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僕は償えない  作者: いりこ
29/41

健斗

 樹理は健斗を家に誘った。

「お父さんがね、ピザを焼くから健斗君も呼びなさい。って」

初めての樹理の家、両親にも会った事が無い。招いてくれる事が健斗は嬉しかった。

「お弁当も作って貰ってるのに、ご馳走になってばかりだなぁ。良いの? 」

「勿論よ。いつもの駅で待ち合わせしよう」

「うん、楽しみにしてる」


 約束の土曜日の午前10時にいつもの登校時に待ち合わせる駅の改札での約束。

 健斗は9時45分に着いた。樹理を待たせない様にと思っていた。

 改札を出ると樹理はもう到着していて、健斗を見ると笑顔で手を振った。

「あれ、待たせない様に早く来たけど…ごめん」健斗は律儀な樹理に頭を掻いて謝った。

「お父さんが待ちきれなくて、車で迎えに来たのよ」

樹理が車迄健斗を案内した。そして の後部座席のドアを開けて

「どうぞ」

と健斗に乗る様に言った。

「ありがとう」

「初めまして、外田健斗と言います。樹理さんにいつもお世話になってます」

運転席に座る樹理の父に頭を下げて挨拶した。

 樹理の父はお洒落なアウトドアな感じがする 、おおらかそうな雰囲気をしている。樹理が優しい女性になったのが分かる様な気がした。

「おう健斗君、樹理こそ世話になって ありがとうな。樹理、良い彼で良かったな」

と言われて、健斗と樹理は照れ笑いをした。

20分位車が走ると閑静な住宅街に入り、庭の広目なカントリー風の家の前で止まった。

「着いたよ、健斗」

「うわ〜、お洒落な家だね」

健斗が家の佇まいに見惚れていると、

「それを聞いたらお母さんが喜ぶぞ、お母さんの趣味で拘って建てた家だから」

とお父さんが教えてくれた。その横で樹理はニコニコして居る。

「そうなんですか」

 案内されて中に入ると樹理と良く似た顔のお母さんが 

「いらっしゃい、ゆっくりしていってね」

と笑顔で迎えてくれた。

「健斗がね、お洒落な家だって」

樹理が言うと

「あらぁ、健斗君嬉しい事言ってくれるわねー」とお母さんは更に目尻を下げた。

 樹理がジュースをトレーに乗せて持ちながら部屋に案内してくれた。

 綺麗に整頓されて、アロマの香りがする。可愛い置物や飾りが所々にあり、樹理らしい部屋だった。

 そして樹理の小さい頃のアルバムを見たりしながら過ごした。30分位して、

「ピザ焼けたぞ〜」

とお父さんの声が聞こえた。

「はーい」

と声を揃えて返事をして2人で部屋を出た。階段を降りる途中から美味しそうな香りがしてくる。

「良い匂い…」

健斗が呟いた。

「パパは具沢山のチーズいっぱいのピザ作りたがるのよ」

と樹理は笑った。

 リビングに入るとトマトやハーブチキン、マッシュルーム、バジル、ズッキーニ、茄子等がふんだんに乗ったピザがダイニングテーブルに置いてあった。

「凄い、大きくて美味しそうです」

目を丸くしてる健斗を見て、お父さんは気を良くして

「まだまだ焼くから 遠慮なく食べなさい」

と生地を伸ばし始めた。

「ありがとうございます。頂きます」

元気に頬張る健斗に好感を懐く樹理の家族だった。

 樹理の家族に歓迎されて、楽しいひと時はあっという間に過ぎた。

 帰りはいつもの約束の場所までお父さんと樹理に車で送って貰って、深々と頭を下げて訪問は終わった。


 帰宅後、健斗は樹理とラインで話していた。

「今日は楽しかった。ありがとう。お父さんとお母さんにも宜しく言っておいて」

「楽しかったねー。お父さんもお母さんも健斗を気に入ってたわよ」

「嬉しいなあ。来週は 僕のウチに来ないかい? 」

「えっ、健斗の家?行きたい! 」

「すごく田舎でビックリするよきっと」

「そうなの?自然がいっぱいなの?そう言うの大好きよ」

と話しが盛り上がり、樹理が健斗の家に次の土曜日に来ることになった。

 

 約束の土曜日になった。健斗の両親はバーベキューを用意して、畑から野菜を沢山摂ってきた。

 樹理の父同様、健斗の父もいつもの場所まで車で樹理を迎えに行った。

 清楚な樹理を健斗の父はとても気に入った。そして車が家に向かうと景色がどんどん長閑な畑と山や川の風景になり、樹理は外の景色に見惚れて「なんて綺麗な所…」

と喜んでいた。

 家に着くと樹理は挨拶をしてから母の作業の手伝いを始めた。弁当を毎日作るだけあって手際がまあまあ良い。そして素直な性格なのを見て、母も樹理を気に入った。

 採りたて野菜を気に入った樹理を見て、父は自慢の畑の話をして長々と話した。健斗は父の畑の話を何度も今迄聞かされて居てウンザリして居たが、樹理は真剣に耳を傾けて父の長い話を興味深く聞いた。なので父は樹理を更に気に入った。

