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僕は償えない  作者: いりこ
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藍香と有紗 そして学校

 有紗が藍香の部屋に遊びに来た。きっと被害届の噂は有紗の耳に入ってる筈だ。有紗はそんな事は無かったかの様に、いつもの屈託ない話しをして居た。藍香も楽しくて一緒に笑った。

 そんな中で藍香は有紗にその内引っ越す事を話した。有紗は凄くビックリした顔をしたが、しばらくして目を伏せて、

「そうだよね…ここに居るの辛いよね…。藍香には側にいて欲しいけど…、一緒に学校に行きたいけど…、一緒に修学旅行も行きたいし、一緒に卒業もしたいし…。でも、ここに居たら、藍香が涙を堪えなくちゃならなくなるもんね。私は何処に居たって藍香の幸せを願ってるから。藍香の友達だから! 」

と藍香を抱きしめてくれた。

さっきまで2人で笑ってたのに、2人で思い切り泣いた。有紗は私に何があったのか、噂で知ってるはず。でもその事は何も言わないで、いつもの有紗で居てくれる…。

 擦り過ぎた腕の傷がヒリッとして「うっ」て声が出てしまった。

有紗がとっさに藍香の腕を見た。腕が赤く擦り傷だらけなのを見て愕然として固まった。有紗は

「塗り薬有る? 」

と聞いた。

「うん」

と言って引き出しから持ってきて渡すと、優しく塗ってくれた。

「こんなに傷付いて…頑張って…。痛いよね。傷も心も…。痛いのに頑張ってるんだね」

と言って声を震わせて涙を流しながら塗ってくれた。有紗の薬を塗る手は温かかった。

 有紗はあちこちから入ってくる藍香が襲われて被害届けを出した噂に苛立ちを感じて居た。『藍香が誘惑した』とまで…。藍香の傷付いた話を面白おかしく話す人達の無神経さを苦々しく思った。藍香はそんな悪意を持った人間では無い!何故本当の事を知りもせず、上っ面の尾鰭の付いた話を皆んな鵜呑みにするのか…。

 有紗は藍香の腕の傷を見て、どんなに辛かったか大体の事を察した。こんなに傷付いた人を『噂』と言う武器を振り回す人に、更に傷つけられている藍香を見て只々涙が溢れた。

 藍香も有紗が多くを察し、問いただす事なく共に痛みを理解してくれる事に涙が込み上げて有紗に抱きついた。2人は再び抱き合いながら涙を流した。暖かい涙をハラハラと流し、今起きてる理不尽が2人の絆を壊しはしないと確信した。


 数日後、父が予約した病院から

「受診のキャンセルが出ましたが、受診されますか? 」

と連絡があり、病院の予約が取れた。


 予約日当日に母の運転する車で訪れた病院は、一歩入ると小綺麗で優しい色のソファが並ぶ落ち着いた待合室だった。

 受付の女性スタッフが物静かに

「坂橋藍香さん、問診票の記入をお願いします」

とファイルを持ってきた。

「書き終えたら受付に持ってきてください」

と会釈をして受付に戻った。

 母が問診票を書いていた。藍香は何となく何が書かれて居るか気になったが、母を信頼して任せることにした。


 問診票を書き終えてから30分位待っただろうか。

「坂橋藍香さん、診察室へどうぞ」

と呼ばれた。診察室に入ると白髪混じりの優しい笑顔の女医が

「こんにちは、私は医師の松山由美子と言います。よろしくお願いします。先ずは娘さんからお話を聞いて、その後お母さんからお話を聞いても良いですか? 」

と診察の手順を案内してくれた。

「はい」

と2人で答えると、母は診察室の外に出た。

「あら、住所を見ると遠くからいらしてくれたのね。お疲れ様。何時に起きたの?」と聞かれ藍香は

「6時半です」

と答えた。

「そう。普段は何して過ごしてるの?」

「母にドライブに連れて行ってもらったり…学校行ってた頃の友達が来たり、勉強したり…」

「あら、アクティブねー。じゃあ3回ちゃんとご飯食べてるのね」

「はい」

他愛無い感じの話で藍香がリラックスすると、少しづつ症状、きっかけとなった出来事等を聞かれ、藍香は素直に答えた。時に震えて涙が溢れたりすると、女医は手を取り

「辛かったね。頑張ったね」

と受け入れて、急かすことはなかった。藍香に足並みを揃えるかの様に問診は進んだ。そして身体を洗って擦って出来た擦り傷を見た医師は、

「痛いね。心が辛い痛いって言ってるのね。嫌な物を洗い流したかったのね。この傷も治ります。そして、貴女の心の傷も。ちゃんと治療すれば治ります。だから焦らずゆっくりと治療していきましょう」と言った。

 力強くて揺るがない希望をくれる言葉に、トンネルの出口がある事を知らされた思いになり、光がいつか見えて来る…苦しみに終わりがあると感じた。

 藍香の後に医師と話した母も、光を見る為の道案内をされた気持ちだった。

受診後ら車での帰り道『この傷も心の傷も治ります』と主治医に言われた言葉を母と藍香は心の中に何度もこだまさせた。

 それから2週間に1回 受診し、処方された不安時の頓服をフラッシュバックが起きそうな時に藍香は服用していた。

 ただ父と顔を合わすのは、まだ克服できずにいた。


ある日、医師が提案してきた。

「今日はね、お母さんと娘さん一緒にお話ししましょう」

と診察室へ招きいれた。

「藍香さん、引っ越しと転校を考えていらっしゃるのよね? 」

「はい」

母と藍香が答えると

「せっかく転校するなら…良い学校を選びたいですよね」

との医師の言葉に、2人は目を見開いた。

「良い学校…有るんですか? 」

母が声を裏返して、食いつく様に尋ねた。

「この学校、良いと私は思うのですが」

とパンフレットを渡しながら医師は説明を続けた。

「公立の中学校に行けば男子生徒も居る。先生の中には男性教師も居るでしょう。登下校中も男性とすれ違う。そんな事で出来るはずの回復を削がれて欲しく無いんですよね」

「はい。そこが不安だったんです」

藍香と母は期待を持って良いのか…と鼓動が強く鳴るのを感じた。

「この学校はキリスト教系の女子中学校と高校でして、教師やスタッフ全員がシスターです。寮もあるので、ご希望であれば寮に入る事も出来ます。寮のスタッフもシスターです。

そして寮は学校の敷地内にあるので、男性と顔を合わす事は滅多に無いでしょう。顔を合わす人が全員女性という事と、心に傷を負った生徒のケアにも力を入れて居るので、藍香さんの安心材料の1つになると思います。似たような経験をしている生徒も多いので理解者が多くなると思うのですが、いかがでしょう?検討も必要だと思うので『こう言う方法も有る』と言うくらいに考えて、ご家族で話し合われると良いと思います」

 藍香と母はら寮生活と言う事に驚いた。しかし今の藍香でも通う事の出来やすい学校がある事に希望を持たずに居られなかった。

 また藍香としては、寮に入れば父に気を使わせながら生活しなくても良い事もホッと出来る材料でもあった。

 帰宅後、父と母がパンフレットを見ながら話し合った。父もこの学校に好印象を持った。結論は『まずは 見学してみよう』と言う事になった。

 直ぐ母は見学の連絡をし、数日後出向く事となった。


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