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第6話 小町

登場人物

・富士つばめ…転校生、朝風興信所の職員

・すずらん…AIドローン

・朝風北斗…朝風興信所の所長

・因幡大宣…朝風興信所の職員


・赤羽まりも…同じクラスの娘、バトミントン部、行方不明

・神山えびの…同じクラスの娘、弓道部

・日高志麻…同じクラスの娘、写真部

・村山こがね…隣のクラスの娘、家庭科部部長

・穂高江佐志…担任の男性教師、担当は英語、パソコン部顧問

・阿賀野…女性教師、担当は体育

・渡月…女性教師、担当は家庭科、家庭科部顧問

 部活動の時間が終わり、つばめは、調理実習室を出て、一人、靴箱に向かって歩いていた。


 あんな、汁粉一杯で、買収されて入部してしまった……。


 料理は好きではあるけど、そんな、部活動でまで、やるようなことなのかなあ。

家庭科部っていうなら、可愛い刺繍や、レース編みなんていうならまだしも。

そう、ぶつくさ言いながら、靴箱に向かっていた。


 調理実習室は、一階の端で、靴箱は、一階の中央。

その途中に、上に行く階段がある。

その階段が近づいてくると、上の階から、女生徒の怒声が聞こえてきた。


 つばめは、急いで階段を駆け上がった。

二階に上がったが、見当たらない。

三階に上がると、声がかなり大きく聞こえてきた。

四階に上がって、やっと、その声の主に行き当たった。


 一人の女生徒が、一人の教師に掴みかかっていたのだった。



「さっさと、まりもの監禁場所を吐けよ!」


 まりも?


