町長
巡査がいつもの様にパトロールしていた。
町長の自宅前を通っている時に、大きな桜の木の枝に太いロープが結ばれていたのを巡査は見つけた。
胸騒ぎがした。直ぐに敷地内に入り桜の木の辺りに行くと、足台に乗った町長がロープで作った輪の中に頭をくぐらせようとしていた。
「町長!」
と巡査は町長に飛び込み、首を吊ろうとしていた所を制御した。
「死なせてくれ!こんな屈辱を受けた事がない! 」
「町長! 」
虚しく太いロープの輪が空中の中静かに揺れていた。2人の声を聞いた夫人が駆けつけた。桜の木にぶら下がるロープの輪を見てゾッとして一瞬脚の力が抜けそうになった後、
「あなた!…あなた何故…」
と町長に飛び付き涙を流しながら夫を揺さぶった。町長は、放心状態のままペタリと座り込んでいる。
「一馬は化け物になってしまった…」
と何度も呟く夫を抱きしめながら、夫人は涙を止めどなくながした。
ローカルニュースや新聞で、町長の自殺未遂が直ぐ様報道された。
自宅に居た藍香と父と母も流れて来たニュースを見て唖然とし!言葉を失った。
暫くの沈黙の後、
「ズルいよ…。私も、お父さんもらお母さんも一緒に闘ったのに揉み消して…。
私達はその中でも必死に立ち上がって来たのよ。何で町長は逃げるの…。
死のうとされたら私達…罪悪感が湧くじゃない。被害届け出す事なんてとても出来ないよ」
藍香の言葉の後、一家共々また沈黙となった。
闘う事さえ出来なかった悔しさと罪なき罪悪感に沈んだ。
そして、被害届けを出す事を断念した。




