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福原光花の描く、異世界を強く生きる女性シリーズ

あなたのその大きく可愛らしい瞳には、結局のところなにも見えていなかったのね。

作者: 福原光花

今後連載版で10万文字くらいに引き伸ばすかもしれない短編です。


気に入っていただけましたら作者名から他作品も見ていただけると嬉しいです。


星5評価や感想をもらえると励みになります。

 

「ビル・ブライソンにレジーヌ・ベル、汝らにナイトの称号を与える。これからは()()()として、王室と国民に奉仕することを命じる」女王陛下は宣言して、私とビルの両肩に平にしたサーベルを当てていく。


 私たちは、その栄誉をありがたく頂戴する。当然だ。私たちはそのために2年間を、()()アーウィン魔法学園で努力してきたのだから。



 私たちのこれまでとこの世界の在り方について、()()()とも共有しよう。




 「ユニゾン・マジック」、いわゆる魔法融合の技術が体系化されて、私たちの生活は大きく変革した。バディ(絆で結ばれた2人)が力を合わせて魔法を練ると、足し算ではなくかけ算以上になる。以前からある種の偶然、奇跡として確認されていたそれを、人類は自在に統御できるようになった。使用できる魔力量が飛躍的に増大し、あらゆる生活的社会的命題が解決されて、貧困は現在根絶へと向かっている。


 私はその恵まれた時代に、平民の女の子として生を受けた。平民と括られてはいるが、社会全体の豊かさが絶対君主制から立憲君主制へと社会システムを移行させて、普通選挙制度の獲得や貴族と平民間の婚姻の認可により平等な社会が進行していた。平等な社会は魔法及びユニゾン・マジックの適正者をさらに発掘し、社会に更なる恩恵を与えるポジティブ・サイクルを生み出した。私も、その発掘された1人だ。



 大いなる力には、大いなる責任が伴う。



 この世界に古くからある格言を胸に、私は国家の運営するユニゾン・マジックの使役者を養成する教育機関、アーウィン魔法学園に入学することを決めた(アーウィンは今は亡きユニゾン・マジック研究の第一人者の名前である)。16歳の時だった。その同じ年に、私の住む町からは3人が入学することになった。それは町長が生涯の自慢にできるほどの快挙だった。私とビルと、そしてラモーナ・ゴーテル。


 私とビルと()()は、小さい頃からの友人だった。その私たち全員が魔法の才覚を発揮して、同じ学園で学べることはまさに奇跡としか形容できなかった。とりわけ、ビルと彼女は喜んだ。なぜなら2人は、明確に態度や言葉にはしていなかったけれど()()()()()()()()からだ。ビルはスマートな面立ちの優しい少年で、彼女は可愛らしい大きな目が特徴の町1番の美人だった。まさにお似合いだった。私も実はビルを密かに慕っていたのだけれど、それよりも甘酸っぱい2人の関係を近くで見ている方が好きだった。2人はきっと学園でも指折りのバディになって、もしかしたら成績優秀者としてナイトの称号と共に国家に召し抱えられたくさんの人たちを救っていくのかもしれない。私は自分のことをそっちのけで、よくそういった妄想をしていた。最近はこういった感情のことを「推し」と言うんだっけ? ともかく、私も2人に負けないバディを見つけて自分の力を社会に役立てたい。そのために、この2年間を学園で過ごすのだ。私は、いえ、私たちは、来る入学式の日をとても清らかな気持ちで迎えた。



 しかし入学式後、彼女は変わってしまった。



 学園は身分を問わず、ユニゾン・マジックの適正者が集められていた。と言っても、貴族と平民では平民の方が数では圧倒的に多いのだから、大方は平民で構成されていた。だから余計に貴族は目立って、彼女たちだけで固まって過ごしていた。その中で、ラモーナは数少ない貴族から交遊を求められた平民だった。彼女もそれまで知らなかった貴族の価値観や生活に興味があった。当初は私たちを優先しながら貴族たちと交遊していたのだが、次第にその天秤はあちら側へ傾いていく。半年もすると、彼女は私たちから完全に離れてしまった。ビルに対する傾慕も一緒に。どうやら彼女たちから、ビルはあなたにとって不十分だと度々言われていたらしい。そして、同級生にビルよりもキラキラとしたイケメンの貴族がいて、彼女は彼に完全に心を奪われてしまったのだ。


 私たちはとても悲しい気持ちになった。とりわけ彼女を想っていたビルのそれは悲惨だった。三角座りをしながら埋まって泣くビルに、私は声をかけた。


「私だけは、絶対にビルから離れないから」



 私はその時、ある種の()()を抱いていた「ビルとバディになる」という望みを、心の奥底から掬い上げたのだ。



 学園での最初の1年は魔法基礎について学んだ。そして2年目になると()()()()()()と1年目の成績や相性を加味してバディが決められて、その2人でユニゾン・マジックを極めていくフェーズに入る。私は無事にビルとバディになり、彼女はイケメン貴族の彼とバディになった。


