊りたいよ」


 呟くルイス様の隣にお兄様と使者様、後ろにレオとルディが控えている。

 メイジーはヴァイオリンを持って少し離れた場所に立っていた。


「アスモさん」


 指輪に話しかけると、血のような赤い瞳を持ち黒い正装を纏った悪魔が現れる。私の前で優雅にお辞儀をした。その手を取る。


「では、参りましょうか」


 ホールドを組んで始まりの状態になり、メイジーに合図をする。選曲は彼女に任せていて、私の騎士が奏でたのは“シシリエンヌ”だった。恋の始まりを予感させる軽やかな音色が響く。けれど、悲劇に終わるその物語は情欲と嫉妬の悪魔に相応しいとも言える。


 私はアスモさんを観察する。首に結んだクラバットを飾るピンとカフスボタンは碧緑色だ。衣装の生地も上質だし、似合っている。神学の授業で、上級魔族は元は天使だったと習ったけれど、今の彼を見るとそれも納得できる。今日のために仕上げて来たのかしら‥‥1日で?



 天幕の中で彼と契約をした時を思い出す。


『いいでしょう。お嬢さんに支払ってもらう報酬は‥‥この騒動が収まってからで構いませんから、私と一曲踊って頂けますか? ただし、ドレスと装飾品の指定を致します』


 私が頷くと、彼は微笑んで続ける。


『ワンズ公爵邸でお召しになられていた黒いドレスに、宝石は赤で統一して下さい。選曲はお任せします。お嬢さんの準備ができたら、いつでも良いのでお声がけ下さい』


 それだけだった。私が了承すると、彼は機嫌良く刺客達を捕縛していった。



 この方とも、とても踊りやすいわ。何かあるかもとずっと身構えていたけれど、終始笑顔だったアスモさんは、ダンスが終わると私の左手を取り口づけた。


「楽しかったですよ、お嬢さん。ありがとうございました。では、また」


 するりと赤い指輪を抜き取り、あっさり姿を消してしまった。



「アスモデウスって初めて見たけど、まさかのこっち側の悪魔だったんだね?」


 発言したルイス様をはじめ、みんなが私を見ていた。


「こっち側とは?」


 質問したら、ヴァイオリンをケースに直したメイジーがルイス様の側に立ち、ルイス様が続ける。


「それはもちろん“ディア姉様を愛でる会”だよ」

「え?‥‥」


 全く想像してなかった答えに戸惑っていると、使者様が補足する。


「精霊王も人の子を愛したのです。悪魔がわたくしの乙女を見染めることもあるでしょう」


「‥‥使者様は気付いていらしたのですか?」


「ええ」


 えーーーーー‥‥

 呆然とする私の隣にお兄様が並んでストールをかけてくれて、それ以外のメンバーは会話しながらホールを出て行こうとしている。


「ディア姉様ってさ、無自覚なんだよね」

「姫ちゃんは昔からそうですよねぇ」

「婚約してるにもかかわらず他の男に優しくするって酷くない? 私は一目惚れだったのにすぐ失恋だよ‥‥ちょっとさ、そこの所をみんなで話さない?」


 いや、ルイス様は初見では男性ではなかったような。


「あ、俺酒場でバイトしてたので、カクテル作れますよ。殿下にもノンアルをご用意しましょうか? 使者様とメイジーさんも、良かったら」

「ええ、いただきましょう」

「私も付き合うかな」


 メイジーがヴァイオリンケースを片手で背負って後に続く。


「じゃあさ、必要な食材教えてよ。“影”に買いに行って貰うから」

「はいはい、俺メモ取りますね〜」


 みんな、いつもよりイライラしてない? アスモさんの影響かしら。でも、使者様は平気なはずだけど‥‥


 そう言えば、私も頬が火照って来たわ。両手で頬を挟んでいたら、腰に手が回り、彼の方へ引き寄せられた。


「リーディア、よそ見は駄目だよ。僕を見て」

 お兄様だった。


これで大体決着がついたので、月曜日も大丈夫!

がんばるぞ〜

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