II-21 ワンズ公爵家のパーティー1
お母様から「たまには二人で社交界にも顔を出していらっしゃい」と言われたので、アレン様のご実家主催のパーティーに出席する事になった。
カミラ様は、ルシファー様に合わせて黒のドレスをお召しになるそうなので、私も黒を取り入れたデザインを選ぼうかなと考えていた。今回は時間がないので、お母様の沢山あるドレスの中から1着を手直しして着用しようと思う。
私が素敵だなと思ったドレスは背中が結構開いており、これを着用する際の下着を考えると、普段身に付けているものより胸を圧迫する力が弱いものになりそうだった。
そろそろ背中を出したものも着てみたかったし、お母様にご相談したら了承をいただけたので、お兄様にも胸のボリュームを抑えるビスチェは卒業でいいですか? と尋ねたら、まだ駄目だよと言われてしまった。
「では、お兄様とパーティーに参加する時だけ背中解禁はどうですか? 学園内では引き続きビスチェを着用するわ」
私の生まれたままの姿をアルマの次に良く知っているであろうお兄様は、腕を組んで考えている。
「リーディアは、お洒落したいんだよね?」
「ええ、もちろんです」
「背中は出さないとダメ?」
「デザインによっては。胸を強調するドレスは着ないから、たまには背中を出してみたいわ」
「うーん、この先ずっと隠すって訳にもいかないか。そこまで束縛したくないし」
苦笑したお兄様が折れて下さったので、このたびのドレスは背中がウエストの少し上まで開いたデザインを選んだ。
そして当日、会場となっている王都のワンズ公爵邸には沢山の貴族が集っていた。
外国の賓客が訪れているそうで、この国では王族の血筋でしか見ない異国の服を着た金髪の男性を何人か確認できた。
「とりあえず、主催者と知人に挨拶してまわろうか」
お兄様にエスコートされながら会場を歩く。珍しいものを見るような視線が集まった。ワンズ公爵ご夫妻に挨拶を済ませ、お兄様が職場の方々に連れ去られてレオも行ってしまったので、私はメイジーを伴い壁際の椅子席へ腰掛けた。ルディと使者様はお留守番だ。
遠くにカミラ様とルシファー様が見える。カミラ様のドレスは黒地に金糸の刺繍が施してあった。ちなみに私のドレスはホルターネックでストラップを首の後ろでリボン状に結ぶタイプで、黒いスカートの上に黒いレースを重ねている。
「それにしても、大国の使者がアルカナに何のご用かしら?」
呟いたら、横に控えていたメイジーから返事がある。
「詳しくは分かりませんが、ワンズ公爵邸に滞在されると言うことは軍事関係の話かと」
「この辺りで紛争は起こってないと聞いているわ。エストリアも落ち着いてきたし」
「ええ、まだ私達は知らなくて良い内容なのでしょう」
話していると、横から明るい声がした。
「お姉様!」
ルイス様だった。
「ダンスタイムになったから、私と踊ろう? ディランからも頼まれてるんだ」
「お兄様からですか?」
「そう。“僕がもし離席していたら、他の男性に申し込まれる前にリーディアを保護して”ってね」
それを聞いて、私はルイス様の手を取った。
「ディア姉様、今日は雰囲気が違うと思ったら、背中が結構開いてるんだね? 似合ってるし綺麗だけど、私、ドキドキし過ぎてステップを失敗しちゃうかも」
その賛辞に笑ってしまう。ルイス様も微笑んでいた。ホールの中程まで歩き、お辞儀をして手を取り合う。
「私が魔法を使っても?」
「ええ、お願いします」
ルイス様もダンスがお上手だ。とても踊りやすいわ。
「私、ディア姉様と踊るのって初めてじゃない? 学園主催のパーティーでも、いつもディランやカリスの騎士達がガードしていたから近寄れなかったし」
「言われてみれば‥‥そうかもしれません」
殿下のリードでターンすると、ホルターストラップの、首の後ろで結んだリボンとオーバースカートがふわりと揺れた。さすが演出も上手だわ、風魔法はトップクラスだものね。ルイス様のお顔を見上げたら、目が合ったので微笑む。相変わらず綺麗なエメラルド色だった。
「うわーダメだ、ディア姉様が可愛いすぎて、ぎゅってしたい‥‥頑張れ私の理性」
殿下が自分を励ましているのを聞いて、また笑ってしまった。