 大切な彼女が両親に受け入れられる…。最高の時間が流れた。

 そしてバーベキューの後、自然が好きな樹理を散歩がてら案内して歩いた。

 樹理は 

「あぁ、鳥の声がどこかから聞こえる…」

と空き地で足を止めて耳を澄ました。藍香を襲ったあの空き地だ。

 樹理が何も知らずに心地良い顔で警戒無しに鳥の囀りに耳を傾けている…。よりによって自分が汚したあの場所だ…。

 健斗は平静を必死で装った。自分の悍ましい過去を払い除けながら鳥の声を聞いた。

 そして、樹理がまた歩き出し健斗はホッと胸を撫で下ろす思いだった。

 足を進めて樹理が指を差した。

「あそこの家は空き家?素敵なお家だけど」

藍香が住んでいた家だった。健斗の心臓は激しく鼓動を打った。

「2年位前までは住んでたんだ」

と鼓動を隠す様に、普通を装って答えた。しかし不意打ちを喰らうと普通って何か分からなくなる。自分で装って居る物が普通なのかどうか怖くなった。

「勿体無いなあ。ここなら健斗の家と近いのになあ…」

と樹理が屈託無く言った。健斗は早く藍香の住んでいた家から遠ざかりたかった。

「ここ出るよ」

とふざけた顔で樹理に言ってみた。

「えっ?出るって?何が? 」

少し肩をすくめて怖そうな表情で樹理が聞き返した。

「何だろうね」

少しからかう様な顔で健斗が答えると。

「もう、やだ〜」

と樹理は健斗宅への道に足を向けた。健斗は居た堪れない場所から離れる事が出来、ホッとした。

 この偶然の樹理の動きが健斗を罪から逃さないと、何かが言っている様な気がしてならない…。

「僕はこの罪を思い出すのは何回目だろう…」

と心の中で振り返った。

 夕方になり、樹理が帰宅する時間になった。

 父が、

「樹理ちゃん、送ってくよ」

と父が車にエンジンを掛けに行った。

「沢山ご馳走になり有難うございました」

父と母に礼を言うと

「また遊びに来てね」

と母が笑顔でウチの畑の野菜を袋に入れて手渡した。

「こんなに沢山…。お土産まで頂いて…有難うございます」

と樹理は丁寧に挨拶し、僕らは車の後部座席に乗った。樹理が父と母に気に入って貰えて、安堵と嬉しさの中に居た。

 駅までの道の途中に一馬の家がある。一馬の家の近く迄来た時。

「とても立派な、大きな家ですね」

と樹理か何気に言った。

「あそこのは町長の家でさ。昔から金持ちなんだよ」

父が説明した。

 その時、一馬の家の門付近に赤色灯が見えた。パトカーが止まって居たのだ。

 一馬が警察官に連れられてパトカーに乗るところだった。

「父さん、助けてくれるよな!ねぇ、父さん!」と一馬の叫ぶ声と 

「さぁ、パトカーに乗って! 」

と警察官の促す声が聞こえた。

「一馬!…」

いつもであれば堂々とし、何か問題が有れば金で解決してきた町長がオロオロし困惑してる姿は初めて見た。

「あぁ、町長も今回は厳しいだろうなぁ」

と父が話し出した。

「えっ、何が? 」

健斗は町外の高校に通って夕方か晩に帰宅する事が多く町内の事には疎くなって居た。

「健斗知らなかったか?一馬君がね、中学の3年生辺りからヤンチャしてさ。ゲームセンターに夜中迄居たり、万引きしたりしてたんだよ。

 町長はお得意の『お見舞金』をあちこちに渡して無かった事にしてたんた。この前ホームレスのホッタテ小屋を一馬君がぶっ壊して喧嘩になった時は、プレハブを提供して解決させたしな。だけど今通ってる隣町の高校の同級生を一馬君が襲ったそうだけど、この町内を超えたら金で解決とは行かなかったんだろう。こんな小さい町の中の問題なら誤魔化せたけど、この町を越えたらな…通用しないの町長も分からなかったのかなあ…」

 一馬は衝動性を変える事は出来なかったのか。父の話を聞いてまた、あの頃に引き戻された。

「こんな素敵な町にも色々有るのですね」

と樹理が何も知らずに言った言葉が、普通を装う健斗の心に刺さった。

『僕は樹理をどんなに大切に思っても、どんなに勉強しても、過去の罪は消えないんだな。当たり前だけど…。』との思いと同時に、パトカーの中の一馬を見つめながら『僕はもう人を侵す事はしない人間になった。一馬は変われなかったんだ』と自分の言い訳を作り上げた。一馬を軽蔑して自分を無理に正当化しようとした。


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