 科学教科室の前で、一人の女生徒が、硝子窓に、男性教師を押し付けているのが見えた。

男性教師は、俺は知らんと言って、女生徒を睨みつけている。

それでも女生徒は、お前が監禁してるって話を聞いたんだと言って、さらに男性教師を壁に強く押しつけた。


 誰から聞いたんだ。

教師のその問いに、女生徒は、少し言いよどんだ。

だが、女生徒は、複数の人からだと言って、再度、教師を壁に押し付け、睨んだ


 複数とか言って、どうせ二人とかだったりするんだろうと言って、男性教師は、睨み返した。

二人から聞けば十分だろと、女生徒は、ネクタイを掴んで、さらに教師を窓に押し付けた。


 男性教師は、ネクタイを引っ張られ、首が閉まって、非常に苦しそうにしている。

こんなことして、俺が監禁してなかったら、お前は、どうするつもりなんだと、息苦しそうに、途切れ途切れに言った。


「それはつまり、お前が監禁してるってことじゃないか!!」


 どういう理屈なんだろう。

さすがに、聞いていたつばめも、女生徒の発言の意味がわからず、首を傾げた。


 男性教師は、こんなことをして、ごめんなさいじゃすまないと言っているんだと、諭すように言った。


 この期に及んで、まだ、教師としての体面を保とうとする、その姿勢は立派だとは思う。

だけど、逆効果だろうなと、つばめは感じた。


「まりもの無事が確認できたら、その後で考える!!」


 女生徒は、男性教師を、窓に、ガンガンと叩きつけた。


 やっぱり。

頭に血が上った相手に、その説教の仕方は、どう考えても逆効果だと、つばめも感じた。

この女生徒のことはよく知らないけど、ここまで見る限り、考えるより、手が先に出るタイプっぽいし。


 いい加減にしないかと言って、教師は、女生徒の腕から、斜めに逃れた。

そのせいで、女生徒は、先生とは反対側に転び、柱にぶつかり、廊下に座りこむ形になった。


 多くの人が、彼女の大声を聞いたのだろう。

何事かと、徐々に生徒が集まってきて、科学教科室の前には、ちょっとした人だかりができてしまっていた。


 この事は、お前の担任に言って、厳重処分してもらうから、覚悟しておけと言って、男性教師は、化学教科室に逃げ込んだ。

すぐに扉から、カチャカチャと鍵をかける音がした。



 廊下には、女生徒だけが取り残されることになった。

女生徒は、くそっと、廊下を叩くと、人だかりをかき分け、俯きながら、教室の方へ歩いて行った。


 つばめも、人だかりをかきわけ、女生徒をそっと追いかけた。




 その女生徒は、がっくりと肩を落とし、一度大きく深呼吸をしてから、つばめの隣のクラスに入って行った。


 つばめが教室を覗くと、女生徒は、席に座り、机に両拳を押し付け、うなだれていた。

肩が小刻みに震えている。

泣いているのかもしれない。


 つばめは、その痛ましい姿を、口に手をあて、そっと入口で見守っていた。


「まりも。どこに行っちゃったんだよ……」


 そう女生徒が、呟いた。

右の頬に、雫が伝った。


 しばらく泣いていた女生徒だったが、気持ちを切り替えたのだろう。

涙を拭い、椅子から立ち上がり、教室を出ようと、入口に視線を移した。

そこで、じっと自分を見つめているつばめと、目が合った。


「「!!!」」


 女生徒からしたら、誰も見ていないはずだったのだろう、驚きと羞恥で、かなり複雑な表情をしている。

つばめも、突然、女生徒と目が合い、ドギマギしてしまった。


「わ、私に、な、何か用?」


 やばい。

もしかしたら、この女生徒が、何か知っているのかもと、期待して、追いかけて来た。

どうやら、当たりではあったらしい。

だけど、いざ話しかけられると、どぎまぎしてしまい、全く言葉が出てこない。


「というか、あなた、誰?」


 数日前に転校してきたと言うと、女生徒は、転校という言葉にうなずき、つばめを、物色するように、上から下まで、眺め見た。


「ああ、隣のクラスに来たっていう転校生か。で、私に何か用?」


 やばい、やばい。

まだ、心の準備が、全然できていない。

さっきのを、そこまで言ったものの、その後を何と言おうか、全く言葉が見つからない。


「見てたんだ。で?」


 多分、泣いてるところを見たられた、照れ隠しなのだろうが、異様な圧を感じる。


 やばい、やばい、やばい。

赤羽まりものことを聞きたいなんて、素直に言ったら、確実に疑われる。

どうしたら。

どうしたら……。

そうだ、クラスメイトのお休みしてる娘の名前が出たから気になって。

これで行こう。


「まりもは、私の幼馴染だけど、それがどうかしたの? 何で、転校生が、まりものことを、気にしてるの?」


 女生徒は、鼻から大きく息を吐くと、無作法にも、机の上に腰かけた。

スカートが短く、股の奥の白いものがちらりと見え、つばめは、思わず目を反らした。


 やっぱり、不自然だったか。

理由か……自分が、赤羽さんを気にする理由、何か無いかな……。

とっさに思い出したのは、先ほどまで探していた部活のことだった。

前の学校で、ミステリー研究会に入ってて、興味が湧いた、そう言い訳した。


「好奇心は、猫を殺すって言うらしいよ?」


 女生徒は、非常に冷たい目で、つばめを見つめた。


 つばめは、少し驚いた。

先ほどの、およそ知性の欠片も感じない行動から、そういう、まず体が動くタイプなんだと、勝手に思い込んでいた。


 だが、今、彼女が発した言葉は、外国の有名なことわざである。

実は、かなり、勉強もできるタイプの娘だと感じた。


 つばめは、思い切って、自分も一緒に赤羽さんを探したいと申し出た。

ミステリー研究会の血が騒ぐと言って。


 だが、女生徒は、あなたも停学になるかもと、不機嫌そうな顔で忠告してきた。


「それよ、それ。あなたが停学の間、私が代わりに、探すことだってできると思うんだけど、どうかな。お互い情報交換できれば、何かわかるかも……」


 それまで、険しい表情だった女生徒は、やっと頬を緩めた。

わかったわかったと、何かを諦めたような感じで言い、やれやれという仕草をした。

机から降りると、つばめのところに寄ってきて、よろしく、ホームズさんと言って、右手を差しだした。


 つばめも、よろしく、ワトソンさんと言って、その手を握り返した。

その後、二人は、女生徒同士らしく、少し甲高い笑い声をあげた。



 女生徒は、『出雲(いずも)小町(こまち)』という名で、まりもと同じ、バドミントン部らしい。


 背はやや高めで、横に立つと、背の低いつばめは、肩ぐらいまでしか無い。

バトミントン部というわりには、脚が細く、少し肌が陽に焼けている。


 髪は短く、顔には、少し、そばかすがある。

目鼻立ちは、かなり整っていて、可愛いというより、美少年のような顔立ちである。


 胸は……成長のあとが、全く見られない。



 小町とまりもは、家も近く、幼少期から、一緒にいることが多かったらしい。

母親同士も、仲が良く、よく同じ公園で遊んでいた。


 幼稚園も同じ、小学校も中学校も同じ。

しかも、同じクラスになることも多かった。


 まりもは、かなりしっかりした性格で、小町は、どちらかというと、自由な性格である。

小町がやんちゃをして、まりもが、たしなめるということが、昔からの二人の関係だった。


 まりもは、二言目には、これだからO型はと、少し呆れ気味に言って笑う。

小町は、その笑顔を見て、えへへとバツが悪そうに笑う。

そんな仲だった。


 中学校で、小町がソフトボール部に入ると、まりももソフトボール部に入った。

二人で、同じ男性の先輩に憧れ、二人でその先輩の話をして帰るなんてこともあった。


 高校も同じ高校を受験し、小町がバドミントン部に入ると、まりももバドミントン部に入った。



 入学して、半年ほどした頃、三年生の女生徒が、行方不明になった。

当初は、登校拒否ということだったようだが、警察に捜索願いが出されたようで、失踪ということになった。


 当時、一年生の間でも、かなり話題になった。

念のため、女生徒は一人で帰らないようにと、担任からの通達があった。

部活も、早めに終わるよう、通達があり、まりもと二人、怖いねと言いながら帰宅した。


 だが、長期休みを挟むと、皆、徐々に忘れていき学校生活は、それ以前のものに戻っていった。


 二年生になると、また一人、三年生の女生徒が、行方不明になった。

だが、今度は、何の通達も出なかった。


 生徒の間では、前年行方不明になった女生徒も、未だ見つかっておらず、様々な憶測が飛ぶことになった。


 来年になったら、自分たちの学年の番かもと、まりもと言い合っていた。

今にして思えば、その頃から、まりもは、何かに悩んでいる感じだった。


 三年になり、久しぶりに、まりもとは、教室が別れた。


 部活で会っても、まりもは、明らかに口数が減っており、何か、すがるような目で、小町を見るようになった。

だが、何を聞いても、まりもは、大丈夫としか言ってはくれなかった。


 もしかして、仲の良い人がおらず、寂しい思いをしているのかもと、心配していた。


 ふた月ほど前のある日、突然、まりもの母親から、小町に電話が入った。


「うちのまりも、そっちにお邪魔していないかしら?」


 そう言ってきた、まりもの母は、明らかに声が震えていた。

ただ事じゃないと思い、小町は急いで、まりもの家に向かった。


 まりもの部屋は、きっちりとした彼女の性格を表すかのように、綺麗に整頓されていた。

ゴミ箱にゴミすら入っていない。


 鞄も無く、いつも制服をかけていると思しき、ハンガーだけが、虚しく壁にかかっていた。


 最近、学校からの帰りが遅いと、今朝、少し注意した。

そうしたら、こんな時間になっても、まだ帰って来ないのよ。

今まで、こんなこと、一度も無かったのに。


 まりもの母親は、客間で泣き続けていて、まりもの父親が、困り顔をしていた。



 そこから、今日まで、家には帰ってきていないらしい。

両親も、警察に、捜索願い出したみたいだが、この年齢には、『よくあること』と言われ、まともに、取り合ってもらえなかったのだそうだ。


 まりもの父親は、どうやらまともに捜査されていないらしいと感じているらしい。

もしかしたら、反社会的な奴らに関わったのかもとも言っているのだそうだ。


 反社会的な奴ら。

なるほど、確かに、そう言った連中に関わったのだとしたら、警察が動きたがらないのも、うなずけるかも。


 ただ、ここまでの話で、およそ、反社会的な奴らに、関わるような娘だったようには、聞こえなかった。

至って真面目。

志麻たちの言うように、どちらかといえば、融通が利かないくらい真面目な娘に感じる。


 小町は、もしかしたら、変な取引現場を、偶然見ちゃったとかじゃないかと、思っていると言い出した。

……なんか、そんなアニメがあった気がする。


「なるほどね。最近、物騒だもんね。警察は、強い者の味方だから、役に立たないしね」


 ほんと、最低だよねと、二人は苦々しいという顔で言い合った。

小町は知る由もないが、つばめは、明確に一人の人物を、脳裏に描きながら、発言していた。

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