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第10話 高校

登場人物

・富士つばめ…転校生、朝風興信所の職員

・すずらん…AIドローン

・朝風北斗…朝風興信所の所長

・因幡大宣…朝風興信所の職員


・赤羽まりも…同じクラスの娘、バトミントン部、行方不明

・神山えびの…同じクラスの娘、弓道部

・日高志麻…同じクラスの娘、写真部

・村山こがね…隣のクラスの娘、家庭科部部長

・出雲小町…隣のクラスの娘、バトミントン部、まりもの友達

・霧島遥香…バトミントン部、登校拒否

・三次…同じクラスの男子、サッカー部

・穂高江佐志…担任の男性教師、担当は英語、パソコン部顧問

・阿賀野…女性教師、担当は体育

・渡月…女性教師、担当は家庭科、家庭科部顧問

・小倉苗羽…男性教師、担当は化学

 三日間の中間考査は、あっという間に終わった。


 全てのテストが終わると、どの生徒も、一仕事終えたというような、ぐったりした態度をとった。

運動部の生徒の中には、筋肉が鈍ったなどと、わけのわからない事を言う者もいた。


 神山も、そういうタイプのようで、テスト終了と共に、体をほぐしだしていた。

恐らくは、隣のクラスで、小町も、同じようなことをしているのだろう。



 つばめは、テストが終わると、すぐに教室を飛び出し、霧島の教室を覗いたのだが、すでに帰宅した後だった。

恐らく、終了と共に、飛び出すように、大急ぎで帰ったのだろう。


 鞄を持って、急いで靴箱に行ってみると、すでに上履きが収められていた。

もしかして、誰かに呼び出されて、学校の外にと思ったのだが、見渡しても、姿は見えなかった。


 完全に予想が外れた。

つばめとしては、このタイミングで、誰かに接触すると思っていた。

考査期間中は、なかなか接触できなかっただろうし、それまでは、学校を休んでいた。

接触するのなら、このタイミングだと確信していた。


 急いで校門の外に出て、周囲に人がいないことを確認し、すずらんを呼び出した。


 すずらんの報告によると、現在、霧島の進行方向は、自宅らしい。

つまり、単に家に逃げ帰っただけということらしい。


 とすると、学校にいることで、何かしらの恐怖を感じるということになると思う。

やはり、恐喝や脅迫を、教師、もしくは、生徒から、受けているということなのだろうか。


 すずらんには、もし、自宅以外にどこか行くようであれば、報告をお願いした。




 興信所に戻ると、大宣が、パソコンに向かって、何かやっているだけで、北斗の姿が無かった。


 すずらんは、いつものように、大宣の机の上の、いつもの場所に停まって落ち着くと、LEDを黄色にして、ふわふわと点灯させている。


 北斗さん、今日は外回りかと呟くと、大宣が、パソコンから目を離さず、今日は帰り遅いと思うよと言った。

どうやら、例の『山』を見に行っているらしい。

 