 バディが確定した直後、久方ぶりに彼女と会話した。その中で、彼女は私にこういったのだ。「レジーヌがビルとバディになったのね。よかったわ」


 私は思考が一瞬フリーズした。そして、いったいこの女は何が言いたいのだと思った。私がフッた男を拾ってあげて偉いわねとでも言いたいのだろうか? 私は腹がたって仕方なかった。その場はお互い頑張ろうねと言って収めたが、私は彼女を背にして立ち去りながら、その敵対の意思を改めて強固にしたのだ。()()()()()()()()()()()()()



 バディとしての私たちの成績は当初は下位だった。魔法は精神状態の影響をもろに受ける、ビルの失恋の痛みはそれほどに根深かったのだ。一方、彼女のバディは成績のトップを走っていた。その事実はビルをさらに落胆させた。



「ごめんよ、俺のせいで君の成績まで」ビルは私に申し訳なく言う。自分よりまずは私のことを気にかけるその優しさを、私は染み入るように感じる。


「焦らないで、私たちには私たちのペースがあるの。誰かと比べて自分はとか思わないで」私はそう言ってビルを抱き締めてあげた。母のように、自身の体温を相手に分け与えていくように。私だけが、ビルの本当の価値が()()()()()から。




 1学期が終わり、()()()()()()()2学期に入ると、私たちの逆襲がはじまった。成績をぐんぐんと上げていき、彼女のバディがいたトップの座を易々と奪い去ったのだ。要因は2つあった。ビルの失恋の痛みが癒えたこと、そして、私たちが育んだ()()()()だ。ユニゾン・マジックで1番重要なのは愛の結び付きの力なのだ。ちなみに、それは恋愛だけとは限らない。友愛や家族愛によって強化されることもあるが、大方の場合恋愛が大きく作用する。だからこそ、バディの確定にも本人たちの希望が大きく関わって、男女ペアが通常とされている。もちろん、男性同士・女性同士の恋愛で結び付いたバディもいる。彼らのエピソードにもとても面白いものがあるが、それはまた別のお話、いつか別の機会に話すことにしよう。いまは、私たちの話だ。



 1年目の個人別の成績において、私とビルは共に中の上といった位置で(ビルは失恋の傷心で後半成績を下げていたので、本来はもっと優秀なはずだった)、彼女と彼はそれぞれ2位と1位だった。元来それほどの差があって何故今回の逆転が起こったのか、それは偏に彼女と彼の愛が本物ではなかったからだ。魔法は嘘をつけない。きっと彼の彼女に対する気持ちが純粋ではなかったのだろう。都合のいい平民の女と見下していたのだ(と思う)。当の本人たちも、それに気づいていないのかもしれないけれど。


 彼は私たちの下克上にひどくプライドを傷つけられたらしい。成績上位3組のバディが国の召し抱えになれるので、実質的にあまり問題はないのだけれど、ずっと下にいた平民同士のペアに一気に抜かれたことはよほど腹に据えかねたようだ。彼は不正を働いた。禁止されていた強化魔法薬によるドーピングに手を出したのだ。彼個人の魔力はそれによって飛躍的に高まった。しかし、彼女との相性が悪くなってバディとしてはむしろ成績を落としてしまった。そして副作用により性格が攻撃的になった。学園側は当然その変化を察知する。暴れる彼を押さえ付けて検査にかけて、事件は発覚した。彼は退学処分になり、彼女は卒業までずっとバディのいない状態で過ごすことになった。まるで未亡人のように。私たちはその間、トップを他に明け渡すことはなかった。




 そしていま、卒業式と平行して行われるナイトの叙任式の壇上に、私たちはいる。学園の講堂で執り行われて、他の卒業生と父兄に政府・王室関係者、OB・OGに後輩の在園生が集合している。ナイトの叙任が終わると、一同が拍手で祝福してくれた。私はその拍手喝采を意に介さず彼女を見下ろした。彼女は複雑な表情を浮かべながらも周りと同じように拍手している。私は心の中で彼女に向けて、これまでの思いをぶちまけた。


『ざまぁみろ! 私たちを裏切ったからそんな目に遭ったんだ! ばあか、あほお!』



 私は壇上で音にのらない罵声を彼女に浴びせると、途端に胸がスーッとして、今度は悲しみの波が押し寄せてきた。講堂に集まっているたくさんの人たちの姿を見て、私は入学当初の清らかな気持ちを思い出したのだ。力を持つものの責任としてこの学園に入ってユニゾン・マジックを修めようと思っていたのに、私はいつしかユニゾン・マジックで彼女を負かすことばかり考えていた。私も変わってしまっていた、眼は濁り、観えなくなっていたのだ、自分が助けたかった人たちのことを。私は彼女と仲直りしたいと思った。以前のように友人に戻りたい、そうしないと進めない、誰も助ける資格はない。



 でも、ビルは絶対に返さないけどね。



 私はいろんな思いを抱いたまま、指示にしたがって降壇した。ビルと一緒に。

もしかしたら、ラモーナ視点のアナザーバージョンの短編も投稿するかもしれません。

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[良い点] 話としてはおもしろそう [気になる点] 読みにくいです。傍点が多すぎます。 ビルって大事なキーキャラだろうけど、存在感薄くないですか? 他にも、過程がなさすぎて感情移入ができません。もっと…
[気になる点] 傍点多すぎてバカみたいに見えてしまう
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