第9話 霧島
登場人物
・富士つばめ…転校生、朝風興信所の職員
・すずらん…AIドローン
・朝風北斗…朝風興信所の所長
・因幡大宣…朝風興信所の職員
・赤羽まりも…同じクラスの娘、バトミントン部、行方不明
・神山えびの…同じクラスの娘、弓道部
・日高志麻…同じクラスの娘、写真部
・村山こがね…隣のクラスの娘、家庭科部部長
・出雲小町…隣のクラスの娘、バトミントン部、まりもの友達
・霧島遥香…バトミントン部、登校拒否
・三次…同じクラスの男子、サッカー部
・穂高江佐志…担任の男性教師、担当は英語、パソコン部顧問
・阿賀野…女性教師、担当は体育
・渡月…女性教師、担当は家庭科、家庭科部顧問
・小倉苗羽…男性教師、担当は科学
毎日、小町とおしゃべりをしているが、ここまで、新たな情報は無く、新たに監視カメラも検知されず、これといった進展が無いまま、日付だけが過ぎた。
小町も、何かしら処分が科されるかと思っていたが、今のところ、担任は、何も言って来ないらしい。
小町が暴れた日から、休みがちになっていた、霧島という娘は、完全に学校に来なくなってしまったらしい。
北斗に報告し、調べてもらったのだが、どうやら家にはいるらしく、失踪ではなく、単に登校拒否らしい。
相変わらず、教室では、急に来なくなったことで、さまざまな憶測が、噂となって、飛び交っていたが。
いよいよ、中間考査が始まった。
考査中は、全ての部活動が、一旦停止となる。
朝、登校すると、普段朝練でいない人たちが、教室に集まって、勉強していた。
つばめも、周囲に合わせて、勉強をしていた。
つばめには、すずらんからの、支援がある。
胸の万年筆には、スキャン機能が付いていて、テスト内容を丸ごと読み込み、すずらんに転送することができる。
それをすずらんが解き、答えを欄に映してくれる。
それを、つばめは、転記すれば良いというわけである。
最終問題や、点数の高そうな問題は、わからないフリをして、記載しなければ、そこそこの点が取れるという仕組みである。
仮に万年筆をしまうように注意されても、少し太めのシャーペンに同じ機能がついている。
ただ、すずらんも万能というわけでは無く、苦手な教科がある。
それが、現代国語。
そもそも、細かい文法が、よくわからないらしい。
古文に関しては、英語のように、現代仮名に変換できるし、そもそも、データベースに現代語訳がある。
だが、現代国語は、文章の中を読まなくてはならない。
そこだけは、つばめが、地力でやらないといけないのである。
二教科の試験が終わった休み時間、小町が、つばめの教室に飛び込んできた。
「つばめちゃん。霧島さんが学校に来てる。試験終わったら、問い詰めようよ」
つばめは、目を丸くし、小さく頷いた。
正直、ちょっと意外だった。
ここまで、登校拒否をしていた霧島さんである。
このまま、考査も受けず、退学してしまうものと思っていたのだ。
考査は、午前だけなので、四教科目の試験が終われば、帰宅時間となる。
試験が終わると、つばめは、身一つで飛び出し、小町と合流。
霧島遥香の教室へと向かった。
霧島は、どこかうつろな目をしていて、ちょうど、帰り支度をしているところだった。
つばめと小町は、教室の外で、霧島が出てくるのをじっと待った。
二人は、霧島が教室から出ると、後を付け、靴箱の前で、腕を掴んだ。
霧島は、小町の顔を見て、逃げ出そうとしたが、反対の手を、つばめに捕まれた。
帰るんだから、離してと抵抗する霧島に、小町は、何であんな事を言ったのか、理由を聞かせてくれたら、離してあげると言い放った。
少し背の高い小町は、小柄な霧島より、目線が高く、少し見下ろすような形なっている。
もしかしたらという話で言ったはず、そう霧島は言い訳した。
すると、小町は、じゃあ、小倉が、まりもと言い争ってるのを見たっていう方は、本当なのかと聞いた。
霧島の言った『噂』は、小倉先生が、まりもを監禁しているという部分と理解したのだろう。
「赤羽さんに見えたけど、もしかしたら、見間違いだったかもね。遠くからだったから。もしかしたら、相手も小倉先生じゃなかったのかも」
その話では、全てがでっち上げということになってしまう。
小町は、怒りがこみあげてきたらしく、霧島を掴む手に、力が入った。
「ふざけんなよ! いい加減なこと言いやがって! こっちは、ずっと、まりものこと真剣に探してるんだぞ!」
小町のあまりの剣幕に、霧島も、別に、からかったつもりは無いけど、結果的にそうなったのなら、謝ると言い出した。
どうやら、小町は、怒りで、完全に冷静さを欠いてしまっているらしい。
逃げられないように、霧島の手を掴んで、少し持ち上げ、睨みつけている。
これでは、傍から見たら、確実に、いじめか、かつあげ現場だろう。
ちょっとマズいなと、つばめは感じた。
そこで、ここまで、黙って聞いていた、つばめが、そんな小町の代わりに、質問をした。
「ねえ。どうしてずっと休んでいたの?」
