板橋藍香
あの時、こんな事が起こるとは全く思っていなかった。男子達の悪ふざけやカラカイを放って置いて帰宅するだけの筈だった。
転ばされてスカートを持ち上げられ下着姿の下半身を晒された事に怒りと恥ずかしさが込み上げた。直ぐ捲り上げられたスカートを抑えようとしたが、男子の力の強さに勝てず戻せない。
逃げようと身体を起こそうとした時、両腕を諒我と健斗に押さえつけられた。なんて強い力…。肩の関節がひしめいて逃れられない…。
悲鳴をあげようとした時に口を塞がれ、一馬の手が制服のブラウスのボタンを外し始めた。
死ぬ程の力で逃れようと動いてみたが、びくともしない…。
他人に見せた事の無い自分の肌があらわになって行く…。耐え難い屈辱と恐怖で声も出せなくなっていた。心も身体も怯えて震え切っていた。涙がどんどん溢れる。今迄生きて来た中で、こんなに涙が出た事はあっただろうか…。怖い、恥ずかしい、悔しい、汚らわしい、嫌だ!嫌だ‼︎
一馬が触れてくると寒気とムシズが走った。抵抗出来ない…。腕も関節も痛い…。
でも押さえつけられて真っ赤になった腕よりも、身体をいたぶられた心の痛みと生理痛とは違う初めての痛みが自分がとてつも無く汚れたと思い知らせた。
諒我の
「そろそろ誰か来たらやばいぞ!ああ、一馬だけずるいよな」
の言葉で開放された。
急いで下着を着てブラウスのボタンを咽び泣きながら震える手でハメて、髪を整える事など忘れて教室から走り飛び出した。
脚に力が入らない…。走っても走っても校舎の階段に辿り着かない。
3人の幼馴染の見た事の無い悍ましい表情が脳裏に追いかけてくる。振り払う様に走っても3人の顔が頭から消えない。こんなに走ったのに家に辿り着かない。
今された屈辱的で悍ましい光景が頭に何度も甦って3人の笑い声が纏わり付く。
父と母に「御免なさい!御免なさい!」と何度も何度も心の中で謝ったが、自分の汚れが染み付いて取れてくれない。
『お前だけずるい』きっと今日みたいな事はまた起こる…怖い…。
でも、この出来事を父と母に言えやしない…、どうするの?学校に何食わぬ顔をして通うしか方法が浮かばない…。
やっとの思いで家に着いた藍香は
「ただいま!部活で汗かいたからシャワーする! 」
と母に笑顔で言って浴室に駆け込んだ。汚れた身体を洗いたくて慌てる様に制服を脱いだ。ナプキンに白い見た事の無い液体が付いている…。気が狂いそうになった。
嫌!嫌だ!私は汚れてる!洗わなきゃ!洗わなきゃ!
シャンプーを何度もして、体も10回以上洗い直した。
汚れが落ちない…まだ落ちない…まだ落ちない…。半狂乱になって擦って腕や鎖骨、身体に薄い擦り傷がいくつも付いた。シャワーのお湯がしみる。ボディソープのボトルをブッシュすると『カスッカスッ』と音が鳴り、空になっている事に気づいた。
それでも汚れが取れない…私は汚い。
明日は…学校行きたくない…。あんな獣の様な3人が居る所へなんて…。でも行かないとお父さんとお母さんが不審に思う。……行くしかない。
明日は友達の中本有紗も部活だから一緒に帰れない…。ホームルームが終わったら直ぐに全速力で帰ろう。