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僕は償えない  作者: いりこ
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藍香

 有紗が放課後、藍香宅へ見舞いに訪問した。

呼び鈴が鳴り母は玄関に行った。

「あら、有紗ちゃん」

「藍香ちゃん具合悪くて休みと聞いたんですが、大丈夫ですか? 」

と声が聞こえた。藍香は自室から聞き耳を立てた。

「先生は私が具合悪いと言っておいてくれたんだ…」

と察した。母が

「有紗ちゃん ありがとう。心配してくれたのね。今も体調悪くて寝てるのよ」

と藍香をそっとしておこうと配慮して返答してくれた様だった。

有紗は

「これ、食べて下さい」

と桃とジュースの入ったビニール袋を母に手渡して元気に帰って行った。

 有紗に隠し事をする事に罪悪感を抱いたが、この問題を聞かされて受け止める有紗の負担を思うと黙って置いた方が良いのだと思う。


そして夕食後、校長と教頭と中里先生が今回の件で話をしに来た。

 母は

「説明するのが辛かったら、日記を先生に見せなさい」

と藍香にノートを用意させた。藍香はノートを震える手で握りしめた。その震えを止めようとすると身体も震えた。男の人が怖い…。声も怖い…。校長先生と教頭先生が怖い…。やはり男性に対する拒絶反応が出る。気付いたら藍香は歯を食いしばって、冷や汗をかいていた。

 中里先生が

「藍香さん、大変だったわね。大丈夫…じゃ無いよね」と声を掛けてくれると涙がポロポロ出て来た。そんな藍香を見て先生は共に胸を痛めた。

 そんな中で校長が

「えー、沼川諒我、畠野一馬、外田健斗に事情を聞きました。

本人達から詳しく話を聞いたところ、そう言う事実は無いと確認取れました」

と胸を張って報告した。

 藍香と父と母はあっ気に取られ

「えっ? 」

と声を揃えた。言葉に詰まった後、

「そ…そんな…。私…私…」

藍香は、やっとの訴えを圧し折られた事でパニックになり呼吸が乱れた。母と中里先生が藍香に

「ゆっくり息を吐いて。大丈夫よ」

と宥めて背中に手を当てた。

 父が

「それで解決ですか…こんなに娘が苦しんでいるのを見て、何事もなかったと言うんですか? 」

と低い声で答えた。校長は

「きっと娘さんは何か勘違いをされたのでしょう。心配無いので学校に安心して来てください。お互いの意図の行き違いはよくある事です」

と解決した様に言った。

「いや、行けない…怖い…行けない…勘違いじゃない…」

藍香は下を向いて涙をポタポタこぼしながら振り絞る様に呟いていた。

母は

「娘は勘違いなどしてません!見せたくも無い記録を用意して証拠を提示しようとしてるのです!普段は本来こんなに恐れて震えていません。スポーツが好きで、はにかみながらも学校が好きな子なんです! 」

と強い口調で言った。

 母が先生達にノートを差し出すように促すと、藍香はノートを中里先生に震える手で渡した。先生達は目を通した。中里先生の顔は読めば読む程どんどん悲しそうな顔に変わり目を瞑ってうつむいた。

「犯されたと書いてあるが… 具体的にどんな事をされたか、詳しく説明してくれないかい?」

と校長が藍香に言った。

 あの時の事が藍香の脳裏に蘇って来て、頭を抱えて しゃくりあげて泣いた。そして息が更に乱れ言葉が出なくなり、リビングから這う様に逃げた。

 母が来て背中を撫でてくれた。そんな母の目にも悔し涙が溢れて居た。

 校長に対して中里先生が

「何故傷を広げる様な質問をするのですか…ここまで明確に書かれています。もうこの文章だけで何処で何をされて、どれだけ屈辱を背負ったのか明確じゃ無いですか。これ以上具体的に話せって…藍香さんを責めるだけです。ノートを差し出した藍香さんの勇気を無駄にしてはいけません校長 」

「いや、努力は認めますよ。でも残念ながら明確では有りませんね。オムツの記載も有りましたが手渡されただけかもしれない。彼女のパニックも、もし嘘を吐いてたなら事が大きくなって困惑しての事の可能性もあります。あの3人を罰するにしても事実かハッキリしない以上は不可能です。本当に彼らが加害者でなかったなら、彼らこそ被害者ですよ。それに『襲われた』とクラスに知れ渡って、その中で登校する事の方が荷が重いでしょう」

と校長は動じずに語った。

 父は

「こんなに学校内での事で娘が傷つけられても校長先生や教頭先生に解決能力は無いとの事ですね、分かりました。娘は私達が護ります。学校には頼りません。これ以上話しても娘をを傷つけるだけです。どうぞお帰り下さい」

と怒鳴りたいのを堪えて静かに言った。校長は作業が終わったと言わんばかりに、

「では、失礼致します」

とソファから立ち上がり頭を下げ、そそくさと玄関に向かい教頭もその後を追った。

 中里先生が帰り際に

「何も出来ず、申し訳ございません」

と頭を下げた。

「貴女が校長先生なら違ってたのでしょうね」

と父が残念そうに言った。

 部屋に戻って休んでいた藍香は暑さで開いてる窓から。車に乗る校長が

「やれやれだな」

と言ったのを聞いた。

 校長先生が頼りにしちゃいけない大人だった…。それを目の当たりにして、こんな脆い杖を使って歩かなければならないのかとの思いになり、藍香は握り拳を強く握って震わした。

 父から藍香にラインがあった。

「引越そう。挨拶しなくて良い様な街へ。そして転校しよう」

と。


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