 じゃあ、やっぱり、あのダンプが運んでたの、産廃だったんだねと言って、つばめは、買ってきた夕飯の具材を、冷蔵庫に入れている。


 大宣は、そんなつばめのいる、休憩室の方には、視線すら動かさず、すずらんをタオルで拭いて、埃を落としてあげている。

それが嬉しいらしく、すずらんは、LEDを桃色に点灯させている。



 大宣の話によると、調査の結果、あの『山』には、怪しげな団体が関係していることが判明したらしい。


「あやしげな団体って? 前回、土建屋だって言って無かった?」


 そう尋ねながら、つばめは、制服のまま、エプロンをかけると、お米を研ぎ、お湯を沸かした。


 北斗の調査によると、例の土建屋は、単なる土建屋じゃないことがわかったのだそうだ。

大宣は、データ見てるだけだから、いまいち、よくわからないらしいのだが、北斗の話によると、反社より、質の悪い連中らしい。


 つばめは、そんな変な連中が、この町に跋扈してるんだねと、感想を漏らしながら、エプロンを外し、冷蔵庫横のフックに引っ掛けた。


「この町というか、この国というか……」


 いまいち、大宣が言っていることが理解できない。

つばめは、休憩室から顔を出し、詳しい話を大宣から聞こうとした。


 この国には、昔から、モラルが、根底から欠如した人たちがいるんだってと、大宣は説明した。

そんな、ふわふわした説明じゃあ、何一つわかるわけがない。

ようは、大宣くんも、説明受けたけど、何も理解できなかったということねと、納得した。



 つばめは、先ほどスーパーで、スフレに、メロンクリームの入ったお菓子を、買ってきており、大宣に、おやつにしようと言って、紅茶を淹れた。


 大宣は、紅茶よりは、コーヒー党だったりするのだが、紅茶の、どこか精神を落ち着かせるような香りは、大好きである。

つばめから、カップを渡されると、何度も香りを嗅いで、楽しんでいた。


「どうなの、つばめちゃんの方は。上手くいってるの?」


 順調か不調かと言えば、間違いなく順調だと思う。

というか、予想以上の成果が出ていると思っている。


「高校か。もう一度戻れって言われても、俺は無理だな。確実に、付いていけないと思う」


 大宣は、スフレを一口口にすると、やっと、紅茶をひと啜りした。

つばめが、それは、体力、学力と尋ねると、大宣は、苦い顔をした。


 間違いなく、体力の方。

大宣は、恥ずかしそうにそう答えた。

毎日、登校するだけでバテそうだし、何回も階段を上り下りするなんて、考えただけでも、ぞっとする。

ましてや、体育の授業なんて。


「私も、大学中退して、ここで働き出して、その間に、高校の勉強なんて、すっかり忘れてるよ」


 体力の方じゃないのかと、大宣が笑うと、つばめは、どっちもきついけど、学力の方が深刻だと、泣きそうな顔をした。

真面目に授業を聞いてはいるのだが、懐かしいというより、学んだ覚えがないという感じなのだ。


「完璧に消えちゃってるんじゃん!」


 二人は、共に、飲んでいた紅茶を、机に置き、腹を抱えて笑い出した。


「高校かあ。あんまり良い思い出無いな……」


 大宣くん、女気無さそうだもんねと言って、つばめが、からからと笑った。

明らかに、馬鹿にされたと感じ、少しムッとはしたものの、大宣としても、事実ではあるから、反論はできなかった。


 大宣は、工業高校に通っていたらしい。

工業高校の多くは、男女比が、えぐいほど男性に偏っているのだそうだ。

そのため、そもそも、女生徒自体が激レア。

その激レアの女生徒を、学校内のイケメンたちが、奪い合いをしている。

高校時代の大宣には、ノーチャンスだったらしい。

大学に行ってから、世の中には、こんなに女性がたくさんいたんだということを、思い出したのだそうだ。


 高校では、電子技術部に所属していたのだそうだ。

電子技術なるものが何なのか、つばめには、銅線一本、想像もつかなかったらしい。

思わず、愛想笑いが、漏れてしまった。


 大宣は、そんなつばめの反応に、ロボット作る技術だよと言って笑い出した。

全国大会もあって、優勝したこともあるんだよと言うと、つばめは、素直に、凄いと言って、褒めてくれた。

その後で、高校時代から、すでにそんなことやってたんだねと毒づいた。


「そういうつばめちゃんは、高校は何部だったの?」


 大宣の質問に、つばめは、少し口ごもった。

その態度で、少なくとも、運動部ではないし、吹奏楽部のような、メジャーな文化部でも無いことが、容易に察せられた。


「……ミステリー研究会」


 それこそ、何する部なんだよと言って、大宣は、飲んでた紅茶を、噴き出しそうになりながら、笑いだした。


 つばめの通っていた高校は、ごく普通の男女共学の高校。

別に、とりわけて、何かで有名な部活があるというわけでもなく、進学校というわけでもない。

男女比も、普通に半々だった。

……恋愛には縁は無かったが。

そもそも、当時から、つばめは、かなり歳の離れた人を好む傾向にあり、憧れの異性は、既婚のかなり歳のいった先生だった。


 ミステリー研究会は、週一でしか活動が無い、いわゆる帰宅部。

その活動ですら、図書館で、部員同士喋るだけという、非常に緩いものだった。

そのせいか、部員は、ほぼ女子。


 そんな活動内容なので、文化祭の時は、一苦労することになる。

文化部にとって、本来、文化祭は、年に一度の活動報告の場であるはずである。

だが、帰宅部にとっては、年に一度の面倒な宿題のようなものだった。


 つばめたちのミステリー研究会は、毎年、有名なミステリー小説の紹介してた。

一年の時は『そして、誰もいなくなった』、二年は『踊る人形』、三年が『八つ墓村』。

