藍香
とうとう引っ越しの日が来た。
荷物を積んでいる時に有紗が走って来た。
「藍香〜!藍香〜! 」
と呼びながら。
ハア…ハア…ハア…と息を吐き眉間にシワを寄せて哀れみに満ちた表情だ。全てを覚って私の痛みを一緒に抱えてくれているのが伝わって来た。有紗が
「何も出来なくて…ごめんね。力になれたら良かったのにね。ごめんね…ごめんね」
と何度も謝ってた。
「有紗、謝らないで。私、有紗がいてくれた事だけが学校の大切な思い出なの。有紗、いつもありがとう。有紗の思い出だけ向こうの家に持って行く。ずっと有紗の思い出を大切に持ってるから」
と言うと、
「藍香…、私そっちに遊びに行くからね!絶対行くから! 」
と涙でぐしゃぐしゃの笑顔で答えた。
「うん、待ってる」
藍香も涙でグチャグチャだった。藍香は車に乗り、窓を全開にした。お互い見えなくなるまで手を振った。
この町の中で只1つの悲しい別れだった。
車が進むと畑や山の風景から、ビルが並ぶ風景と変わって行った。そして10階建てのマンションの駐車場に車は入った。ここが新居だ。
新しい我が家のマンションは4階にあった。エレベーターは知らない人と一緒になるのが怖くて、階段を使う事にした。最近トレーニングもしてなかったから丁度良いと考えた。
新居での新しい生活では、
父は、藍香がリビングに来る時には今も寝室で過ごしてくれた。
藍香は父へ感謝しながらも、負担をかけている事の罪悪感を感じた。
来週から学校の寮生活となるが、父への負担を掛けずに暮らせる自分になりたい…。家族揃って笑い合える様に…。母がそっと言った。
「気負わなくて良いわ。私達家族の絆はこれ位で壊れたりしないから」
母の笑顔は強がって居なかった。
「……うん! 」
きっと大丈夫…大丈夫…。藍香は母の言葉を大切に受け止めた。




