健斗
町長の自殺未遂の事が発端となり、藍香が被害届けを出さない事にした話が小さな町の中で今日も噂で飛び交って居た。その話は健斗の耳にも入った。生きた心地をしなかったこの数日間、久しぶりに呼吸をした気持ちだった。これで僕の過去はもう明るみに出る事は無い。胸を撫で下ろした。
僕は当たり前の生活を失う事は無い。あの過去は一馬に唆された些細な過ちだ。一馬とは違う。
命拾いした健斗は、町長と一馬の件は他人事と捉えて父と母と噂話に参加した。
夕食後、気分良くした健斗は町に一軒あるコンビニに向かった。誰も居ない薄暗い道。鼻歌を歌いながら歩いていた。
「気分良さそうね、藍香が被害届けを出すのを止めたから? 」
と後から声を掛けられた。真髄を突かれた言葉に驚きながら振り向くとら有紗が睨みながら立って居た。健斗は呆気に取られた。
「貴方の仲間だった一馬は拘置所に居る。そして町長は命を自ら断とうとしたのよ。死のうとしたの!それで藍香が被害届けを出すのを止めた。闘いを再び断念せざるを得なかったのよ。どんな気持ちか分かる?
貴方は安泰かもしれない。でも、悲しんでいる人がこんなにいる中で、鼻歌?呆気に取られそうになったのはこっちよ」
有紗はそう言うと帰って行った。
そうだ。僕は卑怯だ。自分に否が有るのを掻き消したい時は人を馬鹿にしたくなる…。見下したくなる…。自分はこんなにマシだと言いたいかの様に…。僕は弱くてズルい…、やはり罪は消えないんだと健斗は、浮かれた気持ちから罪悪感に突き落とされた。
明日からのまた平静を装う暮らしが始まる。