つばめの質問に、霧島は、明らかに動揺した。
それまで、小町を睨み返すように、見上げていた顔が、怯えるような目になり、小町から目を反らした。
「な、なんでもない。た、単に、来るのが嫌になっただけよ……」
この反応は、嘘だ。
つばめの万年筆が、ぴぴっと音を立てた。
すずらんも、彼女の発言を、嘘と見抜いたらしい。
「突然、来るのが嫌になるような、何かがあったってことよね?」
どういうこと? と、小町は、つばめに尋ねた。
だが、小町を一瞥しただけで、つばめは、霧島への質問を続けた。、
「もしかして、誰かに、そう言うように、頼まれたんじゃないの?」
霧島は、つばめの指摘に、わかりやすく反応し、俯いて黙っていた。
そんな霧島を見て、小町は、かなり冷静さを取り戻したらしい。
霧島の腕を掴んだまま、小町が、頼まれたって、何のために? 私を騙して、誰が得するのと聞いた。
誰かが、小倉先生に嫌がらせをするためにと言うと、小町は、そっちかと言って、少し納得した。
「もしかして、何か、脅されてるんじゃないの?」
つばめの一言に、霧島は、ぴくりと体を震わせ、瞳を潤ませた。
その反応に、小町もかなり驚いている。
霧島は、無言でうつむき、肩を震わせている。
良く見ると、徐々に、目が潤み始めている。
「何だって良いじゃない。あなたたちに、何かできるわけじゃないんだから」
そう叫ぶと、霧島は、両腕を振り回し、二人の腕を振り払った。
「あなたたちだって、そのうち、私みたいになるわ」
そう言い残し、霧島は、全力で逃げ帰ってしまった。
脅迫。
つばめの教室に戻って来た小町が、そう呟いた。
すでに、クラスの生徒は全員帰宅していて、教室には、つばめと小町しかない。
赤羽さんの失踪に、あの人が、何かしら関わっているのかも、つばめが言うと、小町は、どうしてさっき、霧島さんが、脅されてると思ったのと聞いてきた。
登校拒否になる理由を考えれば、想定されるのは二点。
学校に来ると苦痛を感じる、もしくは、学校にくるのが怖い。
前者の代表例がいじめ、後者は脅迫や恐喝。
休んでいた理由が言えない。
その時、霧島は、来るのが嫌になったと、わかりやすく嘘をついた。
いじめが原因であれば、恐らくだが、その時点で、口ごもると思う。
であれば、原因は後者。
誰から、小倉先生をハメるように頼まれたという話に、どういうわけか拒否感を示した。
つまり、それを命じた誰かがいて、その『誰か』に脅迫を受けているんじゃないか。
学校にくると、その『誰か』に会うことになるから、学校に来なくなったのではないか。
「凄いじゃない、つばめちゃん! 本当に探偵さんみたい!」
小町に、褒められて、つばめは、素直に照れた。
小町は、何、照れてるのよと、つばめの背中を、パンと叩いで笑い出した。
「ねえ、小町ちゃん。あの人って、赤羽さんと仲良かったの?」
小町は、思い出すように、少し考え込んだ。
正直なところを言うと、小町は、これまで、霧島に対し、あまり興味を抱いたことが無かった。
そのせいで、まりもと、霧島が、どんな仲だったのか、パッとは、思い出せなかった。
ただ、バドミントン部での、いくつかの出来事を思い出すに、正直、仲は良い方じゃ無かったと思う。
「もしかして、赤羽さんも、小町ちゃんと同じように、変なことを、あの人に言われたのかも……」
だとしたら、私は絶対にあいつを許せない。
そう言って小町は、唇を嚙みしめた。
二人が、話し合っていると、教師が見回りに来て、考査中なんだから、さっさと家に帰って、テスト勉強しろと怒られてしまった。
渋々、二人は、教室を出て、帰宅の途に就いた。
校門で、二人は別れ、つばめは、一人になった。
霧島の態度を思い出しながら、とぼとぼと歩いていると、胸の万年筆が、ピピっと鳴った。
すずらんも、霧島という娘が気になるらしい。
声紋判断から、何かを隠している風であると診断した。
ただ、今回の件で、霧島さんは、かなりこちらを警戒しただろう。
恐らく、もう何も聞けないだろうし、下手すると、これを機に、もう学校には来なくなってしまうかもしれない。
「追跡してみましょうカ?」
すずらんの進言が、あまりにも唐突で、つばめには、すぐには理解できなかった。
すずらんの話によると、先ほど、霧島さん所持していた携帯電話の電波を検知したらしい。
そこから、基地局にアクセスし、携帯電話の情報を、取得したのだそうだ。
携帯電話の電源が入ってる限り、携帯電話は、基地局にアクセスし続けるのだそうで、その基地局の情報から、ある程度の、携帯電話の所在地を、特定可能なのだとか。
あなた、時々、凄い性能を発揮するよねと感動すと、すずらんは、時々じゃなく毎回だと、しっかり訂正してきた。
「じゃあ、明後日、試験が終わるから、その後、どこに行くか、追跡お願いね」
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