第12話 警察
登場人物
・富士つばめ…転校生、朝風興信所の職員
・すずらん…AIドローン
・朝風北斗…朝風興信所の所長
・因幡大宣…朝風興信所の職員
・赤羽まりも…同じクラスの娘、バトミントン部、行方不明
・神山えびの…同じクラスの娘、弓道部
・日高志麻…同じクラスの娘、写真部
・村山こがね…隣のクラスの娘、家庭科部部長
・出雲小町…隣のクラスの娘、バトミントン部、まりもの友達
・霧島遥香…バトミントン部、登校拒否
・三次…同じクラスの男子、サッカー部
・穂高江佐志…担任の男性教師、担当は英語、パソコン部顧問
・阿賀野…女性教師、担当は体育
・渡月…女性教師、担当は家庭科、家庭科部顧問
・小倉苗羽…男性教師、担当は化学
車は、漆黒の山中を、ゆっくりと、事務所に向かって戻ってきている。
夜空には、キラキラと星々が瞬いている。
「北斗さん、何があったんですか? 監禁だなんて」
つばめの質問に、北斗は、まず、どこから話したもんかと、頭を掻いた。
通学路を見張ると、確かに、つばめからの報告どおり、ダンプカーが何台も、県外から土砂を運んでいるのが確認できた。
ダンプカーのナンバーから、土建会社を探ったが、これは下請けで、何もわからなかった。
発注元を探ったが、これも、ごく普通の産廃業者だった。
そこで、ダンプカーを追跡し、廃棄先を調べてみた。
これが、大当たりだった。
廃棄先の土地は、『ムーンライト地所』という、不動産会社の所有となっていた。
この会社自体は、ペーパーカンパニーで、米代という人物が、社長として登録されていた。
この米代という人物を調べると、出るわ出るわ、暴力沙汰、産廃の違法投棄、恫喝などなど。
死者まででているのに、全てが種類送検で済まされていた。
「どうして、実刑にならないんですか?」
つばめの質問は、極めて当然のものだっただろう。
理由はいくつもあるのだろうが、一番大きいのは、利益の一部を、政治献金していることだろう。
それと、裁判官も買収した痕跡がある。
表向きでは、裁判官は、清廉潔白ということになっている。
だが、そんなのは表向きで、原告と被告の、社会的地位の比較や、弁護士費用の大小、袖の下の大小で、判決が下されるという事が、横行しているのである。
「でも、人が亡くなっているんですよね?」
つばめの問いに、後部座席でぐったりしている北斗は、少し渋い顔をした。
警察も簡単に手を出せないような、マスコミが支援している市民団体に、社長の米代という男は、所属してることがわかっている。
そういう団体は、年々増えていっている。
そして、そういう団体が、やりたい放題して、最後は、市民に犠牲が出る。
政治家としても、一票を入れる、顔も知らない一般市民よりは、金をくれる、顔の見える、そういう市民を相手するというものであろう。
問題が発生しても、ド近眼のマスコミは、現職だけしか叩かないのだし。
逆に、そうした市民を無視したら、今度はマスコミに叩かれることになる。
叩いて埃の出ない人などいないわけで。
例え、叩かれるいわれのない人だとしても、『疑惑』といって、極悪人にしたてあげられる。
ならば、一般市民など無視して、そうした市民を優先するというものだろう。
これが、今、この国が抱えている、静かな病巣なのだと、北斗は説明した。
話が脱線してしまったなと言って、北斗は苦笑いした。
そこまでわかったところで、今度は、盛土の調査に入っていた。
そこで、やつらに出くわした。
表向きは、バードウォッチングということにしていた。
そのためのカメラと、双眼鏡を首から下げ、ハンチング帽を被り、恰好だけは、そう見えるようにしていた。
だが、どうやら、彼らからは、そうは見えなかったらしい。
最初はどうやら、車に細工をしようとしたらしい。
だが、すずらんからの警報で、それに気付き、すぐに車に戻った。
何をしているのか尋ねると、背後から襲われ、スタンガンを撃たれた。
その後の事は、よくはわからない。
気が付いたら、手足を結束バンドで縛られ、小さな小屋に監禁されていた。
興信所に戻ると、つばめは、すぐに救急箱を取り出し、北斗の手当を行った。
その間、すずらんは、北斗の乗っていた車を、自動操縦で走らせ、興信所まで戻した。
体力切れで、失神しそうと、何度も泣き言を言っている。
北斗は、背骨付近にスタンガンのものと思われる、特徴的な赤い火傷を負っていた。
さらに、右足ふくらはぎにも、スタンガンの痕があった。
恐らく、逃走を困難にするためだろう。
腹部と背中に、強く蹴られたと思しき、打撲痕もあった。
顔にも、殴られた痣ができていた。
「足は、すぐに治りそうかな?」
そう言われても、つばめも、スタンガンの知識が乏しく、よくわからなかった。
大宣の説明によると、本来、スタンガンの効果は、数分が限界らしい。
ようは、超強力な静電気放電のようなもの。
ただ、昨今、構造の簡単なスタンガンは、改造が横行しているらしい。
出力を上げていたり、長時間当て続けられると、かなり後遺症が残ることになる。
少なくとも、未だに足に自由が効かないとなると、改造を疑った方が良い。
そうなると、数日回復しないかもしれないし、もしかしたら、筋繊維が切れているかもしれず、医者にかかった方が良いかもしれないのだそうだ。
