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僕は償えない  作者: いりこ
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藍香と家族

 一馬の父が町長でありながら、息子の不祥事を金品の授受で解決しようとした疑惑が新聞やテレビのローカルニュースに取り上げられた。

 一馬の父は息子と自分のスキャンダルの為に、長年務めて来た町長の職を解雇処分となる前に辞職する事になった。

 町長を辞職しても町長が経営する土産菓子の工場も有り、生活には困らないらしいと記事にしている新聞社もあった。

 このニュースがまだ話題の最中に、藍香の被害届けを受理しなかった交番の巡査から藍香の父のスマホに着信があった。

「はい、坂橋です」

苦々しい思いが残る口調で父が電話を受けた。

「お久しぶりです。あの頃は力になれず本当に申し訳有りませんでした…。私がこんな事伺うのもどうかと思いますが…藍香ちゃんはその後元気にされてますか? 」

と申し訳なさそうに巡査は問いかけた。

「今は元気にしています。ところで要件は? 」父は社交辞令を終わらせた。

「ご主人、町長が色々な問題で辞職に追い込まれたのはご存知だと思います。一馬君も強姦容疑で勾留されました。

 藍香ちゃんが此処に居た頃は町長の力が強すぎて私も対応を断念しました。でも、今ならまだ時効になってません。一馬君の余罪はこれから出て来るはずです。

 日記帳、ありましたよね充分証拠になります。あの時私は力不足で藍香ちゃんに絶望させてしまいました。しかし町長が無力になった今、一緒に戦えます。

 他の被害者の為にも、娘さん自身の為にも考えて下さると有り難いのですが…」

巡査の話を聞き父は、初めは『今更何を』と思った。しかし巡査も悔いていたであろう事が感じ取れた。

 只、藍香の事を思うとすぐに結論は出せなかった。

「巡査、話は分かりました。只今落ち着いて暮らせている娘を思うと、昔の事に向き合いさせるべきか分かりません。少し時間を下さい」

「そうでしょうね…。是非考えてみて下さい。私の携帯の方にいつでも連絡下さい。では」

 父は電話を切った後、ソファに座り考えを巡らせた。

 部屋から出て来た藍香が 

「お父さん、一馬と町長の事考えてたの? 」 と声を掛けると、父は我に帰った顔をして藍香を優しく見つめた。

「まぁ…な」

「小さいけどニュースになってたから。お父さんもお母さんも 色々感じるだろうなと思って」

「藍香も聞きたく無いニュースだったんじゃ無いか? 」

「うん、思い出すけど…。一馬も町長も逃げ続ける事が出来ないんだって思った。

 被害を訴えた人、勇気を振り絞ったと思うの」

「そうだね。気持ちは良く分かるよな」

「うん」

一馬と町長の件を話して居て、父は藍香に巡査との話をしてみようと思った。

「実は今…あの時のお巡りさんから電話があったんだ」

「えっ…あのお巡りさん? 」

少し顔をしがめながら藍香は聞き返した。

「そうなんだ。父さんも電話貰った時『何だ今頃』と思ったんだ。

 当時は町長の力が強すぎて歯向かえなかったから、お前を気の毒に思いつつも被害届けを受理出来なかったそうだ。

 ただお巡りさんは、お前の事がずっと気掛かりだったらしい」

「何か…権力って使い方で悪い連鎖を起こすんだね…。私も凄く辛かったけど…、お巡りさんも辛かったのかな…」

藍香の顔から怪訝さが少し遠のいた。

「そうだと思う。でも、1番辛かったのはお前だ。そして頑張って自分を立て直したんだ。お巡りさんは一馬君には余罪がまだ有る。お前の件も時効になって居ない。日記は証拠になる。今なら力になれるから被害届けを出さないか?と言っていたんだ。正直父さんは被害届けよりも、お前が辛い時期の事を細かく話さなければならなくて、一馬君と法廷で会う事で、お前が傷付く事が怖い」

どの言葉を選べば藍香を困惑させる事を軽減する言葉を探したが、藍香と向き合わないで誤魔化しても我が家の中に違和感を置く事になりそうだと、感じてありのまま話した。

 何故なら藍香は傷を負ってから人の気持ちを察する事に敏感になったからだ。

 それよりも、傷を乗り越えて成長した娘を信じてみようと思った。

「お父さん。私あの時力が萎えてても闘おうと思ったの。

 今回、他の被害者の力になれるなら被害届け出そうと思う」

 揺るがない娘の姿に、自分が怯えた事を少し恥ずかしく思った父だった。

 しかし心配も払拭された訳ではなく、

「耐えきれないと思ったら自分を守るんだ。いつ断っても構わない。責める人は居ないよ。皆んな理解者だ」

と言葉を付け加えた。

 そして次の日、父は巡査に被害届けを出す事を連絡した。近日、派出所の方に父と藍香が伺う予定となった。


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