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カリス公爵令嬢は幸せになりたい  作者: 成海さえ
第二部 魔法学園二年生(15〜16歳)
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II-29 ワンズ辺境伯領へ

 学生の私達も出発の時が来た。学園からの指名ではなく、自ら志願した30人が、王宮内の転送部屋からワンズ辺境伯領へ旅立った。



 現地では既に体制が整っており、到着を待っていた官吏が案内してくれた。

 学生は戦闘で負傷した兵士を後方まで誘導する戦闘補助班と治療などを行う救護班に分かれ、私とカミラ様は砦近くに設けられた天幕の中で、他の学生と一緒に神官から救護の説明を受けた。天幕は地面までを覆うタイプで、中は魔法石を使用して少し暖められている。


 神官のトップである総長も現場にお越しになっており、みんなの士気も上がっていた。


◇◇◇


「お祖父様!」


 カリス辺境伯のお祖父様、メレディス・カリスも騎士を連れて参戦していた。わざわざ救護班まで会いに来て下さったのが嬉しくてハグする。


「リーディア、元気そうだな。応援に来てくれてありがとう」


 お祖父様も銀髪に白髪が混じっていて威厳があり、元帥を現す豪華な隊服がとてもよく似合っている。


「お兄様には会った?」

「ああ、ディランも魔導士だから、初動で魔法を使うそうだ」


「お祖母様は?」

「エリアナは辺境伯城で待機している。こちらと連絡を取りながら対応する予定だ」


 縦抱っこされ、少し離れた救護総括の大きな天幕まで運ばれる。


「お祖父様は?」

「私はまだまだ現役だから、当日は前の方で頑張るよ」


「リーディア、メレディスだけではなくて、もう1人のお祖父様も頑張るからね?」


 中にはソード大公とワンズ辺境伯もいらして、同窓会のように賑やかだった。



 宿泊先はフェアバンクス伯爵の邸宅で、私はカミラ様と同室になった。今回はカミラ様の侍女のジゼルも一緒だ。初めて知ったのだけれど、彼女は武術にも精通しているらしい。


「当日、エストリア国境側はどのような布陣なのでしょうか?」


 自由時間にカミラ様へ尋ねてみる。


「詳しくは分からないけれど、弓兵が主で、上級魔族のベルとパイモンが先鋒だそうよ。後は大体こちらと同じだと思うわ」


 騎士や兵士も派遣して下さっており、現場に行くとエストリアの兵士の姿も複数確認できた。


 レオとメイジーは所属先であるカリス領私設騎士団として参戦しているので、現在、私の側にいるのは邸で直接雇用しているルディだけだ。1人で護衛してくれている。お兄様とは食堂でたまに一緒になるくらいで寂しいけれど、この争いが終わるまではと自分に言い聞かせていた。



 決戦日前日の夕方、カミラ様がジゼルと隣の浴室に入られたので、私は部屋でベリーと遊んでいた。持参したスカーフを首のもふもふの上でアスコットタイのように結んでいたら、


「アイポロスとは仲良しなのですね」


 耳元で重く響くような声がした。驚いて振り返ると、アスモさんが立っている。

 私も立ち上がり、お辞儀の後に話しかける。


「いつも、いきなりなのですね」

「友人であるお嬢さんの様子を見に来たのですよ。明日が怖くはありませんか?」

「いえ、特には」


「本当に?」

 顔を覗き込まれ、視線を逸らさず耐える。

「本当です」

「‥‥そうですか」

 アスモさんの目が、楽しそうに弓形に細まった。


「今日は、友人のあなたにプレゼントをお持ちしたのです」

 そう告げると、彼の手に赤い石の付いた指輪が現れた。丁寧な動作で私に差し出す。


「申し訳ございませんが、いただけません」


「まあ、そう言わず。私を呼び出せると言うオプション付きですよ? それともガチョウの肉の方がお好みですか?」


 そう言いつつ、私の左手の小指に嵌めてしまった。結婚指輪の隣で赤い石が輝いている。


「いつでもご用をお申し付け下さい‥‥おや?」

 ベリーがソファーから降りて私の前に立った。羽を広げる。

「ほう、アイポロスごときが騎士気取りですか? まあいいでしょう、用事は終わりましたから」


 アスモさんの姿が唐突に消えて、隣の部屋からカミラ様が戻って来られた。


「あら? ベリー、素敵なタイね。似合っているわ」


 カミラ様はベリーを抱えてソファーに乗せる。ベリーは何度か瞬きをしていた。


「スカーフが気に入ったのかしら‥‥悪魔の報酬は前払いだし、明日の活躍のご褒美にリーディアから貰ったら?」

「それは構いませんが、悪魔の報酬は生物かそれに準ずるもので無くても良いのでしょうか?」


 カミラ様は、私を見ているベリーを撫でながら首を傾げる。


「まあ、本人が欲しいなら、それで良いのではないかしら。では、私のご褒美はいつものお野菜にフルーツも付けるわ。前払いだから明日の朝食ね」


 カミラ様の言葉を受けてジゼルがお辞儀をする。私を眺めていたカミラ様の視線が指で止まり、見慣れないものに眉をひそめた。


「ちょっと待って、リーディアその指輪は?」


 私は先程の出来事を話した。カミラ様が“ルシファー様に相談してみるわ”と言って下さったけれど、今はお忙しいはずなので、お断りさせて頂いた。



*年齢メモ*

辺境伯夫妻の年齢は、リーディア+41なので、大体57歳くらいです。かなりの精霊力をお持ちなので、実年齢よりも若く見えます

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