最終回 馬術の青春
私がウマの魅力を語るこの作品は、小説というか説明書。ウマに興味はあるけれど、競馬を少し知ってる、馬術って何?!という人にぜひ読んでほしい。そしてウマと馬術を好きになって欲しいの!
色々なこと語るけどあくまで個人の見解だから偏った内容でも多めに見てね♪
大学馬術部のスケジュールがブラックだとか、上下関係が激しくカルトの様だとか、ちょっと悪い情報ばかり続いてしまったからここが素晴らしいってところもご紹介しておかないとね。
すでに紹介したことなんだけど、とにかく青春を感じる環境であること。今回はここを掘り下げようかしら。
なぜ大学馬術部に青春を感じるのか。一言でいうと〈共有〉だと思うの。
まず、馬術部に入部してくる人に馬に興味がない人はいないわ。きっかけは競馬だったり、観光牧場の引馬だったり、優雅な雰囲気に憧れてだったり……それぞれあると思うんだけど、馬という生き物に興味がなければ数あるスポーツの中でマイナーな馬術を選ぶ人はいないわ。入部の時点で馬への興味という共有事項があるのね。
次に時間の共有。ご紹介した通り、馬術部を学生生活の中心に置かなければこなせないスケジュールで日々を過ごすから、部員同士の時間の共有はすごい数を積み上げるわ。喧嘩もあれば色恋だってある。二十歳前後の学生たちが濃密な時間を共有するの。
次に成績の共有ね。馬術は基本的には個人(一人馬)の競技だけど、学生馬術には団体戦がある。野球やサッカーのような団体競技ではないけれど、自分の結果がチームの順位に反映されるから、競技の上でのチームワークも生まれる。誰が一番目に出場して、経験の少ない人へコースの注意事項を伝えるか? どの人の技術に、どの馬の個性が合うのか? とかね。より良い成績を共有できるように思案する団体競技の一面もあるの。
道具・用具の共有というのもあるわ。馬術に必要な道具は大変高価なものだから、個人で所有するのはとても難しい。鞍なんて何十万もするからね。だから歴代引き継いできた部の共有財産である馬具を扱っていくというのも一つの共有かしら。個人で使用するキュロット(乗馬ズボン)やヘルメットなどを卒部する世代が下級生に引き継ぐのも恒例となっているわ。道具と共に想いの共有もしたいと願うのが人情ってものよね。
ここまでの事は他の部活動でもある事よね。馬術部では他の部活では得られない青春があると言い切るには弱いかしら。でもこれはどう?
部員は一年ごとに卒部していくけれど、馬は残っていくという意味では、馬自体も共有しているわね。私たちの大学では、この一年この馬をメインで担当するのは誰かを年度の初めに決める。という担当馬システムで運営していたの。翌年以降の担当する人の事を考えて調教メニューをくんだり、時には他の担当馬に乗せてもらって技術の習得に勤しんだり。個性あふれる馬たちを部員全員で共有するの。
次が最後。死生観の共有ね。生き物を扱う以上、生き死には常について回るもの。人間だって馬だっていつ命が終わるかはわからない。今日にだって急な病気で死ぬことだってある。生物を扱ううえで避けては通れないコトよね。だからこそ愛着を持って毎日のように馬に接する。触れ合う機会が多くなれば多くなるほど大切なパートナーとなっていくわ。だけど部員達の意思で馬の命を奪わなければならない事だってある。
競馬の世界では毎年八千頭くらいのサラブレッドが生産されるけど、結果が残せない馬から淘汰されていくわ。現役を退いた競走馬はお父さんやお母さん、いわゆる繁殖になれれば万々歳。乗馬用途やオーナーが余生まで面倒を見る功労馬となれる馬も一握り。多く競走馬は……言わなくてもわかるわよね。この命のサイクルは馬術部でも全く同じ構造よ。規模の大きさは全く違うけれどね。結果が残せなくなった馬、ケガなどで部員を乗せる時間が減った馬、限られた環境や予算の中で馬たちも新陳代謝する必要があるからね。部員たちはツテを使って何とかより良い条件の行先を探すけど、うまくいかない事もある。最後の決断を自分たちで行うという可能性に毎年向き合うの
私はこうやって多くの命を奪うことが悪だとは思わない。経済動物として生まれた宿命だとも思う。これは私がもっている馬への死生観。部員たちは普段言葉には出さないけれど、命に直面する部活動であることを理解し自分なりの考えを持っているのよ。
これだけ多くのコトを共有する部活動ってすごく魅力あると思うの。だからこそ馬術部で得られる青春は深く、濃い。そして色あせないのよ。
私は馬術部を卒部し、社会人になってから馬の世界は離れたけれど、今でも馬の世界で活躍する同期もたくさんいるわ。数多くの有名馬がトレーニングをこなす施設の責任ある立場にいる者、現場で馬の病気やけがに向き合い続ける者、調教師試験を目指す者……
全く違う世界で活躍している同期もいる。全員が仲良いわけじゃないし、何年も会話していない、今何しているのか知らない同期もいる。だけどこれだけは自信をもって言えるわ。馬術部で過ごした青春を後悔している者は、私たち同期には誰一人いないってね。
こんな何物にも代えがたい青春を、少しでも多くの人に感じてもらおうとする同期もいるの。彼なりの手法でね。それが漫画 SHOW JUMP よ。
ってことで、今回でいったんお別れ、最終回よ。
いつか今回の〈ライト編〉の続きである〈ディープ編〉をお届けしたいと思ってるわ。
では、またいつかね。
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