II-22 ワンズ公爵家のパーティー2
「清楚なイメージのディア姉様に黒のドレスなんて、すごい破壊力だ。しかも背中の開き具合が秀逸すぎて‥‥いや私、一旦落ち着こう。今日は変だな?」
器用にリードしながらのルイス様の独り言に笑っていると、遠くない距離から女性の短い悲鳴が聞こえた。ダンスの途中であろうその女性は、手を押さえて走り去って行く。残されたパートナーの男性は、肩をすくめて椅子席の方へ歩いて行った。
「‥‥どうしたのでしょう?」
ルイス様に尋ねると、少し考えてお答えがある。
「多分だけど、たまに居るんだよね、魔力持ちの女性と触れ合った際に、自分の魔力を勝手に流す奴が」
それって女性側からしたらとても気持ち悪い上に危険なのでは?
驚く私にルイス様は続ける。
「マナー違反だし、紳士じゃないよね‥‥まあ、はっきり決まった訳ではないけど」
曲が終わったので、ルイス様と一緒に壁際に戻る。
「ダンスタイムになったからディランも急いで戻ると思ったんだけど、遅いなぁ」
メイジーに飲み物を取ってきて貰い二人でいただいていたら、ルイス様が他のご令嬢にダンスに誘われ、またホールへ行ってしまった。
「失礼、良ければ私と踊って頂けませんか?」
声をかけられたので視線を移すと、先程パートナーの女性から悲鳴をあげられた男性が私の目の前に笑顔で立っていた。
思わず体を引いてしまい、椅子の背もたれに背中が付いた。メイジーが気付いて男性との間に入る。
「お嬢様はお疲れですので、ダンスはお断りさせていただきます」
「まあ、そう言わず」
手を伸ばされて悲鳴が出そうになっていると、横から声がした。
「僕の妻に何か?」
お兄様だった。後ろにレオも控えている。
「ああ、カリス卿の奥様でしたか‥‥失礼しました。あまりにもお美しかったもので」
「女性に迷惑行為をするのは、止めてはいかがですか? 官吏ならそれくらいお分かりでしょう?」
お説教が嫌だったのか、男性はすぐに居なくなってしまった。
「リーディア、大丈夫?」
お兄様が屈んで私の顔色を窺う。心配をかけたくない私は笑顔を作って頷いた。
「ディラン様が一緒に踊ってくれたらもっと大丈夫になるわ」
「喜んで」
彼に差し出された手を取り、ホールへ向かった。壁際に残ったレオが笑顔で手を振り、隣でメイジーも少し安心した表情になっていた。
「同僚の方とお話は終わったの?」
「うん、それなんだけど‥‥邸に帰ってから話すよ」
お兄様とのダンスは楽しい。いつも優しく触れられているから安心するけれど、側に引き寄せられるとドキドキする。綺麗なお顔が近くなって微笑みかけられると、頬が熱くなった。あら、こんなに意識するなんて今日はちょっとおかしいわ‥‥?
「どうかした?」
私の様子に気付いたお兄様に聞かれたけれど、自分でもよく分からないので何でもないわと答えた。




