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僕は償えない  作者: いりこ
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聖白百合学園

 見学の際に藍香は、礼儀を重んじて制服を着るべきでは思った。 

 しかし制服を着る事に強く抵抗を感じ、ただ横目で見ていた。

 母が 

「藍香、このスカートと白いブラウス着て見学の日には行こう」

と新しい落ち着いたチェックの柄のスカートを用意してくれた。

「お母さんありがとう」

何が辛いか察してる様に母は制服をサッと持ち

「これ、洗濯するわよ」

と持って行ってくれた。母のお陰であの時を思い出させる物が1つ部屋から消えてくれた。


 当日、母の運転する車で見学先の学校に向かった。

 ナビに従って行くと、引っ越し先のマンションから電車で駅2つ先の所に学校はあった。

『聖白百合女子学園』と書かれた校門を車で入って行き駐車場に止めて降りた。広大な規模の敷地が広がり何処がが中等部の校舎で高等部の校舎は何処か、寮は…と2人は迷いそうになった。

 1人のシスターが近寄って来て

「坂橋藍香さんとお母様ですか? 」

と微笑みながら声を掛けた。

「あっ、はい」

「お会い出来るのを楽しみにしていました。ご案内致しますね」

優しく気さくな話し方で歓迎され、2人は少し安堵した。

 中等部の校舎の前には、大きなグラウンドがあった。思わず藍香はグラウンドに目をやった。

「藍香さん、スポーツお好きなの? 」

「あ、はい」

遠慮がちに答えた。

「まあ素敵。スポーツは宝よ、料理が趣味だと私みたいに太っちゃうもの」

恰幅の良いシスターが笑いながら言った。その後も続けて

「放課後は部活でグラウンドを使う生徒も勿論居るけどね、部活に所属しなくてもここの生徒であれば自由に使って良いのよ。ここの生徒達の中には、チームプレイが好きな子も居れば…1人でスポーツをしたい子もいるの。1人でテニスの壁打ちをずっとしてる子も居るのよ。この学校で大切にしている事は『人を大切にする』事なの。チームプレイでも、個人でのスポーツでも、スポーツでもスポーツでなくても、いつでも一人一人を貶す事なく思いやって過ごしてるの。だから不思議に見える行動をしている人を見ても、どんな人を見ても決してバカにしない良い生徒達ばかりなのよ」

と、愛の溢れる笑顔で話してくれた。

 それは藍香がどんな辛さを持っていても、誰も皮肉を言ったりバカにしないと言ってるかの様だった。

 シスターは、2人を中等部校舎内の応接室に案内した。

「藍香さんはブラウニーお好き? 」

と言って、何やら持てなしの用意を始めた。

「あっ、はい」

「良かったわ〜。私の自慢のブラウニーを紅茶と一緒に召し上がって」

綺麗な皿に盛られたブラウニーとら白いティーカップに紅茶を注ぎ入れ、藍香と母に差し出した。

「ありがとうございます。」

「頂きます」

一口頬張ると、濃厚なチョコの味が広がった。

「美味しい…」

藍香が呟くと

「あらー嬉しいわ。甘い物やチョコレートを食べると幸せな気持ちになるのよねー」

屈託無く微笑むシスターとの会話に心が解けて行くのを親子て感じた。

「藍香さんは将来の夢はある?」

シスターが『何故ここに見学に来たのか』とはあまり関係なさそうな質問をするので藍香は不思議に思ったが、答えを探した。

「えー、まだ決まってませんが…。英語は将来も大学で学びたいです」

「あら、英文科の大学?素敵ねえ。英語を使えると社会で強みになるものねぇ。いえ、社会と言うか世界で通用するわね。素晴らしい、応援するわ。貴女ならきっと叶うわ」

自分を責める事が多かった藍香は、褒められて戸惑った。が嬉しかった。しかしずっと心の傷の為に学校に行けてない事や、父に顔を合わせれない事、母に迷惑を掛けている事、自分が汚いとしか思えない事等を抱えて素直に受け止めて良いのか身の置き場を探す思いだった。

「戸惑わないで。貴女は克服しよう…何かを変えようとここへ今日来たのでしょう。今から貴女の理解者、いや貴女が理解者となれる場所へ行ってみましょう」

とある教室に案内された。その教室では、5人程の生徒が椅子を輪の様に並べて話を始める所だった。

 そこに集まった生徒は、藍香と同じ性被害を受けた生徒達だった。その心の傷や今の思いを話したり、仲間の話を聞いて考える授業だった。

 1人の生徒が

「私は…母が癌になって入院した時に、いとこの家に預けられました。…その時にいとこのお兄ちゃんから…。怖くて声が出なかった…。

 毎晩お兄ちゃんが私の部屋に来るけど…叔父さんや叔母さんには、恥ずかしくて怖くて言えなくて…。一度逃げようとしたけど…膝を思い切り殴られてました。母も辛い治療頑張ってるのだから私も我慢しなければと思って耐えました。でも毎日いとこの足音が私の部屋に近づくのが怖くて耐えられなくなり、ある日いとこの家から夜中逃げたしました。

 そしたらお巡りさんに声かけられて…。膝にアザが有るのを見たお巡りさんが

『どうしたの?このアザ』

と聞いたんです。

その時堪えていた物が弾けだと思います。震えて泣き出してしまって…。

 お巡りさんが優しく、ゆっくり話を聞いてくれました。いとこの事を話したら…。お父さんと叔父さんと叔母さんが呼び出されました。事情を聞いた叔母さんが

『うちの息子がそんな事するわけ無い!何かの勘違いです』って言って私を睨みました」

 この話を聞いていた藍香は、自分と同じ立場の人が目の前に居る事に只々驚き共感した。

 その生徒の話は続いた。

「叔父さんと叔母さんにお世話になってるのに迷惑をかけたく無いし、病気のお母さんにも心配掛けるし、お父さんも叔父さん叔母さんとの関係が悪くなると困ると思って自分を責めてました」

 藍香は頷きながら涙を浮かべた。自分の事の様にこの話が心に入って来る。初対面の生徒の傷が痛い程分かった。

その授業をしていた教師のシスターが

「彼女に罪が有ると思う人はいますか? 」

と生徒に問いかけると、生徒は皆んな大きく顔を横に振った。

「そうね。彼女は被害者よね。じゃあ、自分を責めてしまった事のある人は手を上げて」

 全員が手を挙げた。藍香も心の中で手を挙げた。

「そう、自分を責めてしまう人って多いの。でも貴女達は、何も悪く無いの。

 話してくれた彼女が幸せになって欲しいと思う人は手を上げて」

 全員が手を挙げた。藍香も気付けば手を上げていた。

「皆さんも同じ、幸せになって良いのよ」

教師の言葉が藍香の心に染みた。そして藍香の母にも。

側に居たシスターが、そっと言った。

「貴女は試験を受けなくても、ここの生徒として学び取れる子と分かりました。ここに転校したければ、いつでも願書を持って来てね」

と藍香の肩に優しく手を置いた。

「はい! 」

久しぶりに元気な藍香の声を耳にした母は、涙を抑える事が出来なかった。藍香も母の嬉しそうな顔を見て幸せを噛み締めた。

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