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僕は償えない  作者: いりこ
25/41

藍香

 藍香の学校生活は充実した物だった。友達にも恵まれ、陸上部にも所属して大会に出場する様になった。

 時々寮に顔を出してシスターや、るかと葵と過ごしたり、

なごみやクラスメイトと街中に出掛けて楽しんだり、活発に過ごしていた。

 なごみは相変わらず勉強が苦手で、テスト前に藍香が指導をした。

 痛みを知ってる者同士の絆は強い。理不尽な傷を負った者同士だからこその、真の友達が集う場所に学校がなって居た。

 そして痛みと悩みがあり、それを克服する事により、更に家族の絆は強まった。藍香はそんな中で心がが成長し、温かみを忘れない誠実な人間と成長して中学3年生になった。


 修学旅行の時期になった。班を構成し、自由行動の行き先も皆んなで考える様になった。

 しかし最近転校して来たばかりの生徒、入江桜はフラッシュバックがまだ治っていなかった。修学旅行自体行けるか不安を抱えていた。

 シスターが

「悩むわね…」

と声を桜に掛けた。

「御免なさい…迷惑を掛けて」

そう呟く桜にクラスメイト達全員は

「そんな迷惑だなんて思わないで。何か良い方法考えよう!」

と話しだした。

「辛くなったら誰かが一緒に居る様にする! 」

「うん、付き添うのは全然構わないわ! 」

「バスの中ならバスを止めて貰って、外に出て

落ち着いたら出発する! 」

 皆んなで案を出した。藍香は

「桜さん、桜さんはどうしたいとか、こうしたら良いとか何かある…? 」

と穏やかに聞いた。

「ええと…ええと……」

桜は黙り込んだ。藍香は

「桜さん、今すぐ答えを出さなくてもいいと思うの。一週間位有れば、ゆっくり考えれるかな」

と言うと

「ありがとうございます。…」

と小さな声で桜はうつむいて答えた。そして班の話し合いは終わった。

 帰りのホームルームが終わって藍香がカバンを持とうとした時、桜が小さな声で

「坂橋さん…良いですか? 」

と声を掛けてきた。2人で話した方が良さそうだと感じた藍香は空き教室に誘った。

「桜さん、疲れたりしなかった? 」

藍香が声を掛かると、

「あっ、ちょっと…疲れた様な…気がします…』桜はうつむいて答えた。そして

「あの…」

と切り出した。

「なぁに? 」

優しく耳を傾けると

「あの…あの…皆さんが優しくて…有り難いと思います。…。でも…いや、その…」

「うん」

藍香は桜が怖がらない様に笑顔で耳を更に傾けた。

「転校してきて…まだ間も無くて…。親切な皆さんに感謝してます…けど…えっと…その…発作と…まだ生活に慣れないのとで…私には修学旅行は難しいかと…」

桜は必死で言った後、殴られるのを構えるかの様に目を硬く瞑った。

それを見て藍香は桜の手をそっと握り

「行けそうにないって言うの、逆に勇気のいる事だったと思うの。言ってくれて有難う。私達一緒に修学旅行行こうと必死で…逆に負担掛けちゃうところだったわ。御免なさいね」

と言うと桜は、恐る恐る目を開けて藍香を見た。

優しい笑顔の藍香を見て『嫌わないで居てくれたの? 』と言いたげな驚いた顔で、どうしたら良いのか困って居た様だった。

「御免なさい、皆さん私の為に考えてくれて、話し合いに時間を掛けて下さって…あの、その…」

「謝らなくて良いの。ちゃんと思いを言ってくれて有難うね。ゆっくりで良いの。ゆっくりで。誰も責めないから」

 藍香は思った。確かによく考えてみたら転校して間もない中で、絆が出来上がっているクラスメイトと修学旅行に行くのは勇気のいる事かも知れない。しかもフラッシュバックがある中で、知らない人と寝泊まりして楽しむ事が出来るか…。

 そう考えると修学旅行で桜と絆を深めようと思っていた事が負担になっても不思議ではないと思い直した。そんな中でも友達になりたいと言う思いを伝える為に、藍香は言った。

「お土産を桜さんに買ってくるのは構わないかな? 」

藍香は椅子に座って俯いている桜の顔を見上げる様に、しゃがんで桜の手を握ったままで尋ねた。

「も、も、勿論ありがたいです。良いんですか?お土産もらって…」

「勿論!食べる物と、思い出に残る物、どちらが良い? 」

「あっ…何でも…あの………ストラップ…」

「うん、分かった、ストラップ、買ってくるから。待っててね」

「御免なさい、ワガママ言って…」

「何もワガママでは無いわ。ちゃんと思いを教えてくれて嬉しいわ」

藍香は桜の傷の深さを察した。無理に心をこじ開けてはいけない。ゆっくり桜が扉を開ける日まで、毎日扉に優しくノックをして呼びかける所から始めよう。と思った。

 シスターが通りすがりに教室の扉の窓からチラッと様子を見た。

桜と藍香の様子を見て、頷いて廊下を通り過ぎた。


 そして修学旅行が来た。桜は寮に入ってる為、寮の窓からバスが出るのを見ていた。

 その時桜のスマホにラインの着信が鳴った。

 開くとクラスのグループラインだった。

「行ってきます」

と藍香からのメッセージが届いて居た。

「いってらっしゃい」

と返信すると。スマイルマークが藍香から届いた。桜は少し微笑みが溢れた。


 その後も他のクラスメイトから1日に2〜3回、修学旅行の写真やメッセージが届いた。

「この温泉まんじゅう美味しい〜(≧∀≦)」

「雨に濡れた〜!私リアル河童‼︎ 」

と変顔の写メ等送られてくる。3日間の後半には、いつしか『さくら』と親しみ込めて誰もが呼び捨てする様になった。

そうすると桜の『あの…』と言う回数も少し減った。桜は『心のドアノブ』に手を掛けた所なのかも知れない。


 数ヶ月すると桜は『あの』と言う事が無くなり敬語で話す様になった。笑顔も増えてクラスの一員になった。

 フラッシュバックはまだ続いて居た為、保健室に行く事も多く、寮でも事務室に行く事も多かった。

 保健室に行くと、クラスの誰かかれかが

「さくら〜」

と声を掛けに来た。そして、桜が身体をベッドから起こすと 

「無理しないで、寝てて〜! 」

と言って桜に布団を掛けた。少しおしゃべりをして、飴を置いて行く生徒がほとんどだった。

 ある日桜がフラッシュバックを起こした後、急に話しだした。

「御免なさい。私、保育園や小学校や中学校でもずっといじめられて居て、友達なんか居なかったんです。

 ここでは皆んな私を虐めないし、仲間に入れてくれて、話を聞いてくれます。なのに…フラッシュバックが治らないんです。ごめんなさい」

「謝る事ないよ」

「長い間辛かったね」

「よく頑張ったよ! 」

「さくらの優しさに漬け込んでタチ悪いよね、虐めてた人達! 」

クラスメイトが皆んなで桜に同調した。

「辛かった事話すのは怖かったでしょ。強くなったんだと思うわ」

藍香が言うと、桜は声をあげて泣き始めた。藍香が桜を抱きしめると、皆んな桜の頭を撫でたり、背中を撫でたり、涙を拭いてあげたりした、

 桜は少しずつ少しずつクラスの中に溶け込んで行った。 

 そして桜のペンケースには藍香のお土産のストラップがぶら下がって居た。


 3月の卒業式の後クラスの仲間は4月になるのを待った。どうしても桜と一緒に修学旅行で行ったコースを皆んなで行きたかったのだ。

「さくらと修学旅行」

その為にクラスの皆んなと桜は、お年玉とお小遣いを貯めた。

 そして中学生の間は市外に出る事は校則違反だった為、高校生になる4月を待った。

 4月1日がとうとう来た。桜も一緒に電車を使い安い温泉旅館に泊まり、修学旅行で行った湖や神社、歴史深い建物を見て回った。

 桜はきっと前の学校ではただの苦痛であったであろう修学旅行を、信頼出来る仲間と楽しんでいる事が嬉しくて堪らなかったのか目をキラキラさせて居た。そして大切な仲間と共に宿に泊まり、食事を堪能して、夜通し笑って話をした。

 朝食に向かう時、桜は藍香を呼び止めた。

「これ、私からのお土産です」

と言って藍香に渡した。

「えっ、ありがとう!何だろう…」

開けると、藍香が桜に買ったストラップの色違いが入っていた。

「あっ!お揃いだわ、嬉しい!さくらありがとう! 」

桜はクスっと笑って、

「友達とお揃いを持つのが夢だったんです」

と照れ臭そうに言った。

「嬉しい…。お揃いだね」

「お揃いですね。でも皆んなもだけど、藍香さんどうして私の気持ち分かるのが上手いのですか?いつも理解して馬鹿にしないで、寄り添ってくれるじゃないですか」

「そう言ってくれると本当に嬉しい。きっと、さくらと仲良くなりたくなったんだと思う。前にさくらは自分の今迄の事話して居たけど、私も傷を持ってたのを皆んなに助けてもらったんだ。シスターが言ってたの。昔の辛い事はどうでもいい事にすると良い。そして幸せや喜びを噛み締めて楽しむと良い。そうすればかつての痛みは強さになるって教えてくれたの。今の自分が強いかは分からないけど、痛みが辛いのは分かるかな。」

「私も…強くなれるでしょうか…」

「さくら、強くなったよ。笑う様になって、皆んなと友達になって。私の友達になってくれてありがとうね」

「はい! 」

 藍香がストラップを旅館の廊下の照明にかざすと、キラキラとシルバーの部分が光った。

 すると桜は、持って来ていた色違いで少し色褪せたストラップをポケットから出し一緒にかざしてみた。

 桜のストラップも鈍く光った。

「私達は友達だね」

「はい」

 

 締め切って鍵を掛けていた桜の心…。桜の心の扉は開かれて、そこから彼女はぎこちない足取りで出て来たのかも知れない。

 虐められていた年月の方が圧倒的に長い。孤独であったであろう。自分をどうしたら虐められなくなるのだろうかと日々考えただろう。

 何か試してみたこともあったであろう。しかしそれを遥かに超えて虐めは続いたのであろう。

 親に心配掛けまいと家では笑顔で傷を隠して来ただろう。

 自分を守る為に閉じこもったであろう。否定され続けて自分でも『自分の価値』を見失ったであろう。

 でも思ったはずだ、

「何で私を虐めるの?虐めを止めて!」

と。虐める側が悪い事も分かって居ながらも 自分の価値を見出せなかった。

 でも桜は悪くない。多いに笑って構わない。多いに喜んで構わない。

 未だに敬語だとしても、おしゃべりをして構わない。むしろ敬語は、今迄虐めの中で耐え抜いた証だろう。敬語で友達と話しても人を思う心が有るのだから、それで良い。

 桜が素直に喜ぶ事が出来るならこれで良い。ぎこちなくても、心が綺麗で有れば良い。

 桜も過去から少し脱皮し掛けているのかも知れない…自分が過去から脱皮して来た様に…。

 誰かが辛い過去から脱皮するのを見ると、共に喜びが湧いてくる…。と藍香は思った。

 その日に電車が地元の駅に着き、2度目の修学旅行は終わった。


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