だが、綿々と受け継がれた、部の風潮で、犯人をバラしてしまうため、生徒からも先生からも、極めて不評だった。


 それは酷いと笑う大宣に、つばめはムッとし、そういう大宣くんはどうだったのと尋ねた。


 大宣の、電子技術部は、文化部ではあるが、決して、帰宅部というわけでは無い。

一年も、二年も、三年も、部員全員で一つのロボットを作り上げたのだそうだ。

昔の、ロボットアニメのプラモデルを改造して、完璧に変形機構を再現し、掛け声一つで、変形させる代物を展示した時は、人だかりができていた。


 大宣は、それとは別に、茶汲み人形を、作ったことがあるらしい。

生徒には、あまり興味を持たれなかったが、先生が、えらい興味を持っていたのだそうだ。


 話だけを聞いていると、非常に楽しそうに聞こえる。


「ああいう男女比の学校は、腕っぷしが全てみたいなとこがあるからね。文化部はどうしても、光の当たり方が弱くってね……」


 おやつを食べ終えると、つばめは、夕飯の仕込みを始めた。




 夕方くらいに、仕込みの多くを終え、後は北斗が帰ってくるのを待つのみとなっていた。

だが、夜になっても、北斗は帰ってこなかった。


 つばめは、大宣と、北斗さん遅いねと言い合っていた。

普段であれば、遅くなる時は、遅くなると連絡を入れてくるのに、変だねと、大宣も言い出した。


 すると、つばめが、北斗さんが、今、どこにいるのか、調べられないのと聞いてきた。

その発言に、大宣は、気持ちはわかるけど、朝風先生だって、知られたくないことがあると思うよと指摘した。


 それじゃあ、私が北斗さんのストーカーみたいじゃないと、つばめは怒ったが、帰りが遅いから、まず居場所を探ろうという発想が、まさにそれだと指摘した。

大宣の指摘に、つばめも、少し反省はしたものの、口を尖らせて、気分を害したという顔をした。



 夜も遅くなり、先に二人で夕飯を食べ、北斗の帰りを待つことにした。


 食事を食べ終えると、大宣は、誰かと呑みに行ってるのかもねと言い出した。

連絡忘れてるだけだと思うよと、泣きそうになっているつばめを、なぐさめるように、優しく言った。


 だとしても、北斗さん遅すぎると思わない、そうつばめは、大宣に言った。

すでに、かなり、夜も更けてきている。


 酒場をはしごしてたりしてと、大宣は、つばめが、なるべく変なことを考えないように、わざと、おちゃらけたことを言った。


 ここまで、全く連絡が無いなんて不自然、明らかに、つばめの表情は、狼狽えていた。


「すずらんが、うちら三人の、安全監視を、常にしてくれてるんだよ。その、すずらんが、何も言ってこないんだから……」


 そこまで大宣が言った時だった。

突然、すずらんが警報を鳴らした。


「緊急事態! 緊急事態!」


 LEDを激しく赤く周回点灯させ、ローターを回して、うわりと浮き上がった。

どうしたと聞く大宣に、すずらんは、答えず、玄関に移動して、ふわふわと浮かんでいる。


「緊急事態! 朝風先生に、危険発生! 至急、救援に向かいマス!」


 大宣が、俺たちも行くと言うと、すずらんは、先行するので、早くドアを開けてくれと、怒り出した。

つばめが、急いで入口のドアを開けると、すずらんは、全速力で飛び出して行った。



 大宣とつばめは、車に乗り込んだ。


 大宣がエンジンをかけると、カーナビに『自動運転システム すずらん.Link』というロゴが表示された。

起動中という文字の周りを、デフォルメ化したすずらんが、可愛く飛んでいる。


 カーナビの起動が完了すると、すずらんから、目的地の情報が送られてきて、車は勝手に走り出した。


「すずらん。危険発生って、先生に何があったんだよ?」


 大宣の問いかけに、カーナビから、すずらんの声が聞こえてきた。


「一時間前カラ、朝風先生の位置ガ、山奥の狭い一室デ、変わっていまセン」


 恐らく、監禁だろう。

警察に連絡した方が良いかな? と、つばめが泣きそうな顔で、大宣に聞いた。


 大宣は腕を組み、少し悩むと、先生の説明からして、恐らく、警察は当てにならないんじゃないかなと言い出した。

つばめは、そんなと、か細い声を絞り出すと、絶望感で、今にも泣き出しそうになった。


「該当の土地ハ、データベース上デ、複数の所有者変更の痕跡がありマス」


 カーナビから発せられた、すずらんの説明に、つばめは首を傾げた。

それがどうしたんだろう。

そんな場所、普通に、その辺にゴロゴロしてそうなものなのに。


 一昨日、北斗が、それについて、大宣に説明しているらしい。

役所は、紙で保管してるから、そうやって管理を複雑にして、所有者をわかりづらくするのだそうだ。

今回の違法盛土のようなことが発覚して、警察が調査をしたとしても、いつから行われているかがわからない。

どの所有者も、『以前行われていたことで、自分は知らない』と、供述できるのだそうだ。


 現在の所有者は、『ムーンライト地所』という会社になっているらしい。

例の、大宣が納税報告の額が、過少すぎると言っていた会社である。


 すずらんの説明によると、事務所は隣県にあり、政治家への献金以外、業務実態が、ほぼ不明らしい。

恐らくは、ペーパーカンパニーだろう。


 いずれにしても、まともな人たちじゃないことは確かである。

そんな人たちに、北斗は捕まってしまったということになるだろう。


「もしかしたら、俺たちも、近寄れないかもしれないから、すずらんに、任せるしかないかもね」


 大宣は、流れる街灯を横目に、そう説明した。

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