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第5話 どの部に入ろうかな

登場人物

・富士つばめ…転校生、朝風興信所の職員

・すずらん…AIドローン

・朝風北斗…朝風興信所の所長

・因幡大宣…朝風興信所の職員


・赤羽まりも…同じクラスの娘、バトミントン部、行方不明

・神山えびの…同じクラスの娘、弓道部

・日高志麻…同じクラスの娘

・穂高江佐志…担任の男性教師、担当は英語、パソコン部顧問

 転校して一週間も過ぎると色々とメッキが剝がれてくるものである。


 つばめは、それなりに勉強はできるのだが、とにかく運動ができない。

それなりに勉強ができると言っても半分はすずらんの補佐である。

それを差し引くと全くダメということになるかもしれない。



 当初、転校生がどの部活に入るのかクラスメイトの多くが注視していた。


 つばめは背は低いのだが四肢は長めで、かなり細身のモデル体形だったりする。

その割にそれなりに胸はある。

そのため体操服がなかなかに似合う。

もしかしてかなり運動神経も良いのではと期待を持たれていた。


 その日の体育は走り高跳びだった。


 何人かが飛んだ後つばめの番となり、高跳びの踏切台に向け走り出した。

驚くほど足が遅い。


 少し手前で踏み切り、背面飛びで棒を飛び越えようとした。

だが飛んだ方向がおかしく奥のマットに届かない。

高跳びの棒の手前の地面に背中から落ち悶絶した。


 クラスの女生徒が大丈夫?と言いながらつばめを心配した。


 だが、どうやらその光景が阿賀野(あがの)という体育の女教師の目に、ふざけていると映ったらしい。

もう一度と冷たく言われ、涙目でもう一度飛ぶことになった。


 二度目は何とか上半身と右足までは棒を超えた。

だが左足が棒に引っかかった。


 マットの上で股の一番奥を挟み込んだ棒でしたたかに打ちつけ、つばめは悶絶した。

それを見た女生徒たちは心配するより爆笑だった。


 この初回の体育の授業で運動部の生徒は全員勧誘を諦めた。



 とはいえ、そんなつばめにも得意教科はある。

それが家庭科。


 ある日、家庭科の授業でお昼ご飯を作ることになった。

お題はカレーで、三人一組で決められた金額で作れという指示だった。


 志麻はつばめが普段から弁当を自分で作っていることを知っている。

そこで友人と二人でつばめを誘った。

神山も密かに同じことを狙っていたのだが先を越されてしまった。


 どんなカレーが食べたいの?とつばめに聞かれ、志麻は『美味しいカレー』というかなりざっくりとしたリクエストを出した。

じゃあ自分がルーを作るから、付け合わせをお願いと二人に頼んだ。


 とはいえ金額に上限というものがある。

良い材料にこだわることはできない。


 当日、志麻は自分たちが想像した斜め上の食材を目にすることになる。


 豚肉、玉ねぎ、人参、そこまで良い。

にんにく、しょうが、それも隠し味として、まあ、ありだろう。

それ以外に何か粉香辛料が四種あり市販のルーが無い。


 周囲が玉ねぎを刻んでいる頃、つばめはいきなりフライパンを取り出し粉末クミンを少し多めの油で炒めて始めた。

周囲が玉ねぎを飴色に炒め始める頃にはつばめも玉ねぎを炒め、そこにニンニクと生姜を投入。

さらに粉末ウコンと粉末のコリアンダーを投入し、チリペッパー、塩、胡椒を入れ味を調えた。


 ここまでを極めて手慣れた手つきで行い、人参とじゃがいもの皮を剥き、適度な大きさに切って鍋に入れて茹で始めた。


「ねえ、普通のカレーとスープカレーどっちが良い?」


 ごくごく普通のポテトサラダを作ろうとしていた志麻たちは、ぽかんと口を開け、つばめの調理を見ていた。

二人は口を揃えて普通ので良いと呟いた。


 家庭科の渡月(とげつ)先生は、できたカレーを一口食べ絶句。


「富士さんは、インド料理屋でも経営する気なの?」


 志麻も一口食べ、ご飯炊くよりナンを買ってくれば良かったと感想をもらした。




 そんなある日、つばめは担任の穂高先生に呼び出され、部活動に参加するようにと指示された。


 それを神山と志麻に相談すると神山は、運動部以外が良いんじゃないかなと笑いをこらえていた。

それを聞いた志麻も笑いをこらえながら、じゃあ放課後一緒に部活見て回ろうと言ってくれた。


 普段から活動している文化部は非常に少ない。

その日は週に一回の文化部の部活動の日で、見て回るにはちょうど良いということだった。


 志麻に部活動をしなくて大丈夫なの?と聞くと、私はこれだからと首から下げたカメラを持ち上げた。


 二人はパソコン部、吹奏楽部、華道部、茶道部、放送部、軽音部、美術部、文芸部、家庭科部と見て行った。

志麻はその都度活動の様子を写真におさめていった。


 最後が志麻の所属する写真部だった。


「ねえ、つばめちゃん。料理得意なんだから家庭科部に入ったら?」


 別に料理なんて帰ればいくらでもやれる。

せっかく学校に来たのである。

できることなら、この機に女子力を磨いておきたい。


「花嫁修業になりそうなことが良いから、華道部か、茶道部が良いかなって」


 それを聞いた志麻は、つばめちゃんの場合、花嫁になるのに必要なのは技術より体力な気がすると言ってくすくすと笑い出した。

写真部は意外と歩くから体力つくよと、志麻は自分の首にかかったカメラを手に持った。


 じゃあ写真部にしよっかなと言いかけたところに、つばめの手を後ろから引く者がいた。


「富士さん! 日高さんも、こう言ってるんだから家庭科部に入りましょうよ! 一緒に美味しいご飯食べましょう!」


 この人、いつの間に後ろにいたんだろう?


 つばめが、えっとと口ごもっていると、女生徒は隣のクラスの村山こがねと名乗った。

家庭科部の部長をしているらしい。

先ほど見学に行った後、担当の渡月先生から凄い本格的なカレー作ったという話を聞いたのだそうだ。


 つばめは、毎日料理してるから部活動でまではと言って断ったのだが、村山は、私たちにも料理教えてと言って全く諦めてくれなかった。

お菓子作ったら男の子たち喜んでくれるよと、目を輝かせてつばめの目を見つめた。


 つばめは、心底困ったという顔で志麻に助けを求めた。

すると志麻は、人の部室の前でよく堂々と勧誘できるねと、じっとりとした目で村山に言った。

村山が恐る恐る教室の入口を見ると、写真部の面々が集まっており村山を睨んでいた。


「ふふふ。失礼しました……」


 村山はつばめの腕を引き、無理やり調理実習室へと連れて行こうとした。

つばめちゃんを置いて行きなさいよと志麻が言うと、村山は、渡月ちゃんからの特命なのと言って志麻を黙らせた。



 調理実習室に先に入った村山に、渡月先生が首尾はどうだった?とたずねた。


 村山は外で待機していたつばめを強引に教室内に引っ張り入れた。

ぴしゃりと戸を閉め、渡月先生を見てにこりと笑い、上々ですと報告した。


 つばめは部員たちに取り囲まれ椅子に座らされた。

入部届と一緒に白玉の入った汁粉を出された。


 部員たちを見ると全員にこにこでつばめを注視している。

担当の渡月先生までにこにこだった。


 結局、調理実習室からは出してもらえず、なし崩し的に家庭科部に入ることになってしまったのだった。

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