健斗
あの空き地での一件の次の日から藍香は学校に来なくなった…。僕らは心の中で『マズイ事になった』と目くばせした。
その時僕らが恐れていたのは…
『藍香が僕らに襲われて学校に行けないと言うのではないかという事』
「酷く怒られるであろう事」
『僕らの悪事がこの小さい町中に知れ渡る事』
『内申書が悪くなり、高校受験に響く事』
『友達が去る事』
『受けなければならないペナルティ』だった…。
藍香が背負った辛さを微塵も考えずに、僕らの身に何が起こるかと言うことしか頭になかった。
藍香が学校を欠席した日、僕と諒我と一馬は3人で怯えて『あの事』がバレてやしないかと、コソコソとその事ばかり何度も繰り返し話した。
もう僕は多くを失う覚悟をし無ければならないのに、怖くて堪らなくて居ても立っても居られなかった。
だが、怒られたのは担任の中里智恵子先生からだけだった。
「あなた達がしている事は犯罪よ。分かる?人の心と身体を踏みにじる行動を連日するなんて…恥ずかしい事だよね。 これから校長先生と教頭先生からも指導があるわ。真摯に向き合って反省するのよ」
と。
そして校長室に僕らは呼ばれた。校長先生、教頭先生、中里先生が揃う中で僕らはうつむいて黙って居た。
校長先生が、
「本当に君たちはやったのかね? 」
と静かに聞いた。僕は声に出さずうつむいた。すると校長先生の眉間に皺が寄った。そして今度は一馬の顔を見た。
「何の事ですか? 」
一馬は憮然と言った。
「同級生を襲ったりしてないのだね? 」
と校長先生は『やってない』という返答を導き出すかの様に聞いた。
「そんな事はしてません」
と一馬が言うと諒我も
「はい、やってません」
と答えた。
僕は2人が嘘を平然と震えもせずに答えた事に少し動揺したが、もしかしたら咎められずに済むのでは…と期待した。
「2人はやってないと言ってるよ。君もやってないってことでは無いかい? 」
と校長先生が僕の言葉を遮った。
「やってないならそう言いなさい!やってないんだね」
と聞かれ、僕は頷いた。
校長は僕らはやってないと決定付けた。
「待って下さい校長!藍香さんのご両親からから実際に…」
中里先生が真実を追求すべきと校長に意見すると校長は遮る様に
「中里先生、この子達はやって無いと言っているんだよ。やってない生徒を犯人扱いするのですか?」
「いや、そうではありません。事実を正確に把握すべき大きな問題なんです!じゃ無ければ藍香さんは学校を休む…」
「襲われた証拠はあるんですか?この子達はやって無いと言っている。この子達にそんな大きな問題を押し付けるなら証拠を見せなさい!騒ぎ立てた方が正しいとは限らないのですよ!この子達がやった事実確認は出来なかった。それだけです!解散! 」
校長先生は理由は知らないが僕らを庇った。何故だろうと思ったが、これで僕らを咎めるものは無くなりそうだと胸を撫で下ろした。
この時の僕らは反省よりも、自ら犯した罪があばかれる心配は無くなったと安堵した気持ちでいっぱいだった。傷ついた藍香の事も忘れたかの様に…。