「土壌調査なら、どこかで、すずらんに、夜、採取とスキャンに行かせましょう」
大宣は、充電中のすずらんを撫でながら、北斗に進言した。
だが、北斗は、しばらくは、それどころではなくなるかもしれないと言った。
向こうは、当然、こちらを知った。
恐らくは、これからしばらく、捜査妨害がされるだろう。
「あの土砂の山が、クロだということはわかったから、今はそれでいいよ。かなり長期間にかけて、運び込まれ続けた違法廃棄物だ。簡単に証拠隠滅なんて、できやしないんだから」
翌日は土曜で、学校は半日だけ。
学校から帰ると、興信所前に、一台の車が止まっていた。
注意深く車内を確認すると、何やら無線機と思しき、箱状の通信機が搭載されていた。
もしかしてと、車の後方を見ると、明らかに不自然な、大きな無線アンテナが付いている。
警察車両である。
嫌な予感を覚えたつばめは、興信所に寄らず、真っ直ぐ自分の部屋へと向かった。
制服から私服に着替え、かなり慎重に、興信所の裏口から、休憩室に入った。
休憩室に入ると、興信所の中の会話が聞こえてきた。
「朝風さん。何度も言いますがね。彼らは、何者かの襲撃を受けたと、訴えてきているんですよ」
どうやら、警官は二名いるらしい。
北斗は、何を言っているのか、全然わからないと二人の警官に言っている。
だが、もう一人の警官が、現場に、朝風さんの物が残されていたというのは、どう説明する気なのかと、問いただしてきた。
「何度も説明しますがね。バードウォッチングに行っただけですよ」
じゃあ、なんで、襲撃現場に、あんたの物があったんだ。
あんたの名前の入った、医者の診察券が現場に落ちていたんだよと、警官は、証拠写真を見せた。
被害者も、あんただと、はっきりと名前も言ってるんだよ!
警官は、机をパンと叩いた。
「え? 北斗さん、昨日、山で滑落して、怪我したって言ってませんでした?」
つばめが、人数分のコーヒーを淹れて、事務室に持ってきた。
北斗は、すまないねと言って、コーヒーを受け取り、飲みだした。
二人の警官にも渡し、大宣にも渡すと、お盆を、北斗の執務机に置き、自分も北斗の隣に座って、コーヒーを飲んだ。
「私も、そう説明しているんだがね、署に来いの一点張りでねえ」
北斗は、ちらりと警官を一瞥すると、ぶすっとした顔で、小さく息を吐いた。
どうやら、目の前の警官たちは、北斗が、山奥の事務室を襲撃して、土建屋の社員を怪我させたと、言い張っているらしい。
そんなことをする、動機がないだろうと言っているのだが、それも署で、じっくりと聞きたいと言っているのだそうだ。
……意味がわからんない。
つばめが首を傾げると、北斗は、わざわざ、警官の方を見て、やれやれという仕草をした。
「そんなの、悪魔の証明じゃないですか。被害者って、怪我してるんですか?」
被害者とかいうやつらは、被害届を出したのだそうだ。
北斗が銃を撃って、怪我をさせたと、診断書まで持ってきたらしい。
それを聞くと、つばめは、きゃははと、警官を馬鹿にするような、煽り笑いをした。
「探偵だから、銃を撃ったって。どんな漫画読んできたんですか。警察って、漫画のネタで、市民を逮捕しようとしちゃうんですか。最低」
つばめの、神経を逆撫でするような、女子高生の演技に、大宣は、思わず噴き出した。
警官二人は、馬鹿にされたと憤り、怒りで顔が赤くなってきた。
飲んでいたカップを、机に置いたのだが、怒りで力が入っていたようで、取っ手が折れた。
「器物破損ですよね? それ?」
つばめの指摘に、警官は、ぶすっとした顔で、弁償すれば良いんだろ、いくらだ?と言った。
その言葉に、つばめは、はあ?と、さらに神経を逆撫でするような声を発した。
「器物破損だって言ってるじゃないですか。ちゃんと、『警察官』に申告しているんですから、手続き取ってくださいよ」
つばめが、警官に詰め寄ると、警官も、立ち上がり、怒りに震え、真っ赤な顔で、つばめを睨んだ。
「うわあ、怖ぁい。今度は、恫喝ですか? 精神的苦痛を受けましたって、弁護士に相談しますよ?」
警官が、腰の警棒に、手を掛けたのが見えた大宣は、つばめの肩を掴んで、警官から引き剥がした。
破片で、自分で指を切って、公務執行妨害と言ってくるかもしれんぞと、警官に聞こえるように、半笑いで、つばめに言った。
北斗は、椅子に座っている、もう一人の警官を、じっとりとした目で見ていた。
椅子に座った警官は、そのやり取りに、少し冷静になったらしく、もう一人の警官に、少し落ち着けと言って、椅子に座るように促した。
「銃で撃ったっていうなら、硝煙反応とかいうの、出るんでしょ。警察署に行って、調べてもらったら良いんじゃないですか」
しばらくずっと黙っていた北斗は、つばめの言う通りかもしれんと言って、パンと手を叩いた。
何も出なかったら、馴染みの記者に、ここまでの話を、タレこんでやろう。
警察の横暴が極まっていると言って。
北斗は、椅子から立ち上がると、携帯電話を取り出し、どこかに連絡を入